設定盛りすぎ委員長登場
おはようございます。
福井直人こと、レティシア・ファラリスです☆
いやまてよ。
レティシア・ファラリスこと福井直人が正しいのか?
よくわからんし、どっちでもいいや。
はっはっは。
今日の俺ははっきり言って浮かれている。
浮かれすぎている。
だって、今日は初登校なんだからな!!
夢にまで見た女子校。
いや、そこに登校するなど、夢に見ることすら許されなかった場所。
そこに!
今日!
俺は行くのだ!!
「レティシア様、ご機嫌ですね」
「ええ、当然よ」
いやぁ、勝手に顔が緩んでしまって!
俺の浮かれ具合が伝染したのか、エダの表情も明るい。
うむ。
いい朝だ。
ご飯もおいしい!
食事は食堂があってそこで食べることができるし、メイドに部屋まで運んでもらって食べることもできる。
食材を運ばせて、お抱えシェフに作らせてる生徒もいるとか。
レティシアみたいな辺境領主の娘には、そんな贅沢できませんが!
あ、レティシアもお茶は持ち込みだ。
売るほどと言うか、売ってるんだから当然か。
エダが淹れてくれた、持ち込みのお茶で食後の一服。
ふぅ。
ちょっと落ち着く……わけがない。
エダの手前、ご機嫌で済むぐらいにしているが、実際のところ踊り出したいぐらいである。
一人なら踊ってた。
準備は念入りに済ませたし、見直しも三回した。
忘れ物はないはず。
髪はエダにやってもらって、いつもの編み込み。
制服には皺ひとつなく、白いスカーフは完璧な左右対称のリボン結びだ。
「そろそろお時間ですね」
「そうね」
待ってましたぁぁぁ!
はやる心を抑え、あくまで優雅に立ち上がる。
「ちょっと緊張してしまうわね」
「レティシアさまなら、何も心配いりませんよ」
「だといいのだけれど」
「大丈夫ですよ。このエダが保証しますから」
「ふふ。なら安心ね」
ううーん。
この絶対の信頼、裏切れない。
エダのためにもレティシアとして、ボロを出さないようにしないとな!
まず向かうのは職員室。
リゼットちゃん――じゃなくて、モーリア先生に案内されて教室に向かう。
女子校。
ここが女子校です。
昨日は教室部分に入ってないので、これが、初侵入です!
しかし、魔法学校っても、構造は日本で俺が通ってた学校とそう変わらないな。
もちろん壁は石造りだし、床はなんかすごいツヤツヤした木材で、すげぇ高そう……なんだけど。
やっぱり学校ってことになると、作りは似るんだろうか。
教室がいくつも並んでいて、すりガラス越しにまだ授業開始前のせいか、楽し気におしゃべりする女の子たちの声が響く。
……幸せだ。
「緊張してる?」
モーリア先生が俺の顔を見て小さく笑う。
「ちょっとだけ。じゃなくて、少し緊張しています」
今日からはけじめをつけるって、昨日話し合ったのだ。
モーリア先生とレティシアは、この教室棟ではきっちり先生と生徒なのである。
ただし、お互いの部屋とかでは、その限りではない。のだ。
「深呼吸してみたらどうかしら」
「そうですね。すー……はー……」
おおい!!
なんか空気もおいしいってか、ふんわり甘い匂いしない!?
これが女子校の香りなのか!?
「落ち着いた?」
「は、はいっ」
正直さらに緊張します。
「じゃあ、ついてきてね」
モーリア先生がドアを開けると、おしゃべりの声が止む。
ずらりと並んだ席に着いた、女の子たちが一斉に俺を見る。
くっ!
女の子っ、ばっかりです!!
みんなっ、かわいいです!!
ざっと見渡した感じ、三分の二が人間で、三分の一がモンスターっ娘だ。
この国の貴族階級にはけっこうモンスターがいる。
侯爵家のひとつがドラゴンの血筋だし。
モンスターだから~、人間だから~ってあれこれもあんまなくて、いい感じに混じって生活してる感じだ。
いいよね、モンスターっ娘も!
あの子はハーピーで隣は侯爵家のドラゴンちゃんかな?
異種族百合もいいと思います!
「皆さん、今日から新しいお友達が増えます。遅れて編入する理由は昨日お話した通りです。あまり無理はさせないように、気を付けてくださいね」
ちょっと前まで呪いで寝ていたから気を使ってくれているんだろうが……
めっちゃリハビリと体力づくり頑張ったので、レティシアは直人の時より運動できます。
病弱ってレティシアのイメージにぴったりなので黙ってますけど。
「レティシア・ファラリスです。皆さんより少し年上ですが……寝ていたせいかあんまりそんな気はしないんです。同級生として仲良くしてくださいね」
昨日考えたあいさつ、噛まずに言えたぜ。
「それじゃ、レティシアさんはあの空いている席に」
モーリア先生が指さしたのは後ろの端っこ。
教室全体を見渡せる特等席ではないか!
隣は黒髪清楚なおとなしそうな子だ。
軽く頭を下げると、会釈を返してくれる。
んー、仲良くなれるといいなぁ。
「委員長さんレティシアさんのことをお願いしますね」
「はぁい」
ちょっと不満そうな返事が聞こえた。
おっと、委員長がどの子か確認できなかったや。
サクッとホームルームが終わり、モーリア先生が教室を出ると同時に、わっと女の子たちの声が上がる。
わかっております。
転校生につきものの質問攻めですね!
どのように答えるか、入念なシミュレーションを繰り返し、どんな質問が来てもそつなく答えられるようにしてある!
さぁこい。
どんと来い!
ばんと来い!
バン!
大きな音を立てて、机を平手で叩かれた。
「あなたがレティシア・ファラリスね!」
「……そう、ですけど?」
「あたしがこのクラスの委員長。グローリア・ヴェロネージよ」
「委員長さん……」
委員長? って、お前凄いな!!
金髪ツインテに赤いリボン、ちょっと釣りぎみな大きな目は薄い水色。
幼く見える顔立ちだが、気の強さがあふれて出ている。
そして極めつけに、耳。
ツインテリボンの前に、ぴょこんと飛び出た獣耳。
猫耳? 犬耳?
ちらりと腰を見ると、ふさっふさモフモフな大きなしっぽ。
狐かな? とりあえず犬系か。
しかし……
釣り目金髪ツインテ犬耳ツンツン委員長って、有村さん越えしてるだろ!
盛りすぎだ!
あまりの衝撃に放心してしまったが、委員長。
彼女が委員長か。
「よろしくおねが――」
「あなたみたいな年増がお兄様の結婚相手だなんて、あたしは許さないから!」
「は?」
そ、そのセリフへの返答は、シミュレーションしてなかったなぁ。