夏休み おしまい
あいつだあいつだ、アルちゃんつーかアダルベルト!!
なんであいつがみんなをいじめるのかは分かんないけど……
ここまでみんなをへこませられる存在は、この別荘ではあいつだけ。
何してやがる!?
と、姿を探せば、奥の長椅子に悠然と座ってグラスを傾けていた。
クッソ様になりますな!!
妖艶なお姉様って感じで実にいいですな!!
ヤローだけど!!
すぐに文句を言いたいところだが、その前にっ!
「グローリアさん!」
「ひゃい!」
「あなたは大丈夫?」
「な、何のことかわかりませんけど……」
「そう」
ふむ。
妹のグローリアちゃんまではへこませてないんだな。
「はぅん」
「ちょ、グローリアさんダイジョブっすか?」
「裾ふんじゃった~?」
「お義姉様のあんなりりしい表情……こんな至近距離でっ」
「あ、平気っすね」
「ね~、私さっきのケーキ~、もっいっこ欲しいかも~」
「いいっすねー!」
そんで、イルマちゃんラウラちゃんも無事っぽい。
何のつもりか速攻で問い詰めに行きたいところだが、それより先にするべきことがある。
「エダ!」
奥にいるエダには聞こえなかったかもしないが、ヴェロネージェのメイドさんたちは目配せを交わし合い、素早くエダを連れて来てくれる。
こーゆー所、ホントエリートメイドさんたちだなーってほれぼれ。
さて、なんとかエダを表に引っ張り出せたけど……
エダはすっと立って、レティシアの次の言葉を待っている。
いつもなら、何ですか? とか、素敵な笑顔で聞いてくれるのに~。
エダもヴェロネージェ家のエリートメイドさんの所作を学んでいるらしい。
その勉強熱心な姿勢、すばらしい!!
けど……違うんだよなぁ。
そんな態度、なんかさびしい。
「ちょっと、これを食べてみてくれない?」
たっぷり並んだケーキから、ひとつ差し出す。
「いえ、これは私が口にできるようなものでは」
「いいから、食べてこれに合う紅茶を淹れてくれないかしら?」
ふはは!
こう言えば、断れないだろう!!
「では……」
一口食べて、ゆっくり味わう。
「チーズとベリー。ミルク感も強いのでさっぱりしたストレートで」
「茶葉はどれがいいかしら?」
「ファラリスのものもいいですが、ヴェロネージェ様はたくさんの茶葉をお持ちですので」
ちな、ここでファラリスってレティシアの家を呼び捨てにしちゃってるのは、ファラリスが地名でもあるから。
ファラリスで取れたお茶は、ファラリスティーとも呼ばれて……実はけっこうマイナー茶葉なんだよなぁ。
いや、これからこれから!
「じゃあ、選んで淹れて頂戴。ほかのケーキに合うお茶も選んでほしいから、一緒に食べましょ」
「そういうわけにはっ」
「メイドだから。なんて言わないでね。エダは私の恩人なんだから」
「恩人?」
リゼットちゃんが小さく首をかしげる。
「ふふ。エダはね。私が呪いで眠っていた間、ずっと看病してくれていたのよ。目覚めるかどうかもわからなかったのに、ずっと。だから今、私はこうしていられるの」
「そんな、当たり前のことでっ」
「あたりまえなんかじゃないわ! それってすごいと思う!」
グローリアちゃんが身を乗り出す。
「すごい。先の見えないことを何年も続けるのは……辛いことよ」
エリヴィラちゃんの言葉が重い。
そーだよなー。
ずーっと呪いの血筋だ―って言われてたんだよなぁ。
それが一生続くって覚悟して。
つらっ。
マジつらっ。
最近は妙に卑屈になるのもなくなってきたと思ったのに、掘り返しやがって!
「ほら、マリオンちゃんも。その恰好じゃ食べにくいでしょ?」
抱きっぱなしでなでなでしていたマリオンちゃんにも声をかける。
ちょっと大きめのおとなしい猫ちゃんを抱っこしているような、幸せな重さを放棄するのは悲しいがっ。
このままじゃカップ持てないしなぁ。
腕の中のマリオンちゃんが、ふるるっと震えて人型に。
つってもまだ一回り小さくて、おやっ?
「新しいドレスかわいいっ」
「スライムですから」
せっかくかわいいのに、レティシアのドレスの陰に隠れてしまう。
「誰もそんなこと気にしてないのに」
「気にしてないのはお姉ちゃんぐらいだもん」
あぅっ。
ぐっ、そうだよな。
簡単に切り替えられないよな。
「そ、そうかしら? ほら、リゼットちゃんもそんなの羽織ってたら暑いでしょ?」
「あ、少し肌寒くって」
「あら」
いや、日が落ちて過ごしやすくなったとはいえ、それはない。
けど、無理強いしてどうにかなるもんでもなし。
「お義姉様?」
みんなの様子がおかしいのに気づいてか、グローリアちゃんの顔が曇る。
安心させるために笑顔で頷いて見せるが……
正直何をどうすればいいか全くわからん!!
リゼットちゃんの悩みなんかはわかりやすく根深いやつじゃん?
教室の空気だった俺にはわかるのだ!
女子とかなんかずっと痩せたーいって言ってるじゃん?
周りが太ってないよーって言っても聞かないし!
それでいてマジで悩んでる子は、口に出さなかったりするし。
デリケートすぎる!!
うぬぬ。
とにかく、話すしかないよな。
リゼットちゃんだけじゃなく、エダやエリヴィラちゃんやマリオンちゃんとも。
藪蛇になりそうな感じがするけど!!
「あ、あのね、みんな」
「レティシアちゃん、いいかしら?」
「!?」
振り向くとそこに諸悪の根源、アダルベルトの姿があった。
「少しお話しましょ」
悔しいほど完璧な笑顔でアダルベルトが言う。
うーむ、作り物だからこその完璧さってあるんだよなぁ。
お前と話したい気持ちはあるが、今はそれどころじゃない――
「はい」
体が半ば勝手にアダルベルトについていく。
ぐぎぎ!!
なぜならば、このパーティで一番身分が高い人の言うことはぜったーい!
ってマナーがあるのだ!!
これに逆らうのはかなりの不作法。
レティシアに染みついたマナーに逆らえないっ!!
「後で、ね。まだ話したいから」
なんとかそれだけ伝えて、アダルベルトに促されるままにテラスに。
広いテラスはあらかじめ人払いされていたのか、いつでも用事を聞くために待機しているメイドさんの姿がない。
普通に話をするぐらいなら、聞かれないかな。
静かで少し怖いような森の景色、夜の虫や鳥の声、降り注ぐような星空。
なんてすばらしいロケーション。
百合っプルが並んでいるところを見たい……
「お話とは?」
がっつり問い詰めたいところではあるが、その前にみんなと話をしたい!
なんか言うことがあるならさっさと済ませろ。
「はーやーすーぎぃ!」
「は?」
何言ってやがる?
ふたつの拳を口元に持って行ってイヤイヤするの……
確かにかわいいんだけどさぁ……若干引くわー。
「早いの! せっかくあの娘たちのコンプレックスを刺激してあげたのに!」
「やっぱりあなたなのね!!」
何してくれるんじゃワレェ!!
「どうしてそんなことを!?」
「そんなの、あなたのために決まってるじゃない」
「なんですって?」
何言ってんの?
全然俺のためになってねぇよ!!
「高慢ちきだけど美貌の伯爵令嬢にいじめられた、身分はないけどかわいい頑張り屋さんたち」
と、チラリと目配せした先には、寄り添ってこちらを心配している様子のみんな。
「伯爵令嬢に言われたことを反芻して落ち込むでしょう。変わろうとするかもしれないけれどそう簡単にはいかないはず」
アダルベルトは扇子を口元に寄せる。
うーむ、堂に入った悪役令嬢っぷり。
「体形、出自、身分、種族。どれも努力でどうにかなるものじゃないわ。あ、体形は何とかなるような気がするでしょ? だけど一度コンプレックスになってしまったらどんなに完ぺきな体形になっても満足できないものよ」
それは、なんとなくわかる。
「そして、コンプレックスの塊になったところで! レティシアちゃんがうまーく慰めてあげたら、もうあなたのことしか見えなくなるのは確実。簡単にオチるわ」
「なにを言っているの?」
「大丈夫。慰め方はこっちで完璧なシナリオを用意してあげるから。ふふふ。誰が好み? 本命がいるならその子以外はオトさないようにする?」
「なにを! 言っているの!!」
レティシアにしてはすごく大きな声が出た。
つか、レティシアの咽からこんな怖い声が出たのか。
「私はそんなこと望んでない! 体形? 出自? 身分? 種族? それがなんなの!?」
こんなに怒ったのは久しぶりってか、初めてかも。
「リゼットちゃんの体形は素敵よ! 今で完璧よ!! そりゃあ、本人が痩せたいって言うなら応援するわ」
あの豊満なおっぱいがなくなっちゃう可能性があるのはさみしいが。
「けど、今より太っても痩せても完璧よ。もちろん健康に支障がなければだけど。どんな姿でも私はリゼットちゃんが大好きよ!」
「出自? 呪いの血筋のこと? そんなのエリヴィラちゃんには何の関係もないじゃない。私にとっても無意味もいいところだわ!!」
そんなことにこだわるやつの気が知れない。
「というか、私にとってはいいことかもね! 血で受け継いだ魔法のおかげで、同じ魔法のグループに入れて仲良くなれたもの」
次は……
「身分の違い? それが何? 確かに私はあなたほどじゃないけれど恵まれた身分を持っているわ」
かなしいけど、この世界では身分は大きな意味を持つんだよなぁ。
「私は確かに身分に甘えているわ。でも、それをなしにしたら私がエダより優れている所なんて何もないわ。エダのことは尊敬すべき友達で……そうね。大事な妹。心の身分はおんなじなんだから!」
そして最後は、
「種族ね。確かにこれは変えられない。マリオンちゃんはスライムで私は人間。でも、そんなこと関係なく私はマリオンちゃんのことが好きよ」
うんうん。
そりは間違いない。
「確かにスライムだって言うのはマリオンちゃんの魅力だけど……もし、マリオンちゃんがスライムじゃなくっても、私はマリオンちゃんと友達になれるはずだもの」
「え? それ逆では?」
「逆? なの?」
アダルベルトの方から突っ込みが入った。
えーと、マリオンちゃんのコンプレックスはスライムであること?
あ、逆か?
俺にとってはスライムっ娘って魅力でしかないけど。
「ぎゃ、逆でも何でもいいの! 私がみんなを大好きだってことは変わらないから! グローリアちゃんだって伯爵令嬢なんかじゃなくてあなたの妹じゃなかったら、もっと早く仲良くなれてたはずよ!!」
そうそう。
グローリアちゃんが最初ツンツンしてたの、アダルベルト関連だったもんな。
忘れてたけど。
「私は、今のみんなが大好き! これから変わっていくみんなのこともきっともっと好きになる。けど、それはみんなが笑顔じゃないと意味がない!!」
大体、簡単にオチるとかなんなんだよ。
クッソ意味がねぇわ!!
「私は、笑顔のみんなを見ているだけでいいの! みんなが私を嫌いになったとしても、彼女たちが笑っていられるなら私は構わないの!!」
いや、嫌われると傍にいるのが難しくなるから、できれば嫌われるのは避けたいけど。
とにかく、俺が見つけた百合の園を荒らすつもりならば。
「あなたが彼女たちから笑顔を奪うなら、幼馴染でも婚約者でも容赦はしないわ!」
絶対に許さんからな!!
具体的に何するかは全く思いつかないが。
「………」
「………」
俺とアダルベルトは、しばし無言で睨みあう。
いや、アダルベルトの方は扇子を少し開いて視線を隠しきょろきょろ。
「おっ義姉様―!」
「ふぐっ」
ずん!
と、もう慣れた衝撃が腰に来る。
グローリアちゃんと、みんな……
「お兄様がごめんなさい! あたしも一緒に謝りますから、許してあげてくださいー!」
「グローリアちゃん」
「お兄様と結婚するのもなんだかやだけど、お義姉さまがお義姉さまじゃなくなっちゃうのはいやー!」
「大丈夫よ。グローリアちゃんと私のつながりはそれだけではないでしょ?」
「いーやー! お義姉さまがお姉さまになったら、エリヴィラさんと被るー!」
そんな問題?
「お姉様、私も気にしていません。呪いの血のことなんかもういいです。お姉様と友達が気にしてないのに、外野に何を言われても平気です」
エリヴィラちゃん。
「私、結構強いんですから」
知ってるー!!
知ってるよー!!
「そうね。何を言われてもわたしはわたし。大好きな人がそれを認めてくれるならこんなのはいらないわ」
リゼットちゃんが、ふわりとケープを脱ぎ捨てる。
胸を張って、堂々と前を向く姿。
それこそがリゼットちゃん!!
「マリオンね。スライムでよかったってこんなにいっぱい思えたの初めてかも。お姉ちゃんがね、スライムのマリオンが好きだって言ってくれたからだよ」
おお、マリオンちゃん、大きさも元に戻って!
変幻自在のスライム、やっぱいいよなぁ。
「レティシア様」
っと、エダ。
「友達で妹だと言ってくれて、とてもうれしいです。けれどエダは、レティシア様のレティシア様だけの特別なメイドになりたいです。今はまだ至らないところが多いですが、きっと一流のメイドになって見せます」
エーダー!
んなのもちろんレティシアにとってはエダは特別すぎるメイドだっての!!
今でも100点!
軽く500点ぐらい行くポテンシャルがあると思うけど!!
みんな、みんな。
大好きだ―!!
って叫びたいけれど、鼻の奥がつんとしてしまって口を開けない。
このままだといろいろ垂れる。
特に鼻水が垂れるのはいやだ。
レティシアに鼻水は似合わん。
「ううっ」
かすかな声に振り向くと、アダメベルトが俯いて……何そのアイコンタクト?
「ごめんなさぃぃぃ」
アダメベルトがぺたりとその場に座り込む。
「アルちゃん!?」
俺としてはほっときたいけど、ここで見捨てるのはレティシアじゃない。
「ごめんなさぁぁぁい。僕、レティシアちゃんがとられるんじゃないかと思ってっ! うぅぅ。ごめんなさい」
アダルベルトは肩を震わせて、ごめんなさいと繰り返す。
すすり泣いているようだが……
近くにいる俺には扇子で顔を隠しても見えてるからな!!
完全にウソ泣きじゃねぇか!
「だって僕はただ親が決めた婚約者っだってだけで。昔少しだけ遊んだことがあるだけで……みんながうらやましかったの……ぐっすんぐっすん、めそめそめそ」
おいこら。
「お義姉様。お兄様を許してあげてください」
「グローリアちゃん」
いや、あいつは一度ガツンとやったほうがいい。
ウソ泣きだし。
どうしたもんかと考える間もなく、ヴェロネージェのメイドさんたちがささっと集まってアダルベルトを囲むようにして連れて行ってしまった。
「あ、ちょっと!」
「いいじゃない」
それを留めようとする俺を、リゼットちゃんが止める。
「アダルベルトさんもつらかったのよ、許してあげましょ」
みんなうんうんそうだねー。って感じだけど、あれウソ泣きだぞ。
ま、蒸し返しても嫌な気分になるだけっぽいからいいか。
「さて。お兄様がいない以上、このホールの女王はあたし!」
突然グローリアちゃんが宣言する。
「さぁ。みんなあたしの命令を聞くのよ! まずはエダさん!」
「え?」
「さっきマリオンちゃんが脱いじゃったドレス、サイズよさげよね。着て。そして一緒に遊んで」
「そ、それは、私はファラリス家のメイドですので」
「え、いいじゃない。そうしましょ!」
うん、エダにもドレスを着せたいと常々思っていたんだよ。
イイ。いいね!
「そんな、レティシア様!」
「観念して、ほら、こんなにかわいい」
エリヴィラちゃんがささっとドレスを持ってきて、エダの胸に当てる。
うん、サイズぴったりじゃないか?
「あら、似合うわ」
「マリオンほどじゃないですけど、似合う方です!」
リゼットちゃんとマリオンちゃんもぐいぐい迫る。
「レティシア様……」
エダの助けを求める視線には気づかないふりをしておく。
「さぁ、パーティの再開よ!」
グローリアちゃんが宣言し、パーティの夜はまだまだ終わりそうにない。
それから、数日。
アダルベルトは別荘にはいるけれど俺たちに近づくことはなかった。
が、遠くの窓辺に姿が見えたり……視線だけはやたら感じたけどな!!
屋敷からは出てこないようなので、泉の方で遊んでいる時は見られてなかったようだ。
実害はないとはいえ、なんかキモイ。
それさえなければ楽しいだけの休暇を過ごし、寮に帰る日。
俺はアダメベルトに呼び出された。
通された広い客室ではシンプルなドレス姿のアダルベルトが待ち構えており、案内してきたメイドさんは素早く下がってしまった。
二人きりだ。
「単刀直入に聞くわ。なんの用かしら?」
「では、こちらも単刀直入に。本命は誰なの?」
「は?」
何のことじゃい。
「本命、本命! あの子たちの中でレティシアちゃんの本命は誰かって聞いてるの!! 誰でもいいわ全力で応援するし協力も惜しまないから」
「何を言っているの!?」
「だから、本命よ。貴女に寄りそう花はどなた?」
は?
あ?
そういう?
いや、誤解誤解!
「私は、そんなのじゃないわ。ただ、見ていたいだけだから」
「はあぁ!? 何言ってんの? あんなに好き好きされてカマトトぶるのはナシでしょ!?」
「好きって、みんなは私がちょっと変わった存在だから気になっているだけよ?」
「ナニイッテンノ? ナニイッテンノ?」
アダルベルトはカッと目を見開く。
「あんなに焚きつけてあげたのに!」
「焚き付けって……そう言えば、どうしてグローリアちゃんとラウラちゃんイルマちゃんには何も言わなかったの?」
ちょっと気になってたんだよな。
「妹がヒロインなの地雷です」
「ああ」
そういう……
「後、ラウラとイルマはもうペアじゃん! アレを引き裂こうとするのは神が許しても俺が許さん」
「同意するわ」
「だよね。まぁ、引き裂かずに挟まるなら……レティシアちゃんなら許してあげるけど?」
「ないわ」
ねーよ!
百合の間に挟まる男は死すべし!
「百合の間に挟まるのは好みじゃないの。だから本命もいない。私はただ見つめるだけよ」
「僕はダメだけど、レティシアちゃんならいいじゃない!!」
「いろいろ、事情があるのよ」
説明しても信じないだろうなぁ。
「そんなの、可哀そうよ。レティシアちゃんずるいわ」
「ずるい?」
「あの子たちの思いをただ奪い続けるの? 受け止める気もないのに」
「奪うだなんて」
「ちゃんと受け止めて! そして僕に百合を見せて! 形だけ結婚してくれれば僕は一番近くで……うへへ」
それが目的か!!
「あっ、なら特定の相手がいないほうが、いろんな組み合わせが見れてお得。だけど、一筋の純愛も好きっ!」
自分を抱きしめてぐにょぐにょするアダルベルト。
キモイ。
顔がよくなかったらマジヤバいぞ。
「とにかく私は……誰かと恋人になることは出来ないの」
そう、レティシアとして女の子とユリユリな関係になることは、中身が俺である限りありえないのだ!!
「そう。理由はわからないけど、あなたがそう言うなら、そうなのね」
「ええ」
「……はぁ。言いたいことはたくさんあるけど、きっと今のあなたには響かないわ。だからこれだけ覚えていて。あなたは愛されてる。あの子たちの心はまだ憧れかも知れないけど一歩進む準備はもうできてるはずよ」
んなこと言われてもなぁ。
「ふふ。また会いましょう。その時にあなたがどう変わっているか、今から楽しみだわ」
……などと言われてしまったが……
そりゃレティシアは素敵な娘だけど、中身が俺だし、いやでも外側はレティシアだし。
「お姉様、どうかしたんですか?」
エリヴィラちゃんが心配そうに俺の顔を覗き込む。
「あ、何でもないの何でも!」
今は学園に帰るための馬車の中で……大きな馬車とはいえ女の子たちがぎっしり詰まっていて。
グローリアちゃんとエダに挟まれて、膝の上にはマリオンちゃん。
向かいの座席にはエリヴィラちゃんとリゼットちゃん。
「本当に? ずいぶん考え込んでいたみたいだけど?」
「悩みがあるなら相談に乗ります!!」
リゼットちゃん、グローリアちゃん、気持ちはうれしいけど?
「お姉ちゃん?」
「レティシア様?」
エダは不安そうにこちらを見るし、マリオンちゃんはスライム状だがその声色から心配しているのがわかる。
『あの子たちの心はまだ憧れかも知れないけど一歩進む準備はもうできてるはずよ』
うぅぅぅー。
アダル……アルちゃんがあんなことを言うから、妙に意識しちゃうじゃん!!
あぁぁぁぁぁっ!
「なんでもないの、はしゃぎすぎてたのかしら急に眠くなっちゃって。少し目を閉じさせてもらうわね」
そう言って、俺は無理やり視界をシャットアウトした。
一歩進む、か。
その言葉に魅力は感じるけれど……
やっぱり百合の間に男が混じるわけにはいかん!!
いや、TS百合とかアリのような気はするけど、中身が俺なのはとりあえず許せん!!
今のところは!
ちょ! 今の所って何!?
あああああ……
今は……今はまだ答えは出せそうにないけど……
これからの学園生活、ちょっと意識してしまったりとか……ある……かもしれないな。
そんな俺と女の子たちをぎっしりつめた馬車は、真っすぐにリリア魔法学園へと向かっていく。
どんな明日が待っているか。
それはまだわからないけれど、みんなと一緒なら楽しい毎日だ。
たぶん、きっと、絶対にな!
一区切りついたので、とりあえずばおしまいとします。
続きは書き上がったら、第二部として再会したいと思います。
ありがとうございましたー!