そっくりさん?
え? なんで?
どういうこと?
実はエリヴィラちゃんは双子で、もう一人は俺が学園に編入してからずっと休んでいた!
……ってことはない。
だって、いつもモーリア先生が出席を取って、
「はい。今日は全員出席ですね」
とか、
「今日は○○さんが欠席です。最近気温の差が激しいのでみなさん気を付けてくださいね」
とか、丁寧に言ってくれる。
なので、誰かがずっと休んでるってのはありえない。
ずっといたけど、今まで気づかなかったってのはもっとありえん。
気づく!
絶対気づくって!!
だって、そっくりの双子とかそんな美味しいシチュエーション、俺が見逃すはずがない!
……じゃあ、なんでエリヴィラちゃんが二人いるの?
俺は目の前の三つ編み眼鏡エリヴィラちゃんと、ドアの前の黒髪ストレートエリヴィラちゃんを交互に見る。
黒髪ストレートエリヴィラちゃん。
三つ編み眼鏡エリヴィラちゃん。
黒髪ストレートエリヴィラちゃん。
三つ編み眼鏡エリヴィラちゃん。
もいっぺん、黒髪ストレートエリヴィラちゃん。
うむ。
完全に同一人物では?
もしかしたら見間違えで、雰囲気が似てる子だったり?
とか思ったけど、何度見てもそっくり。
そっくりと言うより、二人ともエリヴィラちゃんだよね、これ。
なんで!?
「ああ、今日は私の番なの?」
と、黒髪ストレートエリヴィラちゃん。
「はい……。ごめんなさい」
と、三つ編み眼鏡エリヴィラちゃん。
「あの、どういうこと?」
わかってないの、教室のの中で俺だけみたい?
「え? ああ。お姉さまが来てから、このクラスの順番が来たのは初めてでしたね」
「順番?」
黒髪ストレートエリヴィラちゃんが、三つ編み眼鏡エリヴィラちゃんの机までやってくる。
やっぱりそっくりと言うより同一人物。
だけど、三つ編み眼鏡エリヴィラちゃんのふにゃっと泣きそうなのを我慢している表情は、俺の知ってるエリヴィラちゃんじゃない。
なので三つ編み眼鏡エリヴィラちゃんが、エリヴィラちゃんのそっくりさんだ。
「エリヴィラさん、私にはどうなっているのかさっぱりなんだけど。このクラスにエリヴィラさんのそっくりさんなんていなかったわよね?」
「えっと、何から話せばいいのか。とにかくその私の姿をしている人は、マリオン・ルールさんです。
「マリオンさん?」
マリオンちゃんって言うと、魔法実技の時におんなじあぶれ組にまとめられたマリオンちゃん?
いやいや、マリオンちゃんはもっと小さくてぽややんとした、エリヴィラちゃんとはまったく似てない子だったはず。
「え? このクラスにはマリオンさんが二人いるの?」
そんなことなかったと思うけど。
「いえ、一人です。あの時ゴーレムの暴走に巻き込まれたマリオンさんです」
「はい……そうです。あの時はありがとうございます」
「えええ?」
どういうこと?
「マリオンさんの魔法は『擬態』なんです。なので今日は私に擬態しているんです」
「擬態。擬態ね。なるほど、そういうことなのね!」
はいはい、なるほど合点がいきました!
「それにしてもそっくりねぇ」
黒髪眼鏡エリヴィラちゃんこと、マリオンちゃんをまじまじと見る。
うん、そっくり。
マジ、そっくり。
表情で違うとはわかるけど、無表情だったら気が付く自信がない。
「あぅ~」
「声もそっくりねぇ」
「あぅ、そんなにじっと見られると、はずかしぃです」
うぉー!!
気弱な感じにもじもじしながら赤面するエリヴィラちゃん(マリオンちゃん)新鮮―!
「ごめんなさい。あ! そうだ、ゴーレムの時大丈夫だった? ケガはなかった?」
「そ、それは、平気です。ぜんぜん問題ないです。すいません、ワタシなんかのためにケガをさせてしまって」
「なんか、なんて言わないでほしいわ。本当によかったわ、ケガがなくて」
「あのあの、けど、もう、あんなことしないでください」
「それは、どうかしら? 誰かが危ない時に助けるのは当たり前でしょ? あなたがどんなに強くても、助けられる時には助けるわ」
「でもでもっ」
マリオンちゃんは、落ち着かない様子できょろきょろとあたりを見回す。
「お姉さま、ああいった時にはマリオンさんは大丈夫なんです」
エリヴィラちゃんもちょっと困ったように言う。
「大丈夫と言ったって……」
「マリオンさんは、物理攻撃が効かない体質なんです」
物理攻撃が効かない体質?
それって、
「物理攻撃無効!? すごい! すごいわ!」
流石異世界、そんな体質もあるのか!
「あ、そんな、そんな。ワタシのは種族特性みたいなもので、代わりに魔法にはすごく弱くて」
「種族?」
それって……
「お義姉さま! おはようございまぁす!」
グローリアちゃんの声――
「はぅ!」
振り向く前に腰のあたりに衝撃!
俺はバランスを崩して、マリオンちゃんにぶつかる。
「きゃ!」
反射で目を閉じ、衝撃を覚悟した。
ぷにょおん。
マリオンちゃんとぶつかると思った額に当たったのは、弾力のあるやわらかな何かだった。




