歩き出すための一歩
「リゼットちゃん、どうしたの!?」
「レティシアちゃんっ……ごめんっなさい」
「え?」
「ごめんなさいっ」
ボロボロ泣きながら謝られるけど、俺にはなんのことやらで!
慌ててレティシアの記憶を探ってみるけど、呪われる前にケンカしたとかそーゆーのないぞ?
つか、いい友達だなぁ、リゼットちゃんとレティシアは。
仲はいいけどべったりではなくて、お互い干渉しない部分はわきまえつつ、困った時には手を差し伸べ合う……理想の『親友から百合ルート』じゃん。
それぞれの夢がある女の子が、お互いに応援しあって学校卒業後、全然違う道を行く。
会うこともなく数年たって……からの再会!
昔から変わってない部分と、自分が知らない部分が混ざった親友に戸惑いつつときめきを隠せない二人は……
って、ごめん、現実逃避してました!
だってこれどうしたらいいのか!
「リゼットちゃん、どうしたの!?」
「わたしがっ、解呪の魔法を使えたらっ、助けてあげられたのにっ。こんな当たり前の魔法しか使えなくてっ」
魔法は当たり前じゃないし、火の魔法超便利だし、できれば俺もそれがいいし。
ってか、そもそもリゼットちゃんが解呪の魔法使えたら、呪われてたのはリゼットちゃんなわけで!
いやいや、違うそうじゃない。
そうなんだけどそうじゃない!
ちょっと落ち着こうな、俺!
「ごめん、ごめんね」
しゃくりあげながら泣くリゼットちゃんは、記憶の中にある少し幼いリゼットちゃんと同じ顔をしている。
……あ、そうか。
大人になったのに二年前から変わらない部屋は――もしかしたらこの学校に教師として残ったのも――全部レティシアのためなんだ。
時間を止めた親友を置いて、リゼットちゃんは大人になれなかったんだろう。
レティシアのために何もできない自分を責めて、責めすぎて、一人で先に進むことができなかった。
「リゼットちゃん」
「ごめ、ごめん……」
「はい」
俺はリゼットちゃんに向けて両手を広げる。
何も言わなくても、彼女はそれだけで俺の胸に飛び込んできた。
彼女は俺に、いやレティシアに縋り付くように抱き着いて、ずるずると膝を折る。
身長差が逆転して、ちょうどリゼットちゃんがレティシアの胸に顔をうずめるみたいになる。
これじゃさっきと逆だな。
「リゼットちゃん、私ちゃんとここにいるよ。呪いなんて何でもないの。少し寝過ごしただけだから」
「二年は少しじゃない~」
「ごめんね。これからは早起きするから」
「うん」
オレンジがかったリゼットちゃんの金髪を撫でる。
真っすぐな髪はサラサラとして指をすり抜けていく。
「ちゃんと帰って来たでしょ」
「うん」
「私が眠ってたのはリゼットちゃんのせいじゃないし、寝過ごした分はこれから取り戻せばいいだけだから」
「うん」
「これからは先生と生徒でちょっと変わるかもしれないけど、実はそれも楽しみなの」
「うん」
「だから……心配かけてごめんね」
「うん」
「ゆるしてね」
「うん、ゆるす」
リゼットちゃんが声を出すたびに、胸の谷間に温かい息がかかる。
くすぐったくて、でも、どこか幸せなぬくもりだ。
……俺がどうしてレティシアの中にいるのか分からないけど……よかった。
俺はリゼットちゃんにうそをついているのかもしれないけど、それでも。
彼女が前を向いて進むための、背中を押すことができたなら。
それだけで、俺は尊死したかいがあったと思うよ。