お買い物・1
へいどうも。
レティシア・ファラリスです。
中身はちょっと百合が好きなだけでいたって普通の日本の高校生・福井直人
……なのだが、なんかもうレティシアって名乗るほうがしっくりくるような気がする今日この頃。
あれだよね、姿は精神に影響するとかなんとかいう説あるじゃん?
ほら、ロリババアなキャラが、中身もロリっぽいの、あれ。
姿に精神が引っ張られてる状態ってヤツ?
まぁ、ロリババアな人とか会ったことないですけど。
いや、この世界でなら出会えるかも!?
ロリババアに!!
いいよね、ロリババア。
ババアって名称はどうかと思うけど、ギャップ萌えのある俺としてはドストライクだわー。
ロリババアの話ではなく!!
いくらでも語れるけどそうではなく!!
こう、レティシアの姿をしてレティシアの記憶を持ってると、身はもちろん心まで女子になれたような気が……してました。
そんな気はしていたけど、してただけじゃないかな? ないかな?
だから、まずいんじゃないかと思うんだよなぁ。
「リゼット様がおられて、本当に良かったです」
「いいのよ、こういうことなら任せてちょうだい」
現在、レティシアは右にエダ、左にリゼットちゃんの両手に花状態で、街を歩いております。
今はホコ天みたいになってるけど、時間によっては馬車も通る広い道なので、三人ぐらいなら並んで歩いても平気な大通り。
興味深いお店がびっしり並んでいて、露天なんかもたくさんあっておいしそうなにおいがただよってくる。
あ、あれ冒険者ギルドじゃね!?
冒険者!! ギルド!!
行って、俺と同じような異世界転移者とか探したーい。
そんでそのまま冒険に行きたーい。
などと、心にもないことを脳内で叫んでしまうほど俺はいまピンチである。
「こちらのランジェリーショップは詳しくなくて。レティシア様のサイズを取り扱っているところも少ないですから」
「それは安心して、わたしの行きつけだから」
……そう。
俺は今、休日を利用してのお買い物に向かっているのだ。
ランジェリーショップに。
えぇぇぇぇぇー!?
まずくない?
まずくない?
いやほら、自分のなんか見慣れてますよ。
自分のですから。
ブラとか別に恥ずかしがるようなものじゃない生活必需品だし、エッチなものじゃないのもわかってる。
(……エッチなのもあるかもしれないが、いや、ほら、未成年ですし。大体レティシアみたいな清楚なお嬢様にそんなのは俺が許さぬ!!)
だけど、ショップは……
ショップは……直人としては聖域に近い場所で、そんなところに足を踏み入れていいのか!?
レティシアとしてならオッケーなのか!?
などと、葛藤している俺を挟んで、エダとリゼットちゃんは楽しそうだ。
「エダちゃんとは初めて会った気がしないわ。レティシアちゃんに話を聞いていたからかしら」
「私も、レティシア様にたくさん話を聞いていましたので、前から仲良くしていただいていたような気がします」
「ふふふ。気がするだけじゃなくて、仲良くしてね」
「もちろんです。こちらこそよろしくお願いします」
はわー。
仲良くなれるか、まだわからなくて……ちょっと探り探り会話をしていた二人が、本当に打ち解けて仲良くなる瞬間を見てしまった。
尊いわぁ。
手を合わせて拝みたい。
「あ、ほら見えてきたわ。あそこ」
昇天しそうな俺を現実に引き戻したのは、リゼットちゃんが指さす方向にある。
結構遠くからでもわかるかわいいお店。
通りから中は見えないように、窓にはレースのカーテンが引かれているけど、なんかもうオーラが可愛い。
オーラとか見えないけど、なんか、ほら、わかるだろ!?
つか、あのお店のレースのカーテンの向こうには、女の子のランジェリーがいっぱいあるわけで。
……聖域すぎる!!
「あの、せっかく街に出てきたんだし、今日は別のお買い物をするのはどうかしら? ほら、お茶でもして計画を立てない?」
ね、そうしよ?
それがいいよ?
「ダメです。レティシア様のランジェリーは二年前のものなんですから、そろそろ新しくしないと」
「そうよ。生地だって劣化するし、技術だって上がってるんだから。今は二年前よりいいものが買えるのよ」
「それにお茶なら私が淹れたほうがおいしいです!」
「まぁ、素敵。それじゃあわたしはおいしいケーキのお店に案内するから、お茶会に呼んでもらえないかしら?」
「ええ、もちろんよ。すてきね。あ、そっちを先にするのはどうかしら?」
そして、すぐにお茶会にしましょうって部屋に帰る流れ!!
「ケーキを買うのはお買い物の最後よ。崩れちゃったら悲しいでしょ」
「そうですよ」
ですよねー?
グダグダしている間も歩みは止まらず、とうとうショップの前に来てしまった。
うわー!
うわー!!
うわあぁぁぁぁー!!
なんかいいにおいする―!!
初めて教室に入るときにも思ったけど、女の子たちが集まる場所ってなんかいいにおいするよね。
石鹸とか、香水とかとは別になんかわからんけど。
レースのカーテンはもう目の前だ。
「こんにちはー」
リゼットちゃんが全く躊躇なくドアを開ける。
ちりりん。
と、かわいい鈴の音が鳴った。
「ほら、なにしてるの?」
固まってしまっている俺の手を、リゼットちゃんが引っ張り、
「レティシア様」
エダがとんと背中を押す。
「きゃっ」
少しよろめいて、俺はレースのカーテンを潜り抜けた。




