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お買い物・2

 レースカーテン一枚隔てただけの聖域は、マジ聖域。


 ふわぁ~ぉ☆


 なんて効果音じみた音声が聞こえてきそうだ。

 いやいやいや。

 それはいけない。


 俺は目をつむり、精神統一。


 いいか、ランジェリー☆ なんてかわいい響きに惑わされ、それをいやらしいものと感じるのは俺の心、直人の悪いところ!!

 これは自分に何度も何度も言い聞かせているが、下着はエッチなものじゃなくて必需品!!

 どんなにかわいくても、そのかわいさは見せるものとかではなく、自分が楽しむためのモノ!!


 えー? 見せるものじゃなきゃなんであんなにかわいいんだよ? あんなかわいいのつけてるってことは、やっぱ見せるの意識してるんじゃねーの?

 ってヤローには、言いたいことがある。


 お前はいまだかーちゃんが買ってきた白ブリーフを履いているのか?

 機能性、肌触りと最高の白ブリを履いているんだな?

 トランクスやボクサーパンツなんかに見向きもせず、白ブリを履いているのだな?


 そうなら俺は何も言わない。

 白ブリを履きながら、柄付きのトランクスやボクサーパンツをはいている男たちをバカにし、かわいいランジェリーを身に着ける彼女たちをビッチ扱いしていればいい。


 だが、トランクス、ボクサーパンツ、他の民よ。

 お前たちならわかるだろう?


 見えもしない、誰も気にしない自分のパンツが、白ブリから変わったあの日の高揚を覚えているだろう?

 いつもと同じ服を着ていても、白ブリでなく大人なパンツに変えただけで背筋が伸びるあの気持ちを。


 そうそうそう。

 だからカワイイランジェリーも、根っこはボクサーパンツと同じ。

 やらしくなーい、エッチじゃなーい。

 ただの下着!!


 だから見ても問題なし!!

 見てやらしい気持ちになったとしたら、俺の問題!!

 俺の心がやらしいだけ!!


 と、くっそ自分に言い聞かせて、ぎゅっとつむっていた目を開けた。


 ふわ~ぉ☆


 目の前は、レースと花柄に満ちていた。

 あら、キレイ。


 ハンガーにかけられているものは、同じ形、柄ごとに分けられ、台の上に並んでいるものはサイズごとに分けられているらしく、カラフルな花園のようだ。


 全体的にパステルカラーが多いが、濃い色も少なくはない。

 花柄ばかりな印象だったが、それは俺の固定概念だったようでよく見ればいろんな柄があり、シンプルなのから派手なのまで多種多様。


 ポイントに宝石を使っているのまであって、ランジェリーショップというより、ドレスショップみたいだ。

 そうかぁ、女の子たちはドレスの下にもドレスを着ているのだな。


 ……ってことは、学園のカッチリ制服の子たちもその下にはこんなかわいいドレスを身に着けている――


 喝――!!


 冷静になれー!!


「いらっしゃいませぇ」


 俺がぐるぐるしていると、奥のカウンターから店員のお姉さんが出てきた。

 髪をきゅっとひっつめにして、肩からメジャーをかけているのが、仕事ができる女! て感じでカッコイイ。


「モーリア様、オーダーの品がちょうど届いていますよ。連絡しようとしていたところだったんですよ」

「まぁ、予定より早いのね。今日来てよかった」

「今お持ちしますね」


 店員さんがそそくさと裏に戻る。


「リゼットちゃん、下着全部注文してるの?」


 なんかそれすごいな。


「ううん。全部じゃないわ。特別なのだけ。昔は少し大きなサイズだとオーダーメイド必須だったけれど、今はサイズ展開が豊富だから」

「へぇー」

「ここ数年でメジャーになったから、レティシアちゃんが知らないのも無理はないわ」

「数年……で、ここまで?」

「はい~。その通りです」


 店員さんが白い箱を抱えてにこにこやってくる。


「このランジェリーチェーンは、デザイナー・ミユキがすべて手掛けたものなんですよぉ。身分も年齢も越えて、女性を美しくのコンセプトで世界に美を届けます」


 ……ミユキー!!

 名前からして絶対異世界転移者だろ、ミユキー!!

 しかも日本人の可能性が高いぞミユキー!

 そしてありがとう、女の子を美しくする活動をしているなら、もはや盟友だミユキー!

 会ったことないけど。


「こちら、オーダーの品です。確認よろしくお願いしますぅ」


 店員さんは、リゼットちゃん前のテーブルに箱を置き、蓋を持ち上げる。

 待って、隣に俺いるんだけど、見えちゃうんだけど、見えてしまうんですけど、いいの!?

 リゼットちゃんも店員さんも普通にしてるし、ここであからさまに見ないようにする方がマナー違反?

 なんかよくわからん!!


 情報過多でもうどうしていいかわからん俺の目の前で、箱の蓋が取り去られる。


 そこにはオーダーメイドで丁寧に作られた、リゼットちゃんのブラジャーが!!


「………」

「いつもありがとう」


 うれしそうにリゼットちゃんが手に取ったブラジャーは……


 なんそれ。

 セパレートの競泳用水着のベージュか、丈の短いカップ付きタンクトップみたいな、めちゃめちゃシンプルなの。

 これをわざわざオーダー?


 いや、いいんだけど、オーダーって言うからにはもっとこう特別なものを期待……いや想像してしまって。


「新しい耐火繊維を使っていますのでぇ、伸びがよくさらに着け心地と耐久性が上がっています」

「それはうれしいわね」


 ほほう。

 なるほどぉ。

 耐火繊維ね。


 リゼットちゃん火の魔法を使うからなぁ。

 ふぅむ。

 いざという時のことを考えたら必要だよな、耐火性。

 なるほど、オーダーメイドっていうと、特別に豪華!! 高級!! ってイメージだったが実用性の高いオーダーメイドってのもあるんだな。


「他に普段使い用のも見られますかぁ? モーリア様のサイズだとこのあたりが新しいデザインですよ」


 店員さんが素早くテーブルにキラキラふわふわなブラジャーを並べる。


 かわい……デカ!

 そのカップ、エダの帽子にしてまだ余るぐらい大きくない?

 リゼットちゃんいつもシスター服のケープで胸半分隠れてるから、ああ、おっきいなー。ぐらいに見えるけど、こうして見ると驚きの大きさですよ?


「あ、今日はわたしじゃなくて彼女のを買いに来たの」


 と、背中を押される。

 あ、そうだったな。


「はぁーい。サイズはおいくつですかぁ?」

「あ、ちょっとわからなくて」

「では、測らせていただきますぅ」


 店員さんはするりと肩からメジャーを取る。

 ここですぐ測るのかと思ったら、


「こちらにどうぞぉ」


 と。試着室を示される。


「え? わざわざ試着室に?」

「はい。ヌードサイズで測る必要がありますからぁ」


 ヌ、ヌードォォォォォ!?


 え? そうなん? そんなものなん?


 リゼットちゃんが「冗談よ」なんて笑ってくれるのを期待してみるが、


「行ってらっしゃい」


 なんてにこにこされて。


 え?

 これって普通なの?

 普通なの?


 声にならない問いに答える者はなく、俺は試着室へと導かれていった。


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