ぷにょぷにょ
はぁーい、これ経験ありまーす!
リゼットちゃんと会った時ね!
あのおっきいおっぱいを、ぎゅうぎゅう押し付けられた時ね!
だが違う!
あのふんわりあったかくて、ちょっと苦しいけど幸せの感覚とはまた違い、こっちはひんやりぷにょんぷにょん。
自分で持っているからわかるが、このぷにょんとした柔らかさは確実におっぱいではない!
つか、息ができない!!
「お義姉さま、大丈夫ですか!?」
グローリアちゃんが、タックルで抱き着いたそのままの形で、今度は引っ張ってくれる。
「ぷは。ありがと。それからおはよう。グローリアさん」
「おはようございます!」
にこやかに挨拶をしてから、自分が顔を突っ込んだものを確認すると……
さっきまで三つ編み眼鏡エリヴィラちゃんが座っていた椅子には、一抱えほどもある薄ピンクで透明感のある何か。
なんか、和菓子の水まんじゅう? とかにありそうなフォルム。
透明感はゼリーだけど。
「きゃ!」
思わず声が出る。
だって、だってこれって!!
「はわわわわ! ごめんなさい、ごめんなさい! 普段擬態が解けることなんかないんですけど! はわわわわ」
プルプル小刻みに震えるこれは!!
スライムだ―!!
「マリオンさんはスライムなんです。擬態していないと不便なのですが、いつも同じ人だと混乱するので、日替わりで別の人になっているんです」
エリヴィラちゃんが説明してくれているが、俺の耳には入らん。
だって、スライムだよ!!
異世界において、最弱であり最強と言われるモンスター、スライムだよ!!
これが興奮せずにいられるか!!
「かっ、かわいい!!」
「ふえっ?」
なんて、口走ってしまうのもいたしかたあるまい。
だってスライムだし!
ピンクで透明感があって、なんかぷるぷるしてるし!!
触りたい!
いや、いかんいかん。
スライムと言っても、女の子には違いない。
いきなり触るなんて痴漢だろ!
……いや、痴女か? とにかく!!
「マ、マリオンちゃん、触ってもいいかしら?」
「はひっ!? あう……いい、ですけど……」
「ありがとう!」
そーっと指先で触れてみる。
ふれた瞬間にマリオンちゃんはぷるるっ、と一度小さく震えただけでじっとしている。
触れるとちょっとひんやり。
触った感じはすんごく柔らかい水風船かな?
表面はべたつきがなくて薄い膜が張ってるみたいにちょっと固い。
けど、その下はぷにょぷにょで、手にちょっと力を入れたらどこまでも沈んでいきそう。
女の子にそんなことできないけど!
けど、けど、贅沢を言うなら……
「抱っこしてみてもいいかしら?」
「ふぇっ!? 抱っこ!?」
「だめかしら?」
「……いいです……けど」
「ありがとう!」
椅子の上のマリオンちゃんをそっと抱き上げる。
ふむふむ。
重さとしては、同じ容量の水とおんなじぐらいかなぁ?
このくらいの重さなのに、エリヴィラちゃんの姿になれるのか。
魔法の力なのかなぁ?
大体質量保存の法則とか……いや、それがこの世界に適応するか謎だし、どうでもいいか!
「かわいいわねぇ」
なでなで。
いや、もう、ほんとかわいい!
俺も人並みにゲームとかして育ってますから、スライムとかおなじみなんですよ。
おなじみなのに、会ったことがない夢の存在で……
子供のころ憧れてたヒーローに会って、握手してもらったみたいな感動なわけで!
「うふふ。ぷにょぷにょねぇ。かわいいわぁ」
マリオンちゃんは、俺の腕の中でプルプル震えて、色もちょっと濃くなったような?
「お義姉さま、大丈夫なんですか!?」
「何が?」
「その、スライムに触ると溶けるとか聞きますし」
グローリアちゃんとエリヴィラちゃんが心配そうに俺とマリオンちゃんを見る。
「溶けるの?」
「だだ、大丈夫です!!」
マリオンちゃんが話すと、震えるって言うより振動するって感じの震えが伝わってくる。
この振動で声を出しているのかな?
「きょ、強化してますから、表面は溶けないです!」
「じゃあ、強化してないと溶けるの?」
「溶けないです! 溶けるけど、溶けないです! 生きてるものは力が強いので溶けないです!」
「力が強いから」
ふむ、それは生命力とかそんな感じ?
生きてるのは溶けない。
ならば、生きていなければ溶ける。
すなわち……
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
ぷるるる!
「ひゃっ!?」
俺の腕の中にいたマリオンちゃんが激しく震えたかと思うと、突然はじけた!
突然に体積を増し、噴水のように噴き出した。
「ななー!?」
「やっ!」
薄ピンクの液体状になったマリオンちゃんは、グローリアちゃんとエリヴィラちゃんに覆いかぶさるように降り注ぐ。
「グローリアさん!?」
「大丈夫っすか!」
その様子に後ろに控えていたラウラちゃんとイルマちゃんが駆け寄り、グローリアちゃんを助け出そうとするが、
「えぇ~?」
「なんなんすかぁ!?」
二人ともピンクのぬめぬめと化したマリオンちゃんに絡みつかれてしまう。
「ふぇぇ。ごめんなさぁい! なんか、変なんですぅ!」
ぬめぬめのマリオンちゃんが謝る。
慌てた泣きそうな声で、これが彼女の意思でないことがわかる。
「いいから、離れてちょうだいよ!」
「ふえっ!」
グローリアちゃんにきつく言われ、マリオンちゃんはブルブルと震えるが、どうにも離れることはできないようだ。




