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●チャンスは離せない

「委員長さん……よろしくおねが――」

「あなたみたいな年増がお兄様の結婚相手だなんて、あたしは許さないから!」


 レティシア・ファラリスにあたしはかぶせて言う。

 おしゃべりなんかしてられないわ!

 話なんかしたらいじめにくくなるじゃない!


「は? えっと、グローリアさんのお兄さん?」


 レティシア・ファラリスはぱちぱちと数回瞬きをして首をかしげる。


「ごめんなさい。どこでお会いしたんだったかしら?」

「会ったことなんてないわよ‼」

「はい?」


 顔合わせまで終わってたら、もう結婚秒読みの事態じゃないのよ!!

 ていうか、私が誰かまだ気づいてないの?


「私は、グローリア・ヴエロネージェよ!」

「そ、そうね」


 ヴェロネージェを強調する……けど、レティシア・ファラリスは怪訝そうな顔をしたままだ。

 この子ってば、ちょっとおっとりが過ぎるんじゃないの!?


「あの……」

「っ! とにかく、私は認めないから! それだけは言っておくわ!」


 一から説明するのは格好悪すぎるから、ビッと指を突きつけて宣戦布告!

 付き合ってくれたイルマとラウラと一緒に華麗に撤収!


 最初の一撃はうまく入らなかったけれど、これからっ!

 これからなんだから!!



 ……まさかそのあとのいじめがすべて不発に終わるだなんて、思いもしなかった。


「あの子……おおらかすぎるっ」


 自室のテーブルにあたしは突っ伏した。


「まあまあ~。そんなに自分を追い詰めないで~」

「そっすよ。足を引っかけるのとか、結構よかったっすよ?」


 イルマとラウラが慰めてはくれるけれど……


「あれはやりすぎたと思ってる」

「……そ~でもないよ〜?」

「普通っすよ。あのくらい」

「あなたたち、どんな殺伐とした世界を生きているの!?」


 あれが普通だなんて!

 レティシア・ファラリスが力持ちじゃなかったら、けがをしていたかもしれないのに!


「グローリアさんとおんなじ世界っすよ?」

「そうそう~。やっぱ靴にはガラスのかけら入れようよ~」

「そっ、そんな恐ろしいことよく考えられるわね!?」

「ガラスはさすがに危ないんで、ゴミとかでいいんじゃないっすかね? とにかくいじめを認識してもらわないと」

「ごみで汚れたらどうするの!」

「そのくらいしないといじめにならない~」

「うう……」


 ラウラの言うとおりだ。

 いろいろやっては見たけれど、気が付いてもらえたのはまだいい方。


 机に置きっぱなしだった本のしおりを抜き取ったり、落ちてるゴミをこっそりレティシアの机の方に寄せたり、靴の裏に落書きしたりは……


 ならばはっきりと見せつけようとした結果は……テストの点が大幅に上がっただけだった。

 なんと最高得点! やっぱりあたしはやればできるのよ!


 じゃなくて!


「ん~、まぁね~、いじめは失敗してもいいの~。とにかくグローリアさんがいじめをするような嫌な奴だ~。って思わせられれば成功~」

「ええ。がんばる」


 がんばらないとだめなの!

 これはお姉様が作ってくれたチャンスなんだから!


 ヴェロネージェ家の駒でしかなかったあたしが盤を飛び出すための最後の。

 あたしの遊び相手としか扱われてなかったイルマとラウラが、自分の人生を行くための学びの。


 このチャンスを失うことを考えると手が震える。


 あたしだけの問題じゃない……もっと非道にならないといけないのはわかってるのに!


「グローリアさん。顔怖いっすよ」

「ほら~。糖分足りてないんじゃないの~? お菓子食べよ~。夜だけど~」


 二人が顔を覗き込んでくる。

 お気楽な笑顔に少し心が軽くなる。


「まぁまぁ、きっと何とかなるっすよ」

「そ~そ~。なるなる~」

「……あなたたち、悩みはないの?」

「悩んだって~、なるようにしかならないし~」


 なるようにしかならない。

 あたしはそれが嫌だ。

 流されるままに生きていくなんて、そんなのあたしがあたしでいる必要もないじゃない。


「あ、明日の体育、測定じゃないっすか。テストはあれでしたけど、走りだったら耳に毛がないのに負けるはずないっすよ!」

「は! そうね!」


 大きな耳と尻尾を持つ者は、そうでない者に比べて身体能力が高い。

 あたしは尻尾持ちの中では足が遅い方だけど、しっぽなしのあのおとなしそうなレティシア・ファラリスに負ける気はしないわ!


「次は勝つわ! そしてあたしにはかなわないって見せつけるの」

「そのいきだよ~。劣等感をしっかり植え付けたら~。うまくいけば自滅するかも~」

「そうなるといいっすね!」


 そうよ、勝たなきゃ!

 せっかくつかんだこのチャンスは、絶対に離せないんだから!


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