お茶に溶けてしまうまで
甘納豆は納豆と違って、臭わないし甘くておいしい。
それをグローリアちゃんたちに実地で理解させてから、お茶の講習会が開始された。
うん、一個つまんで「あーん」って言ったら簡単に口が開いたんですけど、この子たち変なもの口に入れられないか?
心配。
甘納豆を放り込んだ俺が言うことじゃないけど。
「お湯はしっかりと沸騰させて、空気を含ませます。ポットにそそぐ時も勢いよく」
エダが曲芸のように高い位置からポットにお湯をそそぐ。
この人数分のお茶が入る大きなポットのせいもあるけど、いつもよりそそぐ位置が高い。
エダも教えるのを楽しんでいるようで、俺もうれしい。
グローリアちゃんとエリヴィラちゃんも真剣だ。
ラウラちゃんとイルマちゃんはお菓子のほうが気になっているみたいだけど。
グローリアちゃんは集中している時の癖なのか唇をつんと突き出していて……ちょい変顔にも見える所がキュートです!
気を抜いている。ともちょっと違うけど、よそ行きの気取った顔じゃないって言うか、自然な表情って言うか。
気を許された感じが嬉しいよね。
エリヴィラちゃんもグローリアちゃんとちょっと違った真剣さ。
きりりとした表情に、眼鏡装備です!!
えー、俺としては、眼鏡っ娘を攻略すると眼鏡を取ってしまうのは……
あれはダメ!!
なしっ!!
ギルディ!!
ただし、眼鏡なしと眼鏡アリを選択できるのはジャスティス。
眼鏡を取ったあの子を見たい気持ちがあるのも認めよう。
とまあ、眼鏡っ娘が眼鏡を取るのはナシなのだが、特別な時だけに眼鏡をかける眼鏡っ娘は、これは俺的にアリなのです。
本気出すときにかける眼鏡。
それは特別な武器を構えるようなもの。
ずっと眼鏡をかけ続けるのは疲れるけれど、あなたの顔を誰よりもはっきり見たい。
そんな気持ちが感じられるよね!!
「こちらの茶葉はストレートがおすすめです。お好みでお砂糖を。ジャムを付けたスコーンと一緒に食べながらもおいしいですよ」
並んだカップに均等にお茶が注がれ、部屋の中がさわやかな香りに満たされる。
お、これはいつもよりいい茶葉ですね。
「いっただっきますっ」
「いただきます~」
イルマちゃんとラウラちゃんはさっそくスコーンを割って、ジャムをこんもりと塗り付けている。
俺は紅茶の湯気を吹いて一口。
「うん、おいしいわ」
「ありがとうございます」
「本当においしい……」
エリヴィラちゃん、眼鏡が湯気で真っ白だけどいいの?
……よくなかったみたいでメガネを取ってテーブルに置く。
「これは、家に入れてもらっているものと違うわね?」
グローリアちゃんが香りを確かめながらエダに訪ねる。
「こちらは量があまり用意できませんし、保存が難しいので」
「となるとお値段も?」
「このくらいで」
「ぴゃっ」
「お~」
「………」
イルマちゃんとラウラちゃんが変な声を出し、エリヴィラちゃんの表情が固まる。
ねぇ、エダ、これいくらするの?
いや、聞かない。飲みにくくなるから。
「どのくらいならわけでもらえる? お姉さまに届けたいわ。お母様も気に入ると思うし」
「手持ちのものはこのくらいで。お時間をいただけるならもう少し」
「ぜひお願いするわ」
おー、おー、おー……グローリアちゃんマジお嬢様じゃん!!
忘れてたけど!!
「あの、アタシはもうちょっとリーズナブルなのが飲みたいっす」
「お茶飲むのにリラックスできない~」
「はい、では次はフレーバーティを。こちらはお手頃でおいしいですよ」
茶葉を変えてまたお茶が淹れられる。
わー、お茶会ですよお茶会!
百合イベントとしてもはやマンネリともとられるが、違う!!
良いものだから、何度も繰り返すのだ!!
何度繰り返してもいいものはいいのだ!!
ゆっくりとお茶を飲み、お菓子を食べるこの時間、何物にも代えがたい。
「エリヴィラさん、どうかしらうちのお茶おいしいでしょ。ふふ。自慢なのよ」
「ええ、とてもおいしいです。紅茶もいいものね。私はグローリアさんのようにお買い物はできないけど」
「気にしないで。こうしてお茶を飲めるだけで私は楽しいわ」
「そうですか?」
「ええ。んー、このお茶にはちょっとお砂糖がほしいわね」
「あ、ちょっと待ってください」
エリヴィラちゃんは肩から掛けた小さなポーチを探り、小さな包みを取り出す。
「金平糖。食べかけだったのでお土産にはしなかったのだけど」
ふたつぶ、みつぶ、カップの中に金平糖が沈む。
「まぁ、かわいい」
甘みも足せるし見た目もかわいい!!
いいな、これ。
「溶けるまで時間がかかるんですが……その分ゆっくり飲めるので」
「ゆっくりお話ができるのね」
「……そう、ですね」
「いいわね。エリヴィラさんの地方のお菓子、私好きだわ」
心の故郷の味がするし。
「本当に変わった人ですね。私が持ってきた食べ物なんてみんな怖がるのに」
「初めて食べるものは、怖く感じることもあるわよ」
「それとはまた違うんですが……」
「あー、なんすかそれ、甘いんすか? 甘いならあたしにも下さい」
「わたしも~」
イルマちゃんとラウラちゃんかカップをずずいと差し出してくる。
「甘いけど……私が持ってきたものよ?」
「粘るほうの納豆じゃなきゃもらうっす」
「私も~」
「ほら、ね?」
「……ですね」
カップの中の金平糖の刺は、ゆっくりゆっくり甘く紅茶に溶けだしていった。




