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かの人も言っていました!

「え?」


 グローリアちゃんが頬を抑えて俺を見る。

 驚いたせいか、さっきまでの放電がすっかり収まっていた。


 レティシアは結構力があるから、もちろん手加減したよ。

 音は大きかったかったけど、そんなに力は入ってない。はず。


「なに……」

「そんなこと、言わないでっ」


 女の子を叩くなんて、最低だ。

 だけど、そうしなきゃいけない時だってある。


「人を好きになることを、無駄だなんて言わないで!」


 好きになることに無駄なことなんかひとつもない。

 俺は数々の百合漫画、百合小説、百合ゲーム、百合映画、その他もろもろを見た。

(ちなみに百合映画初心者にはキャロルを押したい)


 かなわない恋があった。

 報われない恋があった。

 別れがあった。

 憎しみがあった。

 涙があった。

 悲恋はいつもつらかったけれど……


 そこに無駄なものなど、ひとつもなかった!


「たとえ思いが通じなかったとしても、結ばれなかったとしてもっ、その思いは本物だったはず。人は誰に恋してもいい! 誰を愛してもいい!」


 知らない男との結婚しか道がないないなんて、あきらめないでくれ!

 女の子は女の子同士で恋愛すべき~って有名なセリフにあるでしょ!!

 前後はともかく、その言葉に俺は完全に同意なのだ!!


「貴族の娘だからそれできないなんて――」

「なんで……」

「そんなの私が許さないわ!!」

「なんであんたが泣いてるのよ?」


 泣いて?

 頬を触ると、指先が水に触れた。

 拭ってもぬぐっても次々にこぼれてくる。


「泣いてない……」


 泣いてるつもりなんかないのに、なんでだ?

 レティシアはこんなに涙もろいのか?


「お兄様は……あたしから見ても、そんなに悪い人じゃないわ。泣くほど結婚したくないだなんて、ひどいわね」

「……どんなに素敵な人でも、よ」


 婚約者シチュも嫌いじゃないよ!

 遠く離れて会ったこともない運命の人に、思いを寄せるってのもいいよね。

 写真だけに恋して、会ってみたら女の子でびっくり。ってのを特に押したいけど!


「だけど『どうせできない』なんて言葉で全部をあきらめないで。あなたは『貴族の娘』じゃないわ。一人の女の子、グローリア・ヴェロネージェよ!」


 だから……


「恋をすることを、あきらめないで」


 幸いにもこの学園には、かわいくて素敵な女の子がいっぱいいるんだから!

 恋の相手はより取り見取り!!


「なんで……」


 グローリアちゃんは俯き、ぎゅっと拳を握り締める。


「なんであんたが……」


 ぱたぱたと机に水が落ちる。


「ねぇ……あたし……」


 顔をあげたグローリアちゃんの顔は涙でぐちゃぐちゃだった。

 狐の耳はぺたんと折りたたまれ、眉根には皺がより、ぎゅっと顔に力がこもって、くしゃっとつぶれている。

 小さな子供が全力で泣いてるみたいな……お世辞にもかわいいと言えない顔。


「あたし、人を好きになっていいの? 恋をしてもいいの? 許してもらえるの?」


 それでも、何もかもをあきらめてつんと澄ました顔より何百倍も何千倍も素敵だ。


「当たり前じゃない! 世界中がだめだって言っても、私が許すわ!!」


 そう、すべては百合の花の元に許されるのだ!!


「う……うわぁぁぁぁっ」


 彼女はその場に座り込んで、子供みたいに泣きじゃくった。

 俺は彼女をそっと抱きしめ、震える背中を撫でる。


「大丈夫、大丈夫よ……あなたはあなたでいいの」


 そう、貴族の娘なんかじゃない、ただのグローリア・ヴェロネージェとしての百合を俺に見せてくれ!


「あなたの恋を大切にして……」




 ……その後。


 何のかんのありまして、俺はグローリアちゃんを叩いてしまったことで、3日の謹慎となりました。


 周りのみんなもかばってくれたんだけど、一応暴力沙汰だから形だけでも罰を受けなゃってことだ。

 部屋から出られないってだけなので、3日間はエダとまったり楽しい時を過ごした。


 3日ぶりの登校。

 ちょっと緊張するが……


「おはようございます……」


「おはようございます。レティシア様、今日からですね」

「大変だったでしょう、何もありませんでした?」

「これ、3日分のノートです」

「私たちみんなで作ったんですよ」


「まぁ、ありがとう」


 ふぅ、みんないつも通りでよかったー。


「ちょっと、道を開けてくれないかしら?」


 その声にさっと女の子たちが左右に分かれる。

 グローリアちゃんが私を睨んでゆっくりと歩いてくる。

 その後ろにイルマちゃんとラウラちゃん。


 うへぇ。

 やっぱり叩いたの怒ってるかー。


「ごめんなさいね。叩いたところもう痛くない?」

「はんっ。あんなのそよ風に吹かれたようなものよ。あのくらいで私をどうにかできるだなんて思わないことね」

「そう?」


 よくわからないが、つまり平気ってことだな。


「あたしも少し言い過ぎたから、これはお詫びよ」


 差し出されたのは、刺繍のハンカチだ。

 あの時の授業で縫っていたもの。

 3日前には2つ3つの花しか出来上がってなかったのに、大判のハンカチのふちをぐるりと囲むように色とりどりの刺繍の花が咲いている。


 少し引きつれてしまっているのが、一生懸命にやりましたっ! って感じだ。

 うんうん、グローリアちゃん、こういうところ真面目なんだよなぁ。


「ありがとう。素敵な刺繍ね」


 受け取ろうと手を延ばすと、避けられた。


「あ、あたしに触ると感電するからっ」


 さっとハンカチを机に置く。


「感電……静電気ね」


 イルマちゃんがグローリアちゃんは帯電体質だって言ってたもんな。


「そういう時はね。ちょっと散らせば平気なのよ」


 なんかふさふさしたやつでドアノブ触ってからだと、バチって来ないとか誰かが話してるのを聞いた気がする。


「だからこうすれば」


 もらったハンカチを摘んで、グローリアちゃんの手にふさふさと触らせてから、手を握る。


「平気でしょ」

「なっ!」


 グローリアちゃんの髪がざわっと逆立ったと思うと、すっと元に戻った。


「あれ? うそ……なんともない」

「こうして、電気を逃がせばいいのよ」

「え? ええ?」


 グローリアちゃんはびっくり顔で自分の手と俺の顔を交互に見る。

 帯電体質で長年さぞかし苦労してきたんだろうなぁ。


「そんくらいで平気なんすか?」

「え~? バチって来ない~? こな~い!」


 イルマちゃんとラウラちゃんが、グローリアちゃんを触るがもちろん平気だ。


「いったん散らせばしばらくは大丈夫なはずよ」

 なんかそんな風に聞いた気がする。


「レティシア様、物知りですのね」

「すごいですわ」

「ほかにも何かありますの?」

「教えてくださいませ」


 豆知識に感動した女の子たちが詰めかける。

 んん? もしかして君らも帯電体質だった?


「ええっと……」


 他に何か帯電体質対策ってあったっけか?


「ちょっと! あんたたちあたしのお義姉ねえさまに迷惑かけないでくれる?」


「はい?」


 おねえさま? ですと?


「お兄様の婚約者なんだから、お義姉さまでしょ!」

「まぁ、そうね」


 できれば結婚のことはあまり考えたくはないのだが。


「未来はどうなるかわからないけれど……今はあたしのお義姉さま……ですよね?」

「そう、ね」


 ちょっと不安そうだった顔が、ぱっと笑顔になる。


「それでは、お義姉さま。ふつつかものですがよろしくお願いいたします!」

「よろしく……ね」


 そっかー。

 義理姉……か。

 まぁ、そーなるのかぁ。


 婚約者の存在がちらついて、ちょっと複雑ではあるが『おねえさま』って響きはいいなぁ。


 よしよし、俺はグローリアちゃんのお義姉さまとして、彼女にお姉さまや妹ができるのを見守らせてもらおう!


 ふふふ。

 学園生活の楽しみがまたひとつ増えましたな!!

次はグローリアちゃん視点をすこししてから、新ヒロイン登場させますー。

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