彼女の過去
夕食が終わってしばらくしたころ、イルマちゃんとラウラちゃんは連れ立って部屋にやってきた。
二人は並んでテーブルに付いたが、どう切り出せばいいかわからないようで、しばらく沈黙が続いている。
「お茶でもいかがかしら?」
もうちょっと緊張を緩めてもらわないとなぁ。
「いや、大丈夫っす!」
「おかまいなくです~」
「紅茶は家の特産品なの。ぜひ、召し上がってほしいわ」
「あ、そうなんすか」
「でも~」
二人が遠慮の言葉を出すより早くエダが素早く食器を並べ、熱いティーポットを持ってくる。
うむ。
さすがエダ。
お湯や食器の準備はあらかじめ済ませ、私がお茶を勧めると同時に抽出をはじめていた模様。
パーフェクトですね。
さすが俺のメイドです!
小さく笑顔を向けると、照れてきゅっと肩をすぼめるしぐさが、とてもプリティでございますな。
さすが俺のメイド、やっぱりパーフェクトです。
3つのカップにきっちり同量のお茶を注ぎ、エダは自然な動きで下がる。
あたたかな湯気とお茶の香りが満ち、イルマちゃんとラウラちゃんの表情からようやく少し力が抜けた。
「いただきます」
先に一口含んだイルマちゃんが目を見開く。
「わ、おいしいすね、これ」
「そうなの~? ん、うん。たしかにおいしいかも~」
「ありがとう、うれしいわ。家は茶畑ぐらいしかないけど、その分お茶には自信があるのよ」
知識だけが先行してた俺も、レティシアになってから紅茶に目覚めたもんね。
胸を張って家の紅茶は旨いと断言できる!
「自信もって当然すよ。この味なら」
「うん~。やっぱ地元密着は強いよね~」
「ふふっ。辺境領地にもいいところはあるのよ」
「ああっ、その! 貧乏辺境領主の娘さんとか言ってるの、グローリアさんだけっすからね。アタシらは本当ならこの学園来れないぐらいの名前だけの貴族っすから」
「そうそう~。グローリアちゃんは伯爵家の本家だけど~、私とイルマは分家も分家のはしっこだから~。ぶっちゃけ中央に何かあったら最初に切られるだろうし〜。潰しの効く辺境領主うらやましい~」
「すよねぇ。アタシらなんか、ちゃんと魔法が使い物になるようにして手に職付けろって親から言われてるんすよ。大人になって援助は期待するな的な?」
うーん、どこも大変なんだなぁ。
「あ、お腹がいっぱいでなかったら、お菓子もどうぞ」
お菓子はリゼットちゃんから分けてもらったナッツのクッキーだ。
粉にしたナッツに、少し荒く刻んだいろんな種類のナッツをさらに混ぜ、蜜を混ぜ押し固めて焼いたもの。
見た目はシンプルなクッキーなのだが、口に入れるとほろりとほどける。
「わ、これ好きかも~」
「これもおいしいっすよ」
「じゃあ、半分こね~」
うんうん。
この子たち、凄くおいしそうに食べるんだよなぁ。
良きかな良きかな。
「口元ついてるよ~」
「ふむ?」
「違う違う~」
「む?」
「もー、じっとしてて、とってあげるから~」
そして、ぽろぽろ崩れるクッキー出した俺グッジョブである!
「あ……アタシたちお菓子食べに来たんじゃなかった!」
「そ~だよ~。グローリアさんんのこと、謝りに来たの忘れてた~?」
「忘れた」
忘れてたのかよ!
ああ、イルマちゃん……ハスキーだなぁ。
ちょっとおバカなところがいいねぇ。
「えっとすね。あの、今日のことなんすけど、グローリアさんは悪気があったわけじゃなくってすね」
「ええ。わかってるわ」
「グローリアさんは~、触られるのすごく苦手なんですよ~」
「それであの反応だったのね」
触られるのが苦手かぁ。
それは珍しいことじゃないと思うけど、あんまりグローリアちゃんのイメージじゃないなぁ。
この二人とも仲良くしてるし……
ん~。
確かに……仲良くしてるし近くにはいるけど、ボディタッチがあるのは見たことないかもしれないな。
「グローリアさんの魔法は電気なんすけど、やっぱり本家の魔法は強力で。でも、ちっちゃい頃ってコントロール難しいじゃないすか」
「そう、かもね」
いや、レティシアの魔法は解呪なんで、コントロールをミスって何か~ってことはなかったみたいなんですけどね。
火とか電気とか、攻撃系に使えるのは大変なのが想像できる。
「そんでちっちゃいころの話なんすけど、グローリアさんコントロールミスして、事故で感電させてしまったことがあるんすよ」
「子供どうしのこととはいえ~、グローリアさんの魔法は強力だから~」
「その時のトラウマがけっこうきついんすよ。今でも人に触ったたり触られたりを極端に嫌がるの、そのせいなんす」
子供どうしってことは、幼いグローリアちゃんが感電させたのは子供か。
今でもトラウマになるほどの事故と言うことは……
「まさか、その子供は……」




