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知らない天井だけど、これ知ってる

 目を開くと、そこは知らない天井だった。


 あ、コレ、知らないけど知ってる。

 アレでしょ? 目覚めたら病院で入院してたってアレ。

 ん? 入院?


 いや、おかしいだろ。

 入院するようなことした心当たりまったくないし。

 俺、福井直斗ふくい なおとはモヤシの割に、風邪すらひかない健康体。

 よって病気とかないはず。


 健康体ではあるが、モヤシゆえに体育会系とは相性最悪で運動中の事故とかありえん。

 運動しないからな!


 交通事故?

 ないない。


 ほぼ学校と家の往復しかしてないし、家からめちゃ近い。って理由で選んだ高校までの通学路に車の姿はほぼない。

 これでどうして入院とかできんの?


 えーと、落ち着いて記憶を遡ってみよう。

 今日は……今日じゃないかもしれないけど、体感的には今日は――ー


 俺は最高に幸せな気分で下校し、家に帰ると自室に直行。

 ベッドに倒れこんで、放課後の教室で見た光景を反芻した。


 放課後の人がまばらになり始めた教室。

 窓から差し込むまぶしいほどの西日に照らされた二人の女生徒。


 見た目ギャルだけど、年の離れた妹を溺愛してる斎藤さんと、メガネ三つ編みおさげ隠れ巨乳秀才委員長って設定盛りすぎの有村さんだ。


 赤点常習の斎藤さんを机に座らせ、有村さんが後ろから覆いかぶさるように

勉強を教える、あの光景を!


「え? なんでこうなんの? わかんないんだけど?」

「だから、最初から説明したでしょ? もー。どこがわかんないのよ」

「どこがわかんないのかもわかんない。わからなすぎて質問できる場所がない」

「……うっわぁ。本当にわかってない人の答えだ」


「どーしよ。赤点しか取れなかったら最悪留年? いやー!チーちゃんが『お前の姉ちゃん留年バカー!』とか言われたら……アタシ言ったヤツガチで殺すから」

「殺すより勉強したほうが早いわよ。わたしだって同じクラスから留年が出るとか嫌だし」

「イインチョちゃん!」


「教科書最初からおさらいしてどこで躓いてるか割り出すわよ。この問題が解けるまで今日は帰さないから」

「あっれー? イインチョちゃん、アタシなんかおなか痛いんだけど」

「逃げんな」


 委員長はすかさずヘッドロックで斎藤さんをホールド。

 全然力は入ってないけど、斎藤さんは無理やり抜けたりせずされるがままだ。


「うえーん! イインチョちゃんがいじめる~」

「もー! 斎藤さんのためなんだからね!」

「う~。わかってるし。ごめんね。アタシがバカなせいで」


「……斎藤さんはバカじゃないよ。勉強のコツがわかってないだけだから」

「本当に、そうだったらいいな」

「心配しなくても、今からわたしがそれを証明してあげるわ」


 ヘッドロックのまま、二人はどこが恥ずかしそうに笑った。


 ああ、ナイス。

 ナイス百合。


 ギャルと委員長という外見のギャップ。

 普通なら相慣れない二人が学校の枠組みの中で、同じ服を着て同じ立場に置かれる当たり前でありえないはずの風景。


 そして俺は知ってる。

 この二人、始めはお互いに苦手意識があって無視状態だったのに、ゆっくりと歩み寄っていったことを。

 対立ののち、リスペクトしあって生まれる友情。


 ナイス百合!


 いやぁ、学校随一の百合っプルである二人と同じクラスだなんて、俺はなんて幸せなんだろうか!


 まあ、話したことなんてほとんどないけど。

 この光景も帰り支度しながら視界の端でなんとか見てただけだけど。


 だけど、ヘッドロックのところらへんは、教室から出る動作を利用して真正面から見ることができた。


 ああ、尊い。

 ただただ、尊い。


 俺はベッドの上で、そっと手を合わせて合掌する。


 近くにいた男子が「委員長のおっぱい俺も押し付けられてぇー」とか言っていたが、残念極まる。

 野郎の思考だとついエッチな方に頭が動いてしまうのもわかる!!

 わかるけどさ!


 そんなんじゃなくて、そんなんじゃなくて!

 俺はただ純粋に女の子たちの戯れを見ていたいだけなのだ!

 百合の中に入りたいとか思わない!

 つか、百合の間に男とか言語道断である。


 恥を知れ!


 いや、表現は自由で、そんな需要もあるのだろう。

 だが俺は、男など、自分など存在しない派である。

 

 前置きが長くなってしまったが……そう、俺はいわゆる百合男子と言うやつである。


 無趣味もいいところだった俺が受験勉強からの逃避のため、古本屋で手に取った一冊のラノベ。

 ハーレムモノかと思っていたけど、違った。

 それは女子校で少女たちが友情を育て慈しみ合う百合物だったのだ!


 その尊さ、美しさを知ってしまった俺は、次の日には溜め込んだお年玉を解放し、シリーズ全巻新品で買い揃えた。

 もちろん古本屋で買ってた一巻も新品で買い直した。


 今では地道にほかの百合ものも集めている。

 ああ、できれば女子校に行きたかった。


 ……えーっと、思考がずれたな。


 ベッドの上で百合の花の尊さに合掌して、それから?

 それから気がついたらここである。

 なんでだ?


 特に変なものも食べてないし、飛行機とか家に落ちてきたわけじゃないよな?

 だって体とかどこも痛くないし。


 ん? 気分も悪くないな?

 ますますなんで入院してんだ?

 とにかく状況を把握しようと俺は身体を起こそうとした。


 うっ!


 めちゃめちゃ体が重くて怠い!

 やっぱり俺は病気なのか? 一体なんの?

 その割には腕に点滴とかつけられてないし、なんだこの寝巻き?


 真っ白なや柔らかい布でたっぷりとドレープを取り、袖口には繊細なレースが飾られたドレスみたいな服だ。

 なんでこんな服? なんで俺が着てる?


 混乱しながらもなんとか上半身を持ち上げると、体にかかっていたシーツが落ちた。


「あ?」


 胸元に見慣れないものがあった。


 袖口と同じくたっぷりとドレープを取った胸元は大きく空いていて、薄桃色のリボンが飾られている。

 問題はそこじゃない。


 リボンも結構問題だが、それ以上にその内側が問題だ。

 薄桃色のリボンは随分と前の方にあるのだ。

 通常ならだらりと胸元に垂れ下がるだろうリボンはぐぐ~っと前に押し出されている。


 なんに?


 それは俺の胸にある、白いふたつの双丘でだ。


 つまりおっぱいで。

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