私のお姉さま
保健室に戻った俺は、勝手に抜けだしたことをこってりと怒られて、回復魔法をこれでもかとかけてもらった。
なんかケガの種類によってかける回復魔法が違うんで、問診が必要だったらしい。
なので一晩たった本日のレティシアに、たんこぶももうない。
つか、体が軽い!!
寝つきも良かったし朝もすっきり起きられたし、やっぱり回復魔法すごい!
体が軽いと気分も軽い。
スキップでもしたい……じっさいちょっとしながら教室に!
「おはようございます」
声だけはおしとやかにけれども内心は「みなさま、ごきげんよう☆」な気持ちを込めてご挨拶。
「おはようございます! お義姉さま!」
「おはようございます。グローリアさん」
グローリアちゃんの元気な挨拶を最初に、教室から次々に相次差が返される。
「おはようございます」
「おはようございます、レティシア様」
「……よぅ、ございますぅ」
みんないつも通り!
お嬢様たちには、少々きついこと言ってしまったかと思ってたけど、気にしてないみたいだな。
よかったあぁぁ!
俺はただの壁になって彼女たちを見つめていられればいいのだが、壁にだって種類はある!
傍にいて心地のいい壁にならなければ、そばには寄ってきてもらえないのだ!!
そんな壁になるため、面倒くさいスキンケアは欠かさず、体形を美しく保つためのトレーニングをし、レティシアの記憶に頼ってばかりいずに勉強だってコツコツとしている!!
まぁ、レティシアの容姿のポテンシャルと、基礎学力がガッチガチの地盤を作ってくれいるおかげは大いにあるが。
そういや異世界にきたのに、チート能力のひとつもないなーって思ったけど、レティシアの体と記憶引き継いでる時点でだいぶチートだよなぁ。
ちなみに「ステータス・オープン!!」はやってみたけど、何も起こらずむなしさと恥ずかしさが襲っただけだった。
まぁ、そんな涙ぐましい努力もあり、俺はなかなか居心地のいい壁になれているのではないかと思うのだ!
ここできついことを言って敬遠されるわけにはいかぬ!
しばらくは静かにおとなしく、おしとやかにしておこう。
しずしずと席に向かい……
「あら!」
静かにしとこうと思ったとたんに大きめの声が出てしまった。
「お、おはようございます」
少し恥ずかしそうにあいさつするエリヴィラちゃんの髪は、結われることなくすべて真っすぐに流れていた。
みつあみをほどいただけでもきれいな髪だったのに、ストレートとして準備されただろう黒髪は、さらにつやつやと輝いている。
「まぁぁ! 髪、下ろしたのね!」
「はい。少し、恥ずかしいですけど」
「どうして、とても似合っているわ! なんて奇麗なの! 素敵。本当に素敵だわ」
いや、本当、めっちゃキレイ!
おとなしく静かに、なんか知るか! この美しさをほめたたえずどうする!
「みつあみもかわいかったけれど、やっぱりこっちも似合うわ。少し大人っぽい感じで……。エリヴィラさんにとっても良く似合ってる」
「そう、ですか」
「ええ! あ、だけどこれは私の好みだから。エリヴィラさんがほかの髪型のほうがいいならそうすべきよ? 自分が好きなようにするのが一番なんだから」
俺はストレート黒髪がエリヴィラちゃんにはめっちゃくちゃ似合うと思うけど、やっぱり自分が一番好きな格好をするのが最高なのだ。
「いえ、私もこの髪型が好きです」
「ならよかった!」
「お姉さまが、似合うと言ってくれた髪型ですから」
「まぁ、うれしいわ」
ん?
「おっ義姉さま!!」
「はうっ!」
どーんとグローリアちゃんがぶつかってきた!
どうしたのグローリアちゃん、最近ずいぶんぐいぐい来るよね。
物理的に。
「お義姉さま、あたしは? あたしはどんな髪型が似合いますか!?」
「グローリアさんは今の髪型が一番素敵じゃないかしら?」
「このままですかぁ?」
「ええ! 元気なグローリアさんらしいし、赤いリボンは髪の色にもにあっているわ。チャームポイントのお耳を引き立たせていてとってもキュートよ」
不満そうだった表情が、みるみる輝く。
「あたし、一生この髪型でいます!!」
いや、一生はどうかと……まぁ、好きな髪型が一番だよな!
「お義姉さまは、私の髪型が一番素敵ですって」
「……お姉さまはあなたにとってその髪型が一番素敵と言ったのよ? 間違えちゃいけないわ」
グローリアちゃんとエリヴィラちゃんとの間に、ひやりとした空気が流れる。
てか、お姉さまって?
「一番素敵と言ったのは間違いないわ! 大体なによオネエサマって! お義姉さまは私だけのお義姉さまよ!」
「そうね。義理のお姉さまと言う意味では、グローリアさんだけのお義姉さまね。でも、レティシアさんは同級生だけど年上の女の子。なら私にとってもお姉さまに間違いないわ。ね? レティシアさん」
え? ん? まぁ……
「確かにそうかもね?」
「ほら、何も問題はないでしょ?」
「問題よ! 問題だわ!!」
「どんな問題があるの?」
「とにかく問題だわ! お義姉さま! これは大問題ですよね?」
「えっと……何が問題かしら?」
年上の女性をお姉さまと呼ぶのに問題は……ないよなぁ?
俺としては『お姉さま』呼びは特別なお姉さまただ一人! ってのが萌えるけど、強制することじゃないし。
「問題にしてください~!」
「グローリアさん、お姉さまを困らせてはいけないわ」
「だ、誰が原因なの!? こうなったら勝負よ!!」
うえっ!?
喧嘩は……
「お義姉さまのいいところをたくさん言えたほうが勝ちよ!!」
「受けて立つわ」
受けるんかい!!
てか、俺のいいところ言いあうとかやめて!
俺じゃなくてレティシアだとわかってても恥ずかしいから!!
「じゃあまずあたしからね! まず基本で優しいところが素敵よ!!」
「とても落ち着いていて聡明なところ」
「髪がとてもきれいだわ」
「ええ、髪型もとてもよく似合ってる」
やめて!
おれはじりじりと距離を取り、離れたところで見守ってたイルマちゃんとラウラちゃんの所まで退避する。
「いやー、グローリアさんアレでけっこう人見知りなんで、お友達ができてよかったっす」
「あのゲーム付き合わされるの大変だったから~。相手してくれる人ができてよかったね~」
イルマちゃんとラウラちゃんはしみじみと頷きあう。
……あれ、ゲームなのか。
じゃあ勝負って喧嘩でなくて、ゲームで勝負ってことか。
うむ。
ならばよし!
平和で良し!
だけど勝負内容はちょっと考えてほしい!!
「レティシアさん、授業始まるまで、廊下に出てます?」
「私たちも付き合うよ~」
「そうしようかしら」
イルマちゃんラウラちゃんありがとう!!
助かった!!
しかし、グローリアちゃんとエリヴィラちゃん、仲良くなってよかったな。
友情! 美しい。
この友情と言う名の種を育てて立派な百合の花を咲かせるためにも、みんな仲良く健やかに。
それを祈って俺は忍び足で教室を後にした。




