嫉妬
さっと教室が静まり、ここにある視線がすべて俺に注がれる。
今、俺は人生において一番注目を浴びているところだ!
もったいぶって堪能したいところではあるが、これ以上はさすがヤバイよな。
「お義姉さま!」
グローリアちゃんが飛びついてくる。
「ありがとう。よく頑張ってくれたわ」
「あ……はい! えへへ」
「エリヴィラさん。ごめんなさいね。私が後先考えずに飛び込んだせいで、こんなことになっちゃって」
「……レティシアさんのせいじゃないわ」
何でもない風を装っているけど、顔色が悪い。
髪を結いなおす暇もなかったのか、片方のおさげをほどいて真っすぐに落とした彼女は、固い表情も相まって、よくできたお人形みたいだ。
「みんな、こんなことやめてちょうだい」
少し低い声で、威厳をもって……って、こんな感じだろうか?
できる限りのお姉さまっぽい雰囲気を出せてるといいなぁ。
「ひゃっ」
「レティシアさん」
「でも」
たっぷりすぎるほど様子をうかがったおかげで呪いがめちゃめちゃ怖いわけではなく、それに加えてレティシアたちと仲のいいエリヴィラちゃんへの嫉妬もあっての行動なのだとわかった。
ならば、それを使わずしてどうする。
レティシアが特別だとみんなが思い込んでるなら、それをさらに演出するしかない!
今だけでいいので、素敵なお姉さまだと認識させるのだ!
そして『お姉さまが言うのなら〜」的になんとかノリと勢いで丸め込みたい!
まあ、すぐにレティシアも少し年上なだけのただのクラスメイトだと気付くだろうけど。
とにかく今だけなんとか!
けど、嫉妬ねぇ。
嫉妬。
嫌いじゃないよ~?
ドロドロしたマイナイメージが強いけど、それも人間としての素直な感情のひとつ!
嫉妬=悪。
みたいになってるけど、憧れと尊敬とかの気持ちの一部でもあると思うね。
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彼女のことを考えるたびに、胸が痛くなる。
私より少しだけ勉強ができて。
私より少しだけ運動ができて。
私より少しだけ背が高くて。
私より少しだけきれいなあの子。
私より少し素敵なだけなのに、私よりものすごく輝いて見える。
それがうらやましくて、悔しくて、けど、彼女をうらやむ自分が嫌い。
こんな感情、彼女は持っていないんだろうな。
気にしても仕方ないのに、つい目で追ってしまう。
斜め後ろの角度から見える彼女は、相変わらず私より少しだけきれいな髪をしている。
彼女みたいだったら、もっと自信を持てただろうか?
彼女の隣で、自分が恥ずかしくて俯かないでいられただろうか?
ものすごい美人になれなくてもいい。
せめて今より少しだけきれいになれないだろうか?
だから、少しだけ、頑張ってみよう。
今日は胸を張ろう。
彼女が好きだと言ってくれる私を、好きになれるように。
彼女に恥じない自分になれるように。
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うん、有寄りのアリアリでしょう!
そんなわけで、エリヴィラちゃんをつるし上げてる子たちも、やっぱりかわいいのである。
なので、なるべく彼女たちも傷つけずこの場を切り抜けたい!
「この通り私はなんともないわ。エリヴィラさんを責めるのはお門違いよ! でも、心配かけてごめんなさいね」
「けど……」
「呪いだし」
「邪悪なものだし」
「やっぱり怖いわ」
「呪いなんかちっとも怖くないわ。私が証拠よ。こうして元気でいるんだから」
二年寝てたけどね!
中身変わってるけどね!
……うっわあぁぁぁぁぁーーー!!
呪い怖い!!
めっちゃ怖い!!
だ、だけど今言っちゃいけないやつな!
「それにエリヴィラさんは別に呪いを使うわけじゃないでしょ? 源流が呪いだったってだけ。今は魔法と呼ばれているものも遡れば呪いだったものも多いはずよ」
「そんなことは……」
「まさか……」
完全に口から出まかせだったが、動揺してるな。
「大体、魔法だって万能じゃないでしょ。呪いだってきっとおんなじ。エリヴィラさんにできるのはゴーレム術。私を眠らせたような呪いじゃないわ」
レティシアになって魔法をちょこちょこと見てきたけれど、この世界の魔法はけっこう不自由なのだ。
制限がかかった中で、研究して工夫して便利に使えるようにしていってる。
「だ、だけど……そうよ! ゴーレムを操れるなら人間だって操れるんじゃないの!? 呪いっ、お菓子に髪の毛入れて食べさせたら操れたりっ」
おお! それは面白いな!
「まあ、そんなことできるの?」




