死ぬまでにしたいこと
保健室を出て教室に直行。
こんな時にも走らず速足なのは、体に染みついたお嬢様ゆえか。
走ろうと思えば走れるけど、頭も打ったし大事を取ったほうがよかろう。
いつもはみんなと話しながらの移動だったから、ぜんぜん気にならなかったけど、こうして急ぐと教室まで遠い!
つか、学園広い!
速足でもそこそこ息が上がるぐらいで教室に到着。
うん、少し息を整えて……
「だから、この子がお義姉さまを傷つけるわけがないのよ!」
教室の中からグローリアちゃんの声が響いてくる。
「そ、そんなので納得できるわけがないじゃない!」
「じゃあ、そっちがあたしを納得させなさいよ! どうしてエリヴィラさんがお義姉さまを傷つけようとするの?」
「そりゃあ、呪いの家系だからでしょ!」
「レティシアさんは呪いを解くんだから邪魔だったのよ!」
「ゴーレムだってレティシアさんが触ったら崩れたじゃない!!」
んあ?
そうなのか?
だとしたら納得。
あの勢いで殴り飛ばされたら、たんこぶぐらいで済んでないよな。
ふぅむぅ。
エリヴィラちゃんの魔法が呪いに起因するものだったから、レティシアの解呪がきいたのか。
いや、そもそも呪いと魔法にどーゆー違いがあるのかよくわからん。
レティシアが呪いと魔法の違いの授業を受けた記憶はあるのだが……んんー? それ気分で決めてるだけじゃないのか?
封印の呪いがロックの魔法とどう違うんだ?
いやいやいや、今そんなこと考えてる場合じゃない。
慌てすぎて思考がとっ散らかってるぞ。
「ええ、そうね。崩れたわね。そうなの? お義姉さまが触ったら崩れるようなゴーレムでお義姉さまを殺そうとしたの? 面白いわね」
「そ、それはっ、崩れるって知らなかったんじゃないの!?」
「と言うことは、お義姉さまがゴーレムに何もできないって思ってたってことよね? ゴーレムに何もできないお義姉さまをどうして狙うの?」
おお、グローリアちゃん優勢じゃないか。
これだと俺が出なくても何とかなるかも?
「大体、狙うならもっといい時があったはずよ」
「きっと、慌ててたのよ。せかされるか何かで」
「だとしても、わざわざ講師の先生たちがいっぱい見ている時にする必要はないでしょう? ゴーレムの暴走だってすぐ止められたはずよ」
「だけどレティシアさんはケガしたじゃない!」
「あれはお義姉さまのたぐいまれなる正義感の成せるわざよ。あの状態でお義姉さまが飛び込むことを誰が予想できるのかしら?」
「う…、うー」
グローリアちゃん強い!!
イルマちゃんとラウラちゃんも、グローリアちゃんの雄姿に(声しか聞こえないけど)小さくガッツポーズ。
おっふ。
二人顔を近づけて、にへへって笑うのやめて。
今それどころじゃないのにときめくから。
そんでちょい恥ずかしい。
あれ別に正義感とかじゃなくて、思わずやっちゃっただけだから。
なんか結局無駄だった臭いし、この争い事の火種まいただけじゃん。
「そんなこと知らないわよ!! だけどエリヴィラさんは呪いを使うのよ! 危険だわ!」
「そうよ! 今回は違っても、きっといつか危ないことになるのよ!」
「呪いは悪いの!」
あ、逆切れした。
やばいな、タイミングを計りかねてたけど、そろそろ行った方がよさそう。
「あなたたち、自分が何言ってるかわかってるの!」
「もういいわ、グローリアさん」
「え?」
ええ?
エリヴィラちゃん何を?
「そうよ、私は呪いの家系に生まれた人間よ。だから呪いを使う。それは仕方ない。あなたたちが自分の持つ魔法しか使えないのと同じ」
エリヴィラちゃんの声に感情はない。
「だからせめてほおって置いて。私にかかわらないで。もううんざりなの。怖いならおとなしく教室の隅で震えてなさいな」
「なっ」
「なによ! ちょっと席が近いからってレティシアさんに贔屓にしてもらって!」
ん? 俺?
あーあー、ああー。
だよな! 冷静に考えたら年上の同級生とか、ちょっとスペシャルな存在だよな!
仲良くしてたらうらやましがられたりもするか。
っても、中身は俺だからうらやむ必要なんてかけらもないんだが。
それでもまあ、知らない子たちからすればうらやましくて、グローリアちゃんは一目置かれる存在だから手が出せなくて、エリヴィラちゃんに矛先が向いたのか。
うっわ。
マジで俺が何とかせねばならんことじゃないか!
「魔法が同じエクストラクラスだからっていい気にならないで!!」
「どうせ隙を見て呪いをかけるつもりなんでしょ!」
エクストラクラスって言うより、イレギュラークラスだと思うけど……じゃなくて、頃合いだな。
ドアに手をかけ、勢いよく開ける。
「話は聞かせてもらったわ!!」
うん、これね!
死ぬまでに言ってみたかったセリフのひとつ!




