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焼き魚定食納豆付き

 昼食が各国のメニューで三種類存在する。


 これを知った時には、


 さすがお嬢様が集う学園だな。

 パネェ。


 ぐらいしか思わなかったけれど、俺は今日その真価を知った。


 遠く離れた地に一人でやってきて、(まぁ、グローリアちゃんみたいにお目付け役連れて来てる子もいるし、メイドさんたちは連れて来てるけど)生活する。

 お嬢様たちには初めての体験だろう。


 この不安と期待でいっぱいの日々に、地元の料理が出る。

 これがどれだけ人を安心させ、心を浮き立たせるのか。


 今、俺は身をもって体験している。


 うん、今日の三種の昼食メニューのひとつが和食だ。

 まぁ、厳密には和食じゃないんだろうけど、完璧和食!!


 焼き魚! 野菜の煮物! 納豆! 豆腐のみそ汁!! 白いご飯!!

 定食スタイル!!

 地味!!

 質素!!

 だがそこがいい!!


 ひゃっほおぉぉぉぉぉっ!!!


 レティシアとしての味覚がだいぶ変わったから、洋食オンリーでもつらくはなかったけど、こうして目の前に出されるとっ!


 やっぱり和食、和食最高!


「まあ、今日はあの豆がメニューに入ってるの?」


 グローリアちゃんが顔をしかめる。


 うん、納豆ね。

 好き嫌いが激しく分かれるし、食べない国の人から見たら激しく意味不明な食べ物だよな。

 わかる。

 俺もまあ、好きでも嫌いでもなかった食べ物だし。

 昔ながらの製法なのか、俺が食べてた納豆より匂いもきついし。

 無理はない。


「納豆は嫌いなの?」

「好きな人なんてめったにいないです! 臭いし。前に出た時だってほとんど手つかずだったし」

「あー、匂うんすよねぇ。食べてる人の周りから人がいなくなりましたもん」

「そう~。結界みたいに人がいなくなったよね~」

「まぁ」


 ふむ。

 やっぱりグローリアちゃんたちは、ちょっと動物っぽいところがある分、嗅覚も鋭いのかも。


「……だから今日は端っこで食べたほうがいいですよ」


 ちらりと視線で示された方を見ると、エリヴィラちゃんが和定食を自分の席に持ってきたところだった。

 すーっと、彼女の席の周りから人が引く。


「そう、じゃあ残念だけど、今日はお昼別々ね」

「へ!?」


 グローリアちゃんの耳がピコンと立つ。


「私、納豆をいただくから」

「えぇぇぇ!?」

「食べられるんすか!?」

「うわ~」


 三人揃ってそこまで驚かんでもよかろう。


「なのでエリヴィラさん、今日はご一緒させてくださいね」


 机を寄せてから、食事を取りに行く。


 ほとんど手つかずだから、一番大きい焼き魚を選んで、納豆も大もりじゃぁ!

 ああ、白飯のきらめきの美しさよ。

 煮物の醤油の香りも最高かよ。


 意気揚々と机に運ぶが、みんながめちゃめちゃ驚いた顔で見てくる。

 そんなに納豆食うの珍しいのか。


「いただきます」


 まず、たれと薬味をあらかじめかけてきた納豆を箸でかき混ぜる。

 おお、粘りが強い。

 箸がおれそう。

 うまそう。

 百回かき回すのが俺流である!!


 粘りがふわっと泡立ったようになったら、一口分をご飯に乗せて、いざっ!

 ううーん、たれの味が独特だけど、納豆~。

 故郷の味~。

 し・あ・わ・せ。


「……納豆、食べるのね」

「え?」


 おお、エリヴィラちゃんから事務的なこと以外初めて話しかけられた。


「ええ。おいしいわよね」

「……珍しいわね。こっちでこれを食べる人、初めて見たわ」

「そうなの? えっと私も初めて食べるのだけど、本で読んだことがあって食べてみたかったの」


 レティシアとしては初めて食べるんだし、そういうことにしておこう。


「納豆が出てくる本? なんていうタイトルかしら?」

「んー。昔のことだから覚えてないわ。ただ納豆のことだけはインパクトがあって」

「確かに、珍しい食べ物ですから」

「学園で昼食に出るなんて思わなかったわ」


 んんー、煮物も匂いの通り醤油味。

 醤油こっちでも手に入るのか! 今度探そう。

 焼き魚は一夜干しかなー? ぎゅっと身がしまっていて美味。

 脂がのっててご飯が進む。

 みそ汁も好みよりは薄いが、よし!

 一周ローテーションして、また納豆へと戻る。


 至福!!


「お箸の使い方もすごくきれいなんですね」

「ふふ、あなたほどじゃないけど」


 レティシアの体だし……って理由だけじゃなく、俺の箸づかいでは焼き魚とか結構ボロボロなんだけど、エリヴィラちゃんの焼き魚はきれいに一口ずつ身が外れていく。

 なにそれ? 切れ目でも入ってんの? と疑いたくなるレベル。

 納豆もくるりと手を返せば糸がきれている。

 納豆がここまで上品に食える代物だったとは!


「何か」

「あ、ごめんなさい。失礼だったわね。あなたの箸づかいに見とれてしまって」

「このくらい、普段から箸を使う地方なら当たり前です」

「あら、そうなの」


 はい、ダウト!

 物心ついたこの方ずっと箸使ってる国にいたけど、そんなきれいな箸づかいそうそういませんー。

 言えないけど。


 黙々と食事再会。

 静かな食事も久しぶりで落ち着く。

 おしゃべりしながらの食事も楽しいんだけど、食事に集中できるのもうれしい。


 お米の最後の一粒まで食べ終わる。

 お代わりしたいところだけど、レティシアの胃袋はもう限界かぁ。


「このメニューはどのくらいの頻度で出るのかしら?」

「……人気のあるメニューはリクエストが集まってよく出るんだけど……これはあまり」

「まぁ」

「これが、最後になってしまうかもしれません」


 なんだとぉ!?

 確かにこのクラスでは、俺ら二人しか食べてないしなぁ。

 これはいかん。

 いかん!!


 これからも和食を食えるチャンスが!!

 心の故郷の味が!!


「このメニューは完璧ね!」


 少し大きい声で言う。


「な、なに急に……」

「全体的に高たんぱく低カロリー! 納豆や味噌の発酵食品による抗酸化効果により美白美肌効果、デドックスによるダイエット効果を大いに期待できるわ! これは食べなきゃ!」


 ざわっと、教室の空気が変わったのが分かった。


 美白美肌デドックスダイエット。

 これらがこの年頃の女の子たちにどれだけ影響を与えるか、俺はよく知っている。

 休み時間教室で寝たふりをしていると、どれだけこのワードが聞こえてくることか。

 ちなみに発酵食品のうんちくは、その時聞こえた話を組み合わせたテキトーなやつである。


「ちょっと、試してみようかしら?」

「レティシア様も食べられているし」

「美白」

「美肌」

「ダイエット……」


 さざ波のように言葉は教室に広がり、納豆やみそ汁をもらいに行く子が出てきた。


「糸がっ……糸がっ」

「あ、でも口に入れると匂いはそんなに気になりませんわね」

「トッピングをたくさんつけるとまあまあ食べられますわよ」


 おお、思ったよりチャレンジャーが多い。

 さすがにグローリアちゃんたち獣人系の子たちは、匂いに負けてしまってるみたいで近づかないけど。


 これでまたメニューが巡ってくるはず!

 和食をまた食べるためなら俺は手段を択ばねぇぜ!!


「ごちそう様。後でリクエストの出し方も教えてくださいね」


 さーて、端っこで匂いに耐えかねているグローリアちゃんたちを外に連れ出すか。


「……とう」

「はい?」

「ありがとう」

「いえ」


 お礼なんて必要ないぜ!

 これからも故郷の味、守り続けよう!!


「けれど、私にはあまり近づかないほうがいいわ」


 ……なんで?


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