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●万能じゃない

「そ、そんなので納得できるわけがないじゃない!」

「じゃあ、そっちがあたしを納得させなさいよ! どうしてエリヴィラさんがお義姉さまを傷つけようとするの?」


 矢継ぎ早に投げつけられる言葉に、グローリアさんが立ちふさがる。

 強い言葉にまったくひるまず言い返して行く。


 かわいらしい外見に惑わされるが、グローリアさんは上に立つ教育をされている人なのだろう。

 多人数に攻撃されても、全く委縮することがない。


 その反対にクラスの女の子たちは人数頼みだ。

 仲間がいるから、何とか口を開ける。


 あの子たちも、別にそんなに悪い子たちじゃない。

 普通の子たちだ。


 呪い(わからないもの)が怖いのは当たり前で、怖いものは遠ざけたい。

 レティシアさんに構われる私をうらやましいと思う気持ちと、恐れる思いが私を排除しようとしている。

 そして、同じ思いを抱く仲間が多数いれば、行動がエスカレートしていくのは当然のこと。


 おそらく彼女たちも、グローリアさんの姿を見て自分たちのしていることがみっともないことだってわかっている。

 けれど、引くタイミングを失ってしまった。


 ……自分のことなのに、私が一番他人事だ。


「あれはお義姉さまのたぐいまれなる正義感の成せるわざよ。あの状態でお義姉さまが飛び込むことを誰が予想できるのかしら?」


 グローリアさんの言葉に、私を責めていた女の子たちが言葉に詰まる。


 いけない。


「そんなこと知らないわよ!! だけどエリヴィラさんは呪いを使うのよ! 危険だわ!」

「そうよ! 今回は違っても、きっといつか危ないことになるのよ!」

「呪いは悪いの!」

「あなたたち、自分が何言ってるかわかってるの!」


 追い詰めすぎている。

 引き際を誤ってしまった彼女たちは、もう突き進むしかない。

 このままじゃグローリアさんまで敵にされてしまう。


「もういいわ、グローリアさん」

「え?」


 一緒にいて楽しかった。

 友だちみたいに接してくれてうれしかった。

 かばってくれて、本当に心強かった。


「そうよ、私は呪いの家系に生まれた人間よ。だから呪いを使う。それは仕方ない。あなたたちが自分の持つ魔法しか使えないのと同じ」


 だから、あなたには私みたいにならないでほしい。


「だからせめてほおって置いて。私にかかわらないで。もううんざりなの。怖いならおとなしく教室の隅で震えてなさいな」


 敵は私だけで十分でしょう?


「なっ」

「なによ! ちょっと席が近いからってレティシアさんに贔屓にしてもらって!」

「魔法が同じエクストラクラスだからっていい気にならないで!!」

「どうせ隙を見て呪いをかけるつもりなんでしょ!」


 これでいい。

 あなたたちは私だけを憎んでいればいい。


 後は、とびきりきつい言葉を浴びせて、私だけを敵に仕立てあげればいい。


 すっと息を吸い、口を開く。


「話は聞かせてもらったわ!!」


 響いたのは私の声ではなかった。


 レティシアさん?


「お義姉さま!」

「ありがとう。よく頑張ってくれたわ」

「あ……はい! えへへ」


 飛びついたグローリアさんの頭を、レティシアさんが撫でる。


 ……そんなことをしたら、せっかく私に向いていた敵意がまたグローリアさんに!

 と、思ったが、切れそうなぐらいに張り詰めていた空気がすっかり緩んでいる。

 毒気を抜かれたとは、まさにこの状況だ。


「エリヴィラさん。ごめんなさいね。私が後先考えずに飛び込んだせいで、こんなことになっちゃって」

「……レティシアさんのせいじゃないわ」


 私のせいなのだ。

 私が……

 何度も頭の中で繰り返していた、自分を責める言葉が再び沸いてくる。


「みんな、こんなことやめてちょうだい。この通り私はなんともないわ。エリヴィラさんを責めるのはお門違いよ! でも、心配かけてごめんなさいね」


 ふわりと柔らかく微笑むレティシアさんに、さっきまで怒りの表情だったの女の子たちもたじたじになってしまう。


「それにエリヴィラさんは別に呪いを使うわけじゃないでしょ? 源流が呪いだったってだけ。今は魔法と呼ばれているものも遡れば呪いだったものも多いはずよ」


 それは!

 それは……禁忌になっている考え方だ。

 私のように呪いを源流とする者には常識でも、魔法と呪いを明確に分けようとする主流の魔法を使うものは考えもしないこと。


 レティシアさんの爆弾発言に、女の子たちは目を見開いて固まってしまっている。

 今まで信じていた常識をひっくり返されたのだ、無理もない。


「大体、魔法だって万能じゃないでしょ。呪いだってきっとおんなじ。エリヴィラさんにできるのはゴーレム術。私を眠らせたような呪いじゃないわ」

「だ、だけど……そうよ! ゴーレムを操れるなら人間だって操れるんじゃないの!? 呪いっ、お菓子に髪の毛入れて食べさせたら操れたりっ」


 先頭に立っていた女の子が、なんとか持ち直して反論しようとするが……


「できるの?」


 レティシアさんはキラキラと期待するような目で私を振り返る。


「まさか。できるわけがないわ」


 がっくりと目に見えて肩が落ちた。

 本気で残念がっている?


 ……ああ、この人は本当に呪いなど恐がっていないのだ。

 呪いを源流とするゴーレム術だって、この人にはちょっと変わった魔法でしかない。


「忘れられたネクロマンシーだって、操れるのは死体よ。生きている人間を操れたら、ストルギィナ家はこんなにすたれていないわ。私の一族に伝わっているのは、髪の毛を使ってのゴーレム術だけ。なのに一族の男性は早いうちに禿げる定めの家系よ。呪われているのはこっちだわ」


 そう、ゴーレム術は、レティシアさんが思うほど素晴らしい魔法じゃない……

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