協力するわ!!
午前中の授業はずーっと席に着いたまま。
移動教室なんかもなくて、マリオンちゃんに話しかける機会は全くなかった。
授業の間の休み時間は短いし、席も遠いからなぁ。
エリヴィラちゃんみたいに近かったら、ちょくちょく話もできるのに。
なので、お昼には絶対に誘おうと決めていた!
グループで食べてるなら、グループごと誘えばいいよな。
大きなグループだったら座る場所を広く取らないと!
などと考えていたが、マリオンちゃんは一人だった。
どうやら普段は、ドラゴン娘のメフティルトちゃんやサキュバスっ娘のロズリーヌちゃんたちと食べていたみたい。
モンスター娘ちゃんたちは、やっぱり食べるものが俺たちとは違うんだよなぁ。
三種類もメニューがあるから、普段はそこから食べられるものをチョイスしているけどかなり偏ってるし。
メフティルトちゃんは、よく肉だけをこんもり皿に山盛りにするのをよく見る。
肉の他に食べるのは果物ぐらいかな。
肉も果物もしっかり料理されたものは苦手らしく、肉なら焼いただけでソースとかはナシで。
果物もカットしただけみたいなのを好んでいるっぽい。
ロズリーヌちゃんは、もっと偏食でミルクと卵しか食べない。
あ、後イクラとかキャビアとかは食べてたか。
……あー、あれも卵だな。
魚卵だよ。
そんなのなので、今日は二人連れ立って特別食堂に行っている。
特別食堂ってのは、メニューに食べられるものがない子たちに特別メニューを出す食堂らしい。
らしいってのは、俺は行ったことがないから。
だって、三種類の中でさえどれを食べるか迷うレベルでおいしそうだしね!!
和食がある時は、和食一択だけど!
とまぁ、そんな訳で本日マリオンちゃんは一人だったので、これ幸いと呼んできた。
ん、ふー!
やばい、幸せだ。
黒髪ストレートエリヴィラちゃんと、三つ編み眼鏡エリヴィラちゃんことマリオンちゃんが並んでお昼を食べている。
いい!!
双子じゃないけど、双子のビジュアルを楽しめる!!
「ごめんなさい、入れてもらっちゃって」
マリオンちゃんがもじもじとお礼を言う。
「いいのよ。みんなで食べたほうがたのしいし」
「でも、姿を借りているのに……」
「私は気にしないわ」
エリヴィラちゃんが、食べる隙間に言う。
「そ、そうですか、みんな嫌がるんですけど」
「まぁ、それは仕方ないんじゃないの?」
グローリアちゃんがちょっと顔をしかめる。
「そっすよね」
「うん~」
イルマちゃんとラウラちゃんも合意と言う感じで、うんうんと頷く。
「あぅ~」
マリオンちゃんはしょぼんと俯いて、もそもそとパイを口に運ぶ。
どうやらマリオンちゃんが他の子の姿を借りるのは、あまり歓迎されていないらしい。
……ぶっちゃけ、その理由は俺にもわかる。
自分の姿を客観的に見るのって、よっぽど自信がないとヤダよな。
写真とかはまぁ気合入れてるからともかく、気を抜いた自分の姿を一日見せられるとか拷問だって娘もいそう。
それに加えてマリオンちゃんは、動きとか話し方がいちいちかわいいのだ。
あざといと言ってもいい。
ふっるーい言葉で言うところのぶりっこ?
パイを食べる。
これだけのことでも、エリヴィラちゃんはナイフとフォークを使ってきれいに切り分けて口に運ぶ。
パリパリ砕けて食べにくいのに、皿には最小限のパイのかけらとソースしか残らない。
それに対しマリオンちゃんは、パイを両手で持ってちまちまとかじるのだ。
うん、かわいい!
かわいいけどあざとい!
これを自分の姿でやられるとしたら、嫌がる女の子は多いはず。
これ、男にあてはめたら、ずっとスタイリッシュくさい動きとか、キザなことばっかり言ってる自分と同じ外見の野郎がいるってこと。
うっわ、やだなー。
スタイリッシュキザなもやし野郎とか見たくないし、めちゃくちや恥ずかしくなること請け合いである!
だけど彼女はカワイイ。
あざといエリヴィラちゃん(マリオンちゃん)もかわいいのだ!!
あー、パンが進むわー。
バターもジャムもなしでも甘々ですわー。
「ごめんなさい。ワタシも姿を借りるのはよくないと思うんですけど、しっかり観察した人じゃないとちゃんと擬態できなくて」
「なるほどー。それで同級生の姿を借りるのね」
「はい……誰の真似でもなく擬態するのはとても難しいんです」
んん?
難しいってことは……
「それは、できないわけじゃないのね?」
「はい。でも、どうにもおかしくなってしまって」
「それじゃあ、今のエリヴィラちゃんの姿のまま、グローリアちゃんの耳をつけるなんてできるかしら?」
「ええっと、ええっと」
マリオンちゃんは残っていたパイを口に押し込んで、ぺろりと指を舐めてからまじめな顔になる。
ふるる。
人間じゃありえない動きでマリオンちゃんが震えたかと思うと、エリヴィラちゃん姿の頭から、にょきっとグローリアちゃんのふさっとしたキツネ耳が伸びた。
「ど、どうでしょうか?」
かっわいい!
ん、だけど……なんか変?
「なによそれ。髪質バラバラじゃない。髪色も違うし」
グローリアちゃんが唇を尖らせる。
あ、なるほど、髪質か。
ふわっとした毛のグローリアちゃんの耳が、つやつやのエリヴィラちゃんの髪の間から延びているのは確かに妙だ。
「あと、毛の流れどうなってるんすか?」
「途中で消滅してるし~」
イルマちゃんとラウラちゃんは細かいところを鋭く突いてきた。
言われてみれば、きっちり三つ編みではっきりとわかる髪の流れのど真ん中に突然耳が出現している。
毛の流れが突然消えて突然現れているので、作り物の耳をちょこんと置いたみたいで不自然だ。
「それどころじゃなくて、耳が四つになっているわよ」
エリヴィラちゃんがため息とともに言う。
あ、本当だ。
エリヴィラちゃんの人間の耳と、グローリアちゃんのキツネ耳で四つあるな。
「そのせいですかぁ。なんかくらくらしますぅ」
マリオンちゃんは、狐耳を手で押さえて数度撫でる。
それだけで、キツネ耳は黒髪の間に沈んでなくなってしまった。
「うーん。ただ足すだけじゃおかしなことになるのね」
「はいー。両親は自分だけの人間の姿を作ってますけど、ワタシはまだできてなくて……皆さんに迷惑かけてますぅ」
マリオンちゃんはショボーンを全身で表す。
「自分だけの人間の姿か。できるといいわね」
「はいー」
ん? 待てよ?
自分だけの人間の姿。
それってアレじゃないですか?
理想の美少女の姿を作れる。
ってことじゃないですか!?
それこそ、百合アニメのあの子だって!!
いや、姿を作れても一人だけじゃなぁ。
ペアでないと意味ないし。
それはともかく絶世の美少女だって、俺の好みど真ん中の外見だって作れるわけ!
「マリオンちゃん、協力するわ!」
「はえ?」
「マリオンちゃんが自分だけの人間の姿を作れるよう、私が協力するわ!!」
「い、いいんですか!?」
「ええ、できることならなんでも!」
「あ、ありがとうございますぅ」
マリオンちゃんは泣き笑いの顔。
うーん、エリヴィラちゃんはしない顔、いいですな!!
「私も協力するわ。その方がお互いのためになるし」
昼食を一番早く、一番きれいに食べ終えたエリヴィラちゃんが、ナプキンでそっと口元を抑えて言う。
「お義姉さまが協力するなら、アタシだって協力するわ!!」
「グローリアさんがやるなら~」
「まぁ、手伝うっすよ」
うむ、グローリアちゃんたちも参加か。
「ふぇ。ありがとうございますぅ」
さらに激しくくしゃくしゃの泣き笑いになるマリオンちゃんを、エリヴィラちゃんが複雑そうに見る。
うん、気持ちはわかる。
すんごいあざとカワイイしぐさだもんなぁ。
俺のため、マリオンちゃんのため、擬態されて複雑な思いをする女の子たちのため!
俺がひと肌脱ごうではないか!




