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●話なんかしたくない

 どうして『手回し』が、レティシア・ファラリスとのペア学習なのよ!?


 もちろん暴力を振るってしまったことは悪かったわ。

 けんかをしたなら両成敗ってのがセオリーってのもわかるわ。


 もちろんあたしが一方的にしたことで、レティシア・ファラリスが悪くないのはあたしが一番わかっているけれど。

 おそらくイルマとラウラが少し脚色してモーリア先生に話したのだろう。


 その結果がペア学習。

 しかも、刺繍。

 作業しながらのおしゃべりが推奨されている授業。


 楽しそうな声があちこちから聞こえてくるけど、あたしたちは向かい合わせに座って、ひたすら針を運んでいる。


 気まずい。


 もちろん距離を取っているだけじゃ、これからもっと気まずくなっていくのはわかっているわ。

 あれ? それっていいことなのでは? いじめなくても距離ができて……

 違うわね。

 気まずくなっているのはあたしだけだもの!!


 もう。

 もう。

 もう。


 どうすればいいのよ!?


 助けを求めてイルマとラウラがの席を見るが、満面の笑みで親指を立てられた。


 と、友達なら助けてくれたっていいでしょ!?

 もうやだこんな状況。

 大体どうして魔法学園で刺繍なのよ!


「こんなの、魔法に関係ないじゃない! こんなのじゃなくて、私は魔法の勉強がしたいのよ!」

「これも魔法の訓練のひとつなんだから」


 !

 考えてるだけのつもりだったのに、口に出てた!?

 急に会話が始まってしまい、慌ててしまう。


「こんなのこじつけよ。体よく花嫁修業させたいだけなのよ!」


 言葉に険があるのが自分にもわかるけど、止められない。


「あなたはずいぶん得意みたいね! いつでもお嫁に行けるってことかしら」

「どうかしらね。まだ結婚なんて考えたこともないけど」


 うそばっかり!

 だったらどうしてお兄様との結婚が進んでるのよ!


「2年眠ってもう一度1年生をやってるんでしょ? もう年増もいいところじゃない」


 うちだったらすでにねちねち言われて、追い出しにかかっているころだわ。


「そうなのかしらねぇ。眠っていたから実感がないんだけど」

「どうせ結婚するからって、中退するんでしょ。無駄じゃない」


 そう、いつまでに事が動くのか、せめてそれだけでも知っておきたい。


「まさか。私は卒業までしっかり勉強するつもりよ。だから……」

「はぁ!? 卒業のころには行き遅れもいいところじゃない。もうおばさんよ。そんな年でお兄様のお嫁さんになるつもり? 年の差どれだけだと思ってるのよ。恥ずかしくないの?」


 どうしてそんな嘘を吐くのよ!

 こっちは死活問題なんだから!


「人間は誰でも年を取るし、お兄さんも同じように年を取るから歳の差は変わらないわよ」

「あっ」


 その通りよ!

 恥ずかしい!


「でもっ、つ!」

「あら」


 ぐっと針を押しこんだら、思いのほか力が入っていたらしく、指を突いてしまった。

 ぷくっと指先に血の粒ができる。


「大丈夫!?」

「平気よ!」


 レティシア・ファラリスがさっとハンカチを出してくるけど断る。


「そんなのいらないから」


 こんなことで借りをつくりたくはないわ。

 ハンカチに小さな血のしみがぽつぽつとできる。


 はぁ、これリリアーナに言われるんだろうな。

 血のしみは落ちにくいのに……とか。


「もう、こんなのあたしがやる必要ないのに。メイドにでもさせればいいのよ! 無駄よ無駄」


 そうよ、あたしが痛い思いしてやっと刺繍したこの花。

 ニコーレだったらもっときれいなのを同じ時間に十個は刺繍してしまうわ。


「無駄じゃないわよ。こうやってひとはりひとはり、好きな人に大好きな気持ちを伝えるつもりで刺していけば……」


 レティシア・ファラリスは、ついついと一定の動きで針を動かす。

 糸の手繰り方も手馴れていて無駄がない。


「あなた、誰に渡す気なの」


 まさかお兄様じゃないでしょうね!?

 やめて!

 そういうの下のお兄様好きそうだから!


「エダにプレゼントしようかと思って」

「は? 誰?」

「私のメイド。だれも知り合いのいない王都までついてきてくれた子よ」

「愛情込めて作って、あげるのはメイドに?」


 どうしてそんなことを?

 この子ってば本当に意味が分からない!


「私はね。けど、グローリアちゃんは好きな人にあげるつもりで縫ってみたらどうかしら」


 好きな人?

 その言葉にかっと頭に血が上る。


 どうしてそんなことが言えるのよ。

 あなたも貴族の端くれならわかっているでしょう!?


 どうして、どうして!?

 あたしたちが自由を手に入れようとしているのを、邪魔するあなたが、どうしてそんなことを言えるのよ!


 机に手をついて立ち上がり、あたしはレティシア・ファラリスを睨みつける。

 耳元でぱちぱちと音がした。

 気が高ぶりすぎて、勝手に魔法が組みあがっていく。

 雷があふれてしまう。


 よくない。

 こんな状態で耐性のない人が触れたら、大変なことになってしまう!


「はっ! ばっかじゃないの?」


 落ち着かないと、落ち着かないと!

 だけど言葉が止まらない。


「好きな人とか笑わせる。貴族の娘はね、好きな人なんか作っても無駄なのっ! 恋だとか愛だとか臭いこと言わないでよ! どうせ顔も知らない人と結婚するしかないんだか――」


 ぱんっ!


 頬で何かがはじけたような音がした。


 目の前には、レティシア・ファラリス。


 頬が痛い。

 手で押さえると熱を感じた。


「え?」


 私、叩かれた?


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