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●期待と失望

 気を失っていたようだ。

 甲高い悲鳴に目が覚めた。


 一瞬、ここがどこか分からなかった。

 暗くて、温かくていい香りがして……もう一度目を閉じてしまいたくなる。


「………!!」

「――!」


 声が聞こえるけど、意味が頭に入ってこない。


「無事か!?」

「お義姉さま!!」

「回復魔法を!」


 ふっと体か軽くなり、光が目を刺した。

 ぐったりとしたレティシアさんが私に覆いかぶさっていたのだ。

 落ちてくる鎧から、私とマリオンさんをかばって……


「ああああっ! レティシアさん!? レティシアさん!!」


 どうしてこんなことに、どうして!?


「落ち着いて、エリヴィラさん!」


 先生たちが、レティシアさんに手を延ばす私を抑えつける。


「レティシアさん! レティシアさん!?」

「少し頭を打ったようだけど大丈夫よ。気を失っているだけだわ」

「私が、私のせいで!!」

「いや、ちがう。ごめん。あれあたしのせいだわ」


 マリオンさんの隣にいたメフティルトさんが、ばつが悪そうに前髪を掻き上げる。


「あたしの増幅がそっちにもかかったみたい。ゴーレムもマジックアイテムなんだね……。ほんとごめん」

「そんなこと……」


 今言われても……

 もうことは起こってしまったのだ。


 それに、メフティルトさんが悪いんじゃない。

 私があんなおかしな命令の出し方をしたから。

 私が分不相応な結果を見せようとしたから。


 私の力が弱くて、増幅されたゴーレムを抑えられなかったから。

 抑えるんじゃなくて、制御不能とわかったらすぐにマリオンさんを助けに行ってたら。

 そもそも制御が失敗した時のことを考えて、もっと距離を取ってもらうべきだった。


「私のせいだ」


 私が、私が、私が……


「レティシアさんは念のため保健室で休ませましょう。皆さんは教室に戻って。メフティルトさんはお話を聞かせてもらえるかしら?」


 モーリア先生がテキパキと指示を出す。


「ん。了解。マリオン、一緒に来な」

「……うん」


「付き添いは……グローリアさんお願いできる?」

「はい!! あ、えっと……先にエリヴィラさんを教室に連れていきます。それからラウラとイルマを保健室に行かせます」

「ええ。それでお願いするわ」

「はいっす!」

「は~い!」


 私のせいだ。

 私のせいなんだ。


 いつもこうだ。

 いつも、いつもこうだ。

 わかっていたのに……


 期待すれば失望する。

 信じれば裏切られる。


 だから期待なんてしてはいけない。

 誰かを信じたりしてはいけない。


 呪いの血筋のせいで理不尽に疎まれ続けて、よくわかっていたはずだ。


 期待はしない、誰も信じない。

 それは母の教えだ。

 今ならわかる。

 きっと母も失望し、裏切られることを繰り返してきたのだ。


 私は……期待をしてしまった。

 レティシアさんに声をかけられてから、毎日がとても楽しくて。

 本当に、本当に楽しくて。

 もしかしたら、こんな時間がずっと続くかもしれないって期待してしまった。


 だから、こんなことになってしまった。

 期待してはいけない。

 信じてはいけない。


 期待してしまえば、信じてしまえば、それを失った時大きく失望する。

 自分を辛くしないために、期待しない。信じない。

 そうして生きていれば、平穏だったのに。


 レティシアさんにまで、こんなに迷惑をかけて。

 ……レティシアさんの方こそ、きっと私に失望してる。


「あんたのせいでしょ!」

「レティシアさんを暗殺しようとしてたんじゃないの?」

「呪いの家系なんだから、さもありなんよ」

「そのためにレティシアさんに近づいたのね!」


 ここは……教室だ。

 いつ戻って来たのか分からない。

 あれからどのくらい時間がたったのだろう?

 レティシアさんのおかげで、どこもケガをしてないのに頭がぼんやりしてる。


 向けられる敵意が懐かしく、心地いい。

 そうだ、ここが私の居場所だ。

 ここにいればいい。

 どん底にいれば、それ以上失望はないんだから。


「いいかげんなことばかり言うんじゃないわ!」


 グローリアさんのふさふさのしっぽが、スカートを撫でる。

 ……どうしてこの子がここに?

 あんなことになったレティシアさんについていそうなものなのに。


「いいかげんじゃないわ!」

「グローリアさんは怖くないの? いつ呪いをかけられるかわからないのよ?」

「呪いが怖くて、入学をやめた子がいるって」

「そんなの、ただの噂じゃない!」

「でも、本当にあったことかもしれないし……」


 いろんな声が聞こえるが、意味までは頭に入ってこない。


「大体お義姉さまを暗殺するとか。私たちが入学した時には、まだお姉さまが復帰するだなんてわかってなかったじゃない!」

「けど……」

「あのね、好きな人を傷つけたい人なんていないのよ! だからエリヴィラさんがお義姉さまを傷つけるわけがないの! おんなじ人を好きな人ぐらいわかるんだから!!」


 グローリアさんの声。

 好き。

 そう……あの人が好きだった。

 よく変わる表情も、見かけによらず好奇心旺盛で強引なところも。

 だけど、もう終わり。

 レティシアさんの方こそ、もう私に近づいたりしないだろうけど。


「だから、この子がお義姉さまを傷つけるわけがないのよ!」


 もういい。

 もういいから。


 私をかばうことなんてしないでほしい。

 もう、どうでもいいんだから。


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