魔法の授業からハブられました。
「本日は、講師の先生をお呼びしました。皆さん魔法の系統ごとにそれぞれ分かれてください」
お?
モーリア先生の言葉に俺は背筋を伸ばした。
もちろん今までだって魔法の授業はあったけど、歴史だとか心構えだとか、主な系統の分布とかだけだったし。
ちゃんと魔法使うのは初めてかも。
しかし、黒板に書かれた系統に解呪ってないんだけど、俺どうすればいいの?
俺の視線に気づいたのか、モーリア先生がちょっと困った顔になる。
「黒板に自分の名前がない人は、申し訳ないけれども自習になります。自分の魔法を使った成果物を作ってください」
成果物。
どうやって?
俺なにすればいいの?
「レティシアさんは、この呪で閉じられた箱を開けてみてください。もちろんチャレンジするだけで開かなくても仕方がないの。できる所まで、ね」
と、教卓に札が張られた木箱を置く。
おお、さすがモーリア先生。
細やかな気遣いありがとー!
「では、炎の系統の皆さんは集まってください!」
モーリアちゃんの号令に従って、クラスメイト達は減っていき、最終的に五人だけが残った。
俺とエリヴィラちゃんと、ドラゴンちゃんと後二人。
「アタシらのは何か残せるわけじゃないし。後で先生の前で実演すればよくない?」
「う、うん……」
「そうね。外で本でも読みましょ」
お、ドラゴンちゃんちょいギャルっぽい。
意外。
いや、意外でもないのかな?
ツンツンと逆立った赤毛に、褐色の肌。
何か意味があるのかアクセサリーもいっぱいつけてるし、(過度なアクセサリーの使用は禁止されてるので、なにか種族的な理由があるのかも?)制服もぐっと胸元が大きく開くように改造され、なんだよそれゴムまりかよ! って大きさはそこそこだが真ん丸で弾力ありそうなおっぱいの谷間がのぞいている。
そんな円形おっぱい実物初めて見ました。
スカートはこの学園ではめちゃ珍しいかなりのミニ。
角とか爬虫類的羽根とかしっぽとかに惑わされていたけど、外見からしてけっこうギャルだぞこの子。
いや、ギャルってかパンクかな?
「そんじゃ、あとよろしくね~」
「ええ……」
何をよろしくすればいいかわからんが……
と言うわけで、教室には俺とエリヴィラちゃんの二人きりである。
教卓にのせられた箱を取りに行って、また席に戻った。
真新しい木箱の中にはなにか入っているらしく、カサカサと音がする。
蓋は魔力を込めた札が張られ、これがカギになっているようだ。
この札は長年の研究により魔法を運べるようにしたもの。
術者がいなければ行使できなかった魔法をこうして札に込めることにより、魔法を使えない人でも魔法を使えるのだ。
これのおかげで文明の発展は助けられ、魔法が使える者たちの大きな収入源になっている。
貴族の主な収入源のひとつでもある。
そのおかげで領地からの収益とか、にあまり頓着しない貴族も多いみたい。
なんか貴族ってめかしこんで連日パーチー!っ てイメージだったけど、ちまちまお札作って稼いでるんだよな。
勤勉!
ただし、札に込める研究が進んでるのは、それこそ炎とか電気とか転移とか回復とか、術者が多いか非常に便利な魔法のみ!
つまり使用が無茶苦茶受け身な上に、術者も少ない解呪とかの札は全然研究されてないです!
このロックの呪いも術者はそんな多くはないけど、使用が多くて流通しているやつか。
量産品だからそんなに強くはないと思うけど……そもそも俺、どうすれば解呪できるのかわからん。
……まぁ、モーリア先生もできる所までって言ってたし。
とりあえず箱をいじくりまわす俺の隣で、エリヴィラちゃんが机に何かを出す。
ケースに入った……粘土?
細い指先が灰色の粘土をこねていくと、見る間に人形の形になる。
「まぁ、器用なのね」
「それほどでもありません」
いやいや、器用だよ?
俺にやらしてみ? クリーチャーしか生まれないから。
エリヴィラちゃんは人形から手を放し、片方の三つ編みのリボンを引っ張った。
リボンを失った三つ編みは、先の方からひとりでにハラハラとほどけていく。
きつい三つ編みの後も残さず真っすぐに……
「まあ。あなたの髪、すごくきれいなのね」
「……それほどでも」
「そんなことないわ。うらやましいぐらい」
レティシアの髪も好きだけど、癖があるし絡みやすいし、エダのブラッシングとヘアアレンジで何とかなっているが、俺一人では絶対に手に負えない自信があるぞ。
それに比べてエリヴィラちゃんの髪はもう、かぐや姫かなんかなの?
長くてツヤツヤで櫛を通さなくても真っすぐに背中に落ちていく。
「みんな、怖がるんですけど」
「へ?」
エリヴィラちゃんは髪を撫で、一本引き抜く。
抜いた髪はいったん指にくるくると巻き付け小さくしてから、人形の切り込みに入れ指先で押さえて粘土をなじませる。
すると驚いたことに粘土の人形が起き上がりトコトコと机の上を歩きだした。
「まぁ、すごい。すごいわ! エリヴィラさんの魔法はこんなことができるの!?」
「ええ、古来はネクロマンシーを源流とする呪いです」
「でも、この子は死体じゃないわよね?」
残った粘土をつついてみるが、フツーの粘土っぽい。
「私の家系にはゴーレム術として伝わっています」
「ゴーレム。この小さい子ゴーレムなのね」
うわー、すげー、魔法だ、魔法だ!!
「自分の髪を入れた無生物を操れます」
「すごいのねー。もっと大きなものも作れたりするの?」
「使う髪を増やせば」
「髪に魔力が宿るのね」
「いえ、魔力は別に込めます。髪は私とゴーレムをつなぐ道具です。髪だけあっても何もできない」
ふーん。
髪は受信機みたいなものなのかな?
「あら、そうなの。あなたの髪がきれいなのは魔力が宿っているからなのかと思ったのだけど、そうじゃなかったのね。あ、そうだ、髪結いなおす? 三つ編みぐらいなら私にもできるわ」
というか、三つ編みぐらいしかできないんだけど。
と、髪に手を延ばすと大きく避けられた。
「え? なにをっ」