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悪役令嬢は残念系

「いったい誰からなのかしら?」

「心当たりはあるんですか?」


 この花の送り主ですか?

 100パーあそこでギリギリしてる、がっかりフォックス娘ですよ?


 とはいえいじめの失敗だ。って言ってやるのはあまりにもかわいそうか。

 これ以上傷口に塩を塗りこむこともあるまい。


「さぁ、誰なのかしら? きっととても恥ずかしがりやさんなのね」

「きっと、そうですわね」

「うふふ。どんな方なのかしら」


 しかし!

 クラスメイトのこの反応は……!


 この学園に百合があり、またそれを当たり前と取っている様子!!


 うわー、いいなぁ。

 どうせなら俺もそっち側に行って、花束もらった子にキャッキャしたい!


 なにせ百合男子とは日陰者であるのだ。

 最近は多少知名度は上がってきたとはいえ、本屋で棚があるBLに比べて、百合な書籍のなんと少ないことか。

 百合を感じる少女漫画を持つことも、男のくせにとさげすまれることがある。


 自分が百合男子と公言することは許されず、よって同好の士と出会うことは稀。

 また出会っても、相手が百合に入りたい派だったりしたら血を見ることになる。


 俺は百合に目覚めてほんの二年ぐらいの若造だ。

 百合愛は誰にも負けていないが……今だ、同志に出会っていない。


 だがここなら、ここならっ!

 恋を応援するというていで、みんなと百合を語れるではないか!


 素晴らしい……!

 パラダイスかここは!


「皆さん、席についてください」


 モーリア先生が教室に入ってくる。

 おっと、もうそんな時間か。


「レティシアさん、どうかしたんですか?」

「あ、机にお花のプレゼントがあったので」

「まぁ、素敵。レティシアさんの復帰を応援してくれている人がいるのね」


 うん、まぁそう取るよな。


「そのままだとしおれてしまうわね。花瓶がここに……これがちょうどいいかしら?」


 教卓の下からクリスタルガラスの花瓶を出してくれる。


「ありがとうございます」


 教卓の前に行って花を花瓶に入れると、

「お水は私が!」

 と、前の席の女の子が手をこすり合わせると、手のひらから花瓶にちょうどの水が注がれた。


「ありがとう。すごいわね」

「いえ、こんな魔法でお恥ずかしい」

「こんななんて。水はなければ命に係わるのに」

「……そんなこと言われたの初めてですわ」


 いやいや、水はめっちゃ大事だろ。

 こんなファンタジーな世界だと余計大事だと思うんだけど、まぁ、ここと俺の常識がずれてる可能性も高いしな。


「そうなの? 私は自信をもっていい魔法だと思うわ」

「まぁ」

「ありがとう」


 お礼を言って、この花は席の後ろにある棚にでも置くか。

 モーリア先生に会釈して、ちょっと速足に自分の席に戻る。


 ガッ!


 足に何か引っかかった。

 がくんと視界がズレ……このままだと転ぶ!


 だがここで転んだら、花瓶をぶちまけることなるではないか。

 せっかく入れてもらった水を無駄にはできないし、女の子たちにかかってしまうかも。

 なにより、花瓶にあたったりしたらケガを!


 女の子にケガをさせるわけにはいかん!

 いかんのじゃ!!


 何が引っかかったか知らんが――


 ふり抜け!!


 何かが引っかかった足にグイと力を入れ、そのまま前に!


 ダン!

 と、エレガントではない足音がしたが、何とか転ばずに済んだ。


 何が引っかかったのかと振り向くと、グローリアちゃんが足を抑えて悶えている。


 ……お前か。

 まあ、お前しかいないか。


 けど、思いっきり降りぬいたから、結果的に思い切り蹴り飛ばしたことになるんだよな?


「だ、大丈夫?」

「う、うるさいわねっ。この力持ちっ。あざになったらどうするのよ」

「グローリアさん。机の外に足を出していたあなたが悪いんですよ。お行儀の悪い」


 モーリア先生にビシッと言われ、グローリアちゃんは半泣きで黙り込む。

 ほほー。モーリア先生、ちゃんと先生してるなぁ。

 よきかな、よきかな。


 それに比べて本当に残念だな。

 このキツネ耳悪役令嬢さんは。


 うん。

 俺はちょっと怒っているのだ。


 俺だけに何かを仕掛けてくるなら構わないが、周りに被害が出るようなことをされては黙っていられない。

 ここに咲く美しい百合を傷つけると言うならば、俺はお前の敵になる。


 ……まぁ、グローリアちゃんが仕掛けてこなきゃ、こっちからは何もする気はないんだけど。

 あの恨めし気な目を見るに、覚悟しといた方がよさそうだなぁ。

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