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さっぱり記憶にございません。

「えっと、グローリアさんのお兄さん?」


 んんん?

 お兄さんって誰だ?


 この子のお兄ちゃんってことはこのキツネっぽい耳がついているんだよな?

 ここでもケモミミの人は少な目だし、会ったことあるなら覚えてるよな。


 レティシアの記憶をざっと捜索するが、ケモミミの人との思い出は、子供のころにウサ耳の女の子と遊んだことぐらいだ。


 ちょっと待て、今のウサ耳っ娘は誰じゃい!?

 母の古い友人の娘ちゃん!?

 おおお……記憶ではまだおチビだけど、きっと今頃素敵なウサ耳レディになっていることだろう。


 って、ちがう!!

 このグローリアちゃんに兄ちゃんの結婚相手と言われるような理由を探すのだ。


 んー。

 んーー。

 うーん。


 記憶にござらん。


 仕方ない。聞くか。


「ごめんなさい。どこでお会いしたんだったかしら?」

「会ったことなんてないわよ‼︎」

「はい?」


 さすがに会った事もない人は知らんわ!


「私は、グローリア・ヴエロネージェよ!」

「そ、そうね」


 めちゃめちゃえらそうに名乗られたけど、それさっき聞いたよ。


「………」

「あの……」

「っ! とにかく、私は認めないから! それだけは言っておくわ!」


 ビシッ!

 と、指を指して宣言し、取り巻きらしい女の子二人を連れて嵐は去った。

 取り巻きの子達は、グローリアちゃんに見えないように、小さく『ごめんね!』のジェスチャーをしてくれる。

 なかな苦労してそうだなぁ。


 結局、委員長であるグローリアちゃんからは時々睨まれるだけで何も教えてもらえず、他のクラスメイトに色々と世話を焼いてもらった。

 マジなんなの?




 せっかく楽しみにしていた初登校にケチをつけられて悶々としていたが、グローリアちゃんがオコの理由はあっさり判明した。


 本日の事をエダにグチった所……


「グローリア・ヴエロネージェ様ですか。同じクラスだったのですね」

「知ってるの?」

「え?」


 エダが丸い目を更に丸くする。


「レティシア様、もしかしてお忘れなんですか?」

「ええ。ちょっと、ど忘れかしら?」

「……グローリア・ヴエロネージェ様のお兄様、アダルベルト・ヴエロネージェ様は、レティシア様の婚約者ですよ?」

「え?」


 マジで!?


「い、何時そんな話に!?」

「ここに来る前にお屋敷で何度も話し合ってたじゃないですか。それで結婚は卒業してからと言うことに……なりましたよね? 私、勘違いしていましたか?」

「あああ、ごめんなさい。エダが悪いわけじゃないの。私が、少し混乱していただけなの」


 あれか!!

 あの今すぐ結婚しろ、すぐしろ。って、兄ちゃん×3と両親に詰められたやつか!


 政略結婚だから、身分と金があるだけのデブのおっさんに嫁がせられるのだと思い込んでた。

 結婚なんてはなからする気がなかったから、名前も気にしてなかったし。

 時間を稼いだだけのつもりだったが、卒業したら結婚しますってのは婚約してる状態になるのか。


 結婚とか婚約とか、男子高校生の頭には現実離れしすぎてて理解が追い付かない。


「そう。会ったことはないけど、あのグローリアさんのお兄様が私の婚約者なのね」


 てことは結婚したら、あのグローリアちゃんが義理の妹になるの!?

 あ、それはちょっとときめく。

 結婚はいやだけど。


 となると、グローリアちゃんには悪いことしたなぁ。

 ブラコンぽかったし、兄ちゃんの婚約者に宣戦布告しに行ったら、そいつが兄ちゃんを認識して無かったとか。

 かなり恥ずかしい展開じゃないか?


 明日、謝っとくか。





 だが、謝ることなどできなかった。

 なぜなら、グローリアちゃんによる壮絶なるレティシアいじめが始まったからだ。


 心配させる前に言っておくが、グローリアちゃんは必死にやっているようだが俺には全く効いてない。


 女子のいじめは陰湿だって聞いていたけど、たぶんグローリアちゃんは根が善良なんだと思う。

 なんと言うか、いじめにめちゃめちゃセンスがないのだ。



 俺はグローリアちゃんに謝らなきゃなぁ。なんと言えば丸く収められるかと考えながら教室に入った。


「おはようございます」

「おはようございます!」


 クラスメイトの気持ちのいい挨拶が響く。


「皆さんおはようございます」


 挨拶を返しながらグローリアちゃんを見ると、睨んでいるかと思ったのに何かにやにやご機嫌だ。

 お、この調子なら謝るのも楽そうだな~。

 とりあえず鞄を置こうと席に行くと……机の上に花があった。


 おそらくグローリアちゃんによるもので、あの『葬式ごっこ』的ないじめだと思われるが――


 花が、アレンジされたミニブーケです。

 バラとか名前が分かんないけどいい匂いのする花で、黄色と淡いオレンジを主体にしてる。

 すごくかわいい。


 おい! ここはもっと陰気な感じな花にするべきだろ!

 せめて色は白で!!


 呆れてグローリアちゃんを見ると、勝ち誇った顔してる。

 待て、勝ってない。

 お前全然勝ってないからな。


「レティシアさん。このお花みんなが来る前に置かれていたんです」

「すてきなブーケ」

「どなたからなんですか?」

「メッセージカードがありますよ。みんな気になってて」


 クラスメイトがわらわらと寄ってくる。


 うん、これ、葬式ごっこじゃなくて、愛の告白とかそんな感じにしか見えないからね!


 だが、メッセージカード。

 ここに『死ね!』とか『呪』とかかかれていたら人が集まっているだけにダメージになる。

 そう計算したのか!


 白いカードを開くと……何も書いてない。


「まぁ、白紙ですの?」

「お名前もなし?」

「どういう意味かしら?」


 多分なんて書いていいかわからなかったんだろうな。

 悪口のボキャブラリー少なそうだし。


「言葉にできない……ってことかしら」


「キャーキャー!」

「すてき!」

「すぐにこんなプレゼントをもらえるなんて」

「さすがレティシアさんですわ」


 クラスメイトたちがキャッキャと騒ぐ後ろで、当のグローリアちゃんは親指の爪を噛みながらこちらを睨んでいる。


 っとに……お前は残念系悪役令嬢かよ……

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