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ミステリアスガール

 えーえー、ただいまリリア魔法学園のお昼休みです。

 すなわち、女子校のお昼休みです!!


 勉強から解放されたひと時の安らぎ。

 昼食後のお菓子とお茶とおしゃべりの時間。

 少女たちだけの空間ゆえに、よそ行きの仮面をかぶらない自然な表情。


 だが、これを見ることができるのは、この花園に咲く花のみ!

 しかし、自称、リリア魔法学園のあだ花こと、福井直人inレティシア・ファラリスはこの花園に自然に溶け込むことに成功したのである!


 いろいろあったけどグローリアちゃんと仲良くなれたおかげかなぁ。

 クラス委員のグローリアちゃんが、お姉さまお姉様と気にかけてくれているおかげか、クラスの子たちともけっこう話せるようになったのだ。


 今もクラスの子たちが持ち寄ったお菓子で、お茶会中である。

 いやー、女の子たちって本っ当ーにお菓子が好きだよね。

 毎日のように誰かしら手作りのお菓子を持ってきてくれる。


 直人だったらそろそろしょっぱいものを下さい! と、言いたくなるところだろうが、レティシアとなった今は気にならない。


「あの、どうですか? ちょっと焦がしちゃったんですけど」


 グローリアちゃんが手作りクッキーを前にもじもじ。

 ううーん、見事にタヌキ色です。


「うん、おいしいわ」


 適度な焦げがビターな風味を出し、表面に振りかけて焼いた砂糖がカラメルになっている。

 俺これ結構好き。

 甘さをあんまり感じないのもいいし、カリカリの触感もナイス。

 何より、この失敗しましたって見た目が可愛い!

 一生懸命作りました。って感じ、愛しいよねぇ。


 こうしてグローリアちゃんがお菓子だのお茶だの広げてくれるおかげで、みんなが俺の席に集まってくれて……

 見渡す限り女の子!


 輪に入りたいのかもじもじしてる子に、行きなよぉ、でもぉ。とかやってるの……


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


 入学式の時から、ずっと見ていた。

 でも、きっと先輩は私のことなんてたくさんいる後輩の一人としか思ってないだろう。

 だけど、それも今日で終わり。


 昨日、親友に教えてもらいながら焼いたクッキーの袋を抱きしめる。

 私は先輩をお姉様と呼べるただ一人の後輩になりたい。


 心臓が早鐘を打つ。

 勇気を出して……勇気を。


「ほら、行きなよ。あんたなら絶対大丈夫。クッキーもおいしくできたんだから」


 親友が背中を押してくれる。


「うん。行ってくる」

「がんばれ」


 パンっ、と背中を叩かれて、私は飛び出す。


「あのっ、先輩っ!」




 あたしは親友の背中を見送った。

 あんたなら大丈夫。

 その言葉に嘘はないよ。


 あんたはあたしの親友で、素敵な女の子なんだから。

 だけど、胸が痛い。


 ずっと一緒にいたのに、あんたはあたしの気持ちになんて一度も気づかなかった。

 あたしはあんたが先輩を見た瞬間に、気づいたのに。


 あたしね、昔から気持ちを隠すのは得意なんだ。

 ……気づかなかったのは当然。


 だから……また隠せるよ。

 あんたが笑顔で帰っていた時、ちゃんと笑顔でおめでとうって言ってあげられる。


 あたしはあんたの親友だから。

 ずっと。


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


 ファー!


 まぁ、あの子はこの輪に入りたいだけだろうけど。

 うむ。ちょっと手助けしますか。


「あなたもひとついかが?」

「は、いっ! あの、私もお菓子を作って来たので、よかったらっ」


 ずいっと差し出されたのは、これはブルーベリーのタルトかな?

 うわー、お店に売ってるやつみたい。


「まぁ、ありがとう。綺麗ねぇ」


 しかし、じゃあみんなで。って大きさでもないし、どうするか?


「休み時間あと少しよ。片付け始めましょ!」


 グローリアちゃんが立ち上がり、ラウラちゃんとイルマちゃんたちとテキパキ片づけを始める。

 うむ。いいタイミングだ。


「そういうことだから……これは私がもらっちゃっていいかしら?」

「はいっ。もちろんです!」


 やったー! エダと一緒に食べよー!


「それでは、お義姉さま、また」

「失敬いたします」


 みんなが自分の席に戻り、急に風通しがよくなる。

 ちょっと寂しい。


 クラスの子たちとはだいぶ仲良くなれたな!

 このまま親睦を深めていけば、そのうち百合コイバナが聞けたりするはず!!

 たーのーしーみーーー!!


 あ、けど、隣の席の子とは話してないんだよなぁ。

 いや、普通にプリント回してもらう時に、


「どうぞ」

「ありがとう」


 とか、


「ノートを提出してください」

「あ、ちょっと待ってくださいね」


 ってぐらいの事務的な会話はあるよ。

 でも、そんだけ!


 お隣のえーっと、エリヴィラ・ストルィギナちゃん。


 隣というポジションであるので、彼女のことはなんとなーく知っている。


 彼女はなんと言うか、孤高。

 休み時間には一人で本を読んでる文学少女。

 親しい友達は作らず、ちょっと遠巻きにされているというか、ミステリアス。


 ミステリア~ス。

 そう、彼女はミステリアス!

 いいよね! ミステリアスガール!


 そうでなくても、彼女、ちょっと気になるんだよなぁ。


 なにせ涼やかな切れ長の目をした和風美人だから!

 いや、ここに日本はないだろうけど、こう、和を感じるんだよね。

 しかも、長い黒髪を二本のみつあみにして背中に流しているところとか、前の学校思い出すわぁ。

 あと、授業の時と読書の時だけ黒ぶち眼鏡かけるの、個人的にポイント高いです!


 ミステリアスさが近づきがたい雰囲気を作っているのか、彼女の周りに人はいない。

 エリヴィラちゃん自身が、周りと距離を取ってる感じもあるし。

 だけど、もっとみんなと仲良くしてほしい!


 実に個人的な話なのだが、俺はエリヴィラちゃんには百合の才能があると思うのですよ!

 孤高のミステリアス少女ですよ。

 こういうポジションには、同じくミステリアス系の子とひっついて、二人だけの独特の世界を展開してほしい!

 もしくは、元気系かイケイケ系な子にぐいぐい来られて、迷惑そうな顔しながらもまんざらじゃくて、その子の悪口言われたらむっとしたりしてほしいの!!


 でーもー、無理強いしても意味ないしなぁ。

 話をする機会でもあればいいんだけど。


 と、まぁ、その機会は次の日でしたけどね。


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