テイク2
そして、飛び出した瞬間激しく後悔した。
運動大嫌いもやし男子高生から、身体能力は高い方なレティシアになって調子こいてました!!
ごめんなさい!!
すいません‼︎
思いのほか体が動くもんで、超人にでもなったつもりだったのかなー?
調子こいちゃったのかなー?
落ち着けよ、俺。
なんか暴れてるでっかい鎧相手に、一人で何かできるわけないだろーが!
けど、一人じゃ何もできないのは、マリオンちゃんだって一緒だ。
もしかしたら二人なら何とかできるかもしれない。
目の前のどでかい鉄の塊。
うう~ん、二人でも無理かな~?
これは無理じゃないかな〜?
脳からなんか出てるのか頭はギンギンに冴えてる。
けど、頭さえててもなぁ。
今は冴えた脳より、ムキムキの筋肉が欲しいです!
うんうん、筋肉はすべてを解決できるな。
アスリート女子の百合もいいよね!
あんまり体鍛えてないマネージャーとアスリートもいいけど、試合の時にしか会えないライバルチームの子とってのがグッときます。
愛しさと競争心が混ざり合った複雑な感情!
素敵です。
えー。
ちなみにここまで飛び出して三歩ぐらいの間に考えたことです。
頭が冴えているのに取っ散らかっているので、同時とか瞬時とかでいろんなことぐるんぐるん考えてしまうのだ。
たぶんだけど走馬燈ってこーゆー状況のこと言うんだろうな。
走馬燈って、ははは。
嫌だ俺死にたくないぞ!!
つか、レティシアの体で死ぬわけにはいかんわ!
だって、これ借りものみたいなものじゃん?
レティシアが帰ってくるかもしれない以上、雑な扱いはできないわけで。
だからこそ暴飲暴食は避け、スタイル維持のためのトレーニングもして、かなりめんどくさい毎日のスキンケアも欠かしていない。
マジでオンナノコのキレイを維持するのって大変だぞ。
エダがあれこれ世話を焼いてくれるから何とか出来ているわけで、俺一人じゃとても無理な仕事量だ。
そんな苦労をして維持しているレティシアの体で死ぬことはできない。
けど、レティシアが死ぬような事態と言うことは、マリオンちゃんもそうなわけで!
見捨てることなんかできるわけがない。
マリオンちゃんはもう目の前!
手を延ばして腕をつかむ。
「こっちよ!」
マリオンちゃんは小さくて軽い。
いや、いくら小さいとはいえ軽すぎない?
なんか、感覚もおかしくなってるっぽいな。
ぐわっと、鎧の腕が振り回される。
俺たちを狙っているわけじゃないけれど、大きさが大きさだ。
傍で暴れているだけでヤバい。
慌てて離れようとするが、運悪く鎧はこっちに向かって吹っ飛ぶみたいに迫ってくる。
嘘だろ、ヤバヤバヤババババー!!
つぶされるー!!
ギッ!
鎧が動きを止めた。
俺たちはまさに鎧の胸につぶされるギリギリ。
ちょっと体を動かしたら鎧に触れる距離。
「レティシアさんっ、今のっうちにっ」
「エリヴィラさん!?」
エリヴィラちゃんがすぐそこにいた。
なんでまたこんな危ないところに戻ってきたのっ!!
まあ、わかるけどさ。
俺たちを助けに来てくれたんだよな。
この鎧が動きを止めた一瞬、これはエリヴィラちゃんがくれた一瞬だ。
この隙に鎧の下からはい出そうと……ガクガクと鎧が小刻みに震える。
「くぅ」
エリヴィラちゃんの限界が来たのか、鎧の束縛が解かれる。
いったん勢いを殺された鎧の腕は、エリヴィラちゃんの上に!
「危ないっ!」
目の前の鎧を突き飛ばすようにして勢いをつけ、マリオンちゃんを抱いたまま、俺はエリヴィラちゃんに体当たりする。
ガゴッ。
背中からは鎧の迫りくる音。
頭に衝撃が来て、脳が揺れる。
意識が、持っていかれる――
・
・
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目を開くと、そこは知らない天井だった。
あ、コレ、知らないけど知ってる。




