●呪いの家系と眠り姫
私、エリヴィラ・ストルギィナは、ここリリア魔法学園のある王都からずっと離れた場所に産まれた。
ストルギィナ家は疎まれていた。
王国を建国した勇者の仲間でありながら、禁呪とされたネクロマンシーの流れをくむゴーレム術をその血に受け継いでいたから。
私は、一族の期待を受けてリリア魔法学園にやってきた。
男性が回す社会に女しか魔法を使うことができないゴーレム術を認めさせるため、禁呪の呪縛を破るために。
とはいえ、私にはそんなことどうでもよかった。
だって、この辺境の地から都会の学校に行けるのだもの。
どんな新しいこと、楽しいことが待っているのかと、希望にあふれていた。
入学を済ます前までは。
禁呪……呪いの流れをくむ血は、ここでも恐れられた。
私に何ができるわけでもないのに。
排除されないまでも遠巻きにされ、腫物を触るような扱いだった。
そして、孤立するしかない私の前に、彼女は現れた。
「レティシア・ファラリスです。皆さんより少し年上ですが……寝ていたせいかあんまりそんな気はしないんです。同級生として仲良くしてくださいね」
レティシア・ファラリス。
呪いにかけられた眠り姫。
彼女の存在はよく知っている。
薄れかけていた呪いへの恐怖が、再び再燃したのは彼女の存在が大きい。
汚名を雪ぐために、呪いを源流とする一族たちは彼女にかけられた呪いの研究をしたが、まったく成果は上がらず。
原因不明の中、彼女は突然目覚め学園にやってきた。
ああ、でも本当。
眠り姫なんて揶揄される理由がよくわかる。
淡い色の髪は空気を含んでふわふわと遊び、優しげな風貌を際立たせる。
そして、赤ちゃんを見た時のように優しく慈しむように微笑むのだ。
この教室の何が、そんな風に彼女を微笑ませるのだろうか?
「それじゃ、レティシアさんはあの空いている席に」
だろうとは思っていたが、レティシアさんは私の隣の席に。
私に向かってふわりと笑いかけてくるが……私のことを知ったならもう笑いかけたりはしないだろう。
失礼にならないように会釈だけを返す。
なるべくかかわらないようにしよう。
なんて、考えるまでもなく、レティシアさんは委員長のグローリアさんとの対立で忙しく、和解した後はグローリアさんやほかのクラスメイト達に囲まれていて、私はいつも通り静かに一人で過ごすだけで済んだ。
なのにどうして、
「いただきます」
彼女は私の前で食事をしようとしているのだろうか?
理由はわかる。
今日の給食には私の地元のメニューで、敬遠されている納豆が入っている。
においがきつく、見た目も相当なもので私も地元にいるころには敬遠していたしろものだ。
それをどうしてこの人が?
しかも慣れた様子で納豆をかき回す。
たっぷりと時間をかけて混ぜ、ご飯と一緒に口に。
食べ方が慣れている……?
地元の人間でも好き嫌いが分かれるのに……なんなのこの人?




