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●見てほしい

 教室に行くと、レティシアさんはすでに席についていて、グローリアさんたちがその机を囲んでいた。

 昨日食堂にいたらしいクラスメイト達の視線を感じながら、私は自分の席に向かう。


 そう、私は自分の席に行くだけ。

 咎めるように見られても、私は何も悪いことなんかしていない。

 ことさらに胸を張ってゆっくりと席に向かう。


「おはようございます」


「おはよう。エリヴィラさん」

「おはよ」

「おはよ~」

「はよっす」


 ぺこりと頭を下げると、四人がそれぞれのあいさつを返してくれる。


「なんかあったっすか?」


 イルマさんが席に着いた私の顔を覗き込んでくる。


「いえ、特に何もないけど?」

「そっすかー?」

「ええ」

「ならいいけど~」


 興味なさそうに言いながら、ラウラさんはわざとらしく教室を見回す。

 こちらを見ていた何人かが、慌てて目をそらした。


 イルマさんとラウラさんは、意外と周りを見ている。

 グローリアさんのお目付け役なんてのは肩書だけ。なんて言っていたけど、ちゃんとお目付け役の仕事もしていると思う。

 グローリアさんがレティシアさんになついているので、レティシアさんが気にかけてくれている私にまで目を配ってくれる。


「つか、今日、移動教室っすよね。やだなぁ」

「ね~」

「ああ、今日は測定だったわね。いやなの?」


 そのために外部講師の方々を呼んでいると聞いている。


「エリヴィラさんはいいっすよ。ゴーレム術って学園に一人じゃないっすか。それに比べて雷は」

「炎の人ほどじゃないけど、いっぱいいるもんね~」

「そうね?」

「ほら~、いっぱいいると比べられるし~」

「グローリアさんとかすごいっすからね。バーンって! それに……」


 二人は顔を近づけて声を落とす。


「お義姉さまにいいところ見せるんだって張り切ってるんすよ」

「私たちのそんなに派手じゃないから~」

「そう」


 確かに比べられるのは嫌かもしれない。

 私も地元にいたころは、周りにゴーレム術を使う人は多かったけれど。みんな年が離れていたから比べるなんてことは考えなかった。


 けれど、確かに同い年と同じ魔法で比べられるのは、少し嫌かもしれない。


「ま~、考えても仕方ないか~。今は楽しいこと考えよ~」

「そーそー。やなこと考えてるより楽しいこと考えてた方が建設的っすよね」


 イルマさんが私の机にファッションカタログを開いて置く。


「私、こんなに高い服は買えないんだけど」

「そんなの私たちもだよ~。見るだけ見るだけ~」

「後は参考にするぐらいっすね」

「そんなものなの?」

「あ、それ! お義姉さまにすごく似合いそうなアクセサリーがあったんですけど! これです、これ!」


 カタログを見つけて、グローリアさんがレティシアさんをこちらに向かせる。


「あら、素敵ね。けれどお値段も素敵なのね」

「このくらいならプレゼントさせてください!」

「それはダメ! お友達どうしでそんなやり取りはいけません」

「ふぁい」


 グローリアさんはレティシアさんに、こつんとおでこを指先で叩かれてそれだけで溶けてしまいそうになっている。


「そ! 見るだけっすよ! とりあえずは! あ、この色エリヴィラさんによさそうじゃないっすか?」

「そうかしら?」

「いいんじゃない? 黒髪に映えそうだし」

「うん~」


 カタログを開いてあれこれと話すのを、レティシアさんは黙ってにこにこと見守ってくれている。

 私と言えば、ファッションの話はほとんど聞き流して、測定のことを考えていた。




 移動教室には、レティシアさんも一緒にやってきた。

 レティシアさんの魔法は受け身だから測定には来なくていいのだが、彼女は勉強熱心で見学などには積極的に参加する。

 グローリアさんもそれがわかっていて、張り切っていたのだろう。


 ……それにしても、視線がすごい。


 レティシアさんは何かと目立つ人で、上級生や講師の先生方まで彼女を見ている。

 分類できる魔法とそれ以外。と、雑極まりない分け方をされて一緒にいる私がそわそわしてしまうのに、当の本人は全く気にしていない様子で炎の魔法の実技に見入っているようだ。


 ドラゴン族で侯爵家のメフティルトさんにも負けないぐらい堂々としている。

 私もなるべく平静を装う。

 なぜなら、レティシアさんとメフティルトさんに向けられる視線とは別に、私に向けられる視線もあるから。

 彼女たちに向けられる羨望のまなざしとは、違うものだけど。


 ……どうでもいい。

 はずなのに。


「お義姉さまっ! もうすぐあたしたちの番ですから、見ていてくださいね!」

「ええ。もちろん」


 列から抜け出てきたグローリアさんがレティシアさんに念押しをしていく。

 隣にいた私にも、小さく笑顔を向けてくれた。


 ………。

 私も……


 私も、レティシアさんに魔法を見てもらいたい。

 小さな粘土のゴーレムをあんなに喜んでくれたなら、もっと大きなものをうごかして見せたらどんなに驚いてくれるだろう。


 それに私に向かって意地悪な視線を向け、これ見よがしに内緒話をしているあの子たちに見せつけてやりたい。

 なんて気持ちもある。


 不純な動機だとはわかっているけれど……自分にできる限界を見せることがこの移動教室の目的なんだから、そうすべき……よね?


 全力……私ができる限りの魔法。

 それを見せるためにはどうすればいいんだろう?


 粘土は一応持ってきたけれど、これじゃあ小さすぎる。

 かといって、お母様のように土塊を端からゴーレム化しながら、操って可動できる形にするなんて芸当は私にはまだできない。


 悩んでいるうちに順番がやってくる。

 最悪手持ちの粘土で何とかするしかないけれど……

 あっ。


「先生、私これを使っていいですか?」


 近くにいたモーリア先生に言ってから、少し早まったかもと思った。

 私が指さしたのは魔法の的に使う一番大きな鎧だ。


「ええ、いいですよ。好きなのを使ってください」

「ありがとうございます」


 ……許可をもらってしまった。


 いいえ、この判断は間違ってないはず。

 人間の形をしたゴーレムは扱いやすいし、鎧は人間が着るものだからその点では理想的だ。

 ただ……ものすごく重そうなんだけど。


 弱気になっても仕方がないわ。

 とにかくやらなきゃ!


 私は片方の三つ編みをほどいて髪を引き抜く。

 小さな痛みが集中のスイッチになる。


 いくら大きくて重くても、できるはず。

 たくさん髪をつけて、魔力の補充と制御のしやすさを上げて……


 近くで見たら分かったけれど、中に軸が入っている。

 軸が支えてくれるから、鎧の重さすべてを引き受ける必要はない。

 これなら……見栄えよくこの場でうごかすぐらいは出来そう!


 重すぎた場合でも最低一部はうごかせるように、髪を重要な部分に分散さる。

 後は魔力を込めて、操ればいい。


 コンコンコン。

 鎧の胸を叩いて、目覚めを促す。

 お願い、そんなに長い時間じゃなくていい。

 ほんの少しの間だけでいいの。


 見せたいの、あの人に私の力を。


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