夏休み 14
パーティ、めっちゃ楽しい!
レティシアの記憶にある気取ったパーティは、あんまりいい思い出じゃないっぽいけど……
ここではうるさい大人もいないので堅苦しいマナーもなくて、おしゃれして気の合う友達との楽しいおしゃべりとおいしい料理。
たのしいわー。
なにより楽し気な女の子たちを見てられるのが楽しい。
それに比べてレティシアの記憶にあるパーティのつまらんこと。
マナーマナーマナーばっかりで、女の子は小鳥のように小食であれとごちそうも食べられず。
こっそり食べようにもぎちぎちのコルセットがそれを許さず。
あれは楽しくない。
とてもつまらん。
だがその反動か、女の子たちだけの小さなパーティとかお茶会が頻繁に開かれるようになっているらしい!
素晴らしい。
うむ。
何が幸いするかわからんもんだなぁ。
「あの、お義姉さま……」
甘いフルーツティを舐めていたグローリアちゃんが、もじもじしながら切り出した。
「なぁに?」
グローリアちゃんは立ち上がり、すっと手を差し出す。
ひどく緊張したまじめな顔だ。
つやつやのピンクに塗られた唇が、何か言おうとして声にならずに震える。
一体、何を?
「踊っていただけませんか?」
ん?
をを?
「あ、ああ! そのっ最近なんですっ。お義姉さまが呪いにかかっていたのでご存じないのは当然なんですけどっ……女の子同士でダンスをするのもありになったって言うか」
「まぁ」
「女の子だけのパーティ限定ですけど」
「それは……」
なんてことだ。
俺が、じゃねぇ、レティシアが寝ている間にそんなことになっていたなんて!
「ものすごく素敵ね!」
不安そうだったグローリアちゃんの顔が、ぱっと明るくなる。
「そうなんです! 素敵な事なんです!!」
「ええ、とってもいいことね。でも」
「ダメですか!?」
ダメじゃないけど、ダンスかぁ。
レティシアの記憶があるから踊れるには踊れると思うんだが……
「女性パートしか踊れないんだけど、いいかしら?」
俺からしたら完璧超人に思えるレティシアも、ダンスの男性パートまでは練習してないんだよなぁ。
「はい。それはもちろん! あたしがリードさせていただきますから!」
「なら、喜んで」
グローリアちゃんの手を取って立ち上がる。
タイミングを計っていたように音楽が変わった。
いや、たぶんタイミングがっちり図られてたにちがいない。
ヴェロネージェのメイドさんたち優秀っぽいし。
(ちな、音楽はオルゴールみたいなのでかかってた。にしてはなんかすごい複雑な音がするので、たぶんこれも魔法のなんかだと思う)
立ち上がってダンスのポジションをとると、いつもよりグローリアちゃんの背が高いのに気づく。
ドレスで見えないけれど、またあのえぐい角度のヒール履いてるのでは?
レティシアに用意された靴はフラットなやつでちょっとほっとしてい――ん?
もしやグローリアちゃんこのダンスのために?
おー、おー。
友だちをもてなすパーティのためにそこまでやるけなげな計画性。
伯爵家の名前を背負い、その重圧に負けず立ち向かい完璧な伯爵令嬢となるべく努力する。
見えない努力の上にある優雅さ!
よきかな!!
「久しぶりだからちゃんと踊れるかしら?」
レティシアのことだからできるとは思うけど、ダンスとか未経験ですし!
予防線だけはしっかりはっておく。
「大丈夫です。全部あたしに委ねてください」
腰に置かれたグローリアちゃんの手がぐっと引かれ、お腹が密着する。
ヒールの分顔が近い!
グローリアちゃん、顔がいい!!
普段、ラウラちゃんイルマちゃんたちとキャッキャしている時は、しみじみかわええなぁ。
って感じなんだけど、こうしてちょっと真面目な表情にガッツリ化粧までされると!
顔がいいな!!
元々の造形がいいところに、カンペキな塗装を施すとこうなるかっ。
こうなるのかー。
「そんなにまじまじ見られると、恥ずかしいんですけど」
厚化粧に見えないけどしっかり塗り込んでるから、顔色の変化がほとんど見られないのだが!
それでも目じりとか耳とかが照れて赤くなるところが!
ほほーう、しっかりメイクで赤面するとこうなるのかー。
新鮮。
「ごめんなさいね。こんなに顔が近いのめったにないから」
「そうですけどっ」
くいっと手を引かれ、ステップを促される。
ちゃんと踊れるか不安だったけど、何とか体が動いてくれた。
さらにグローリアちゃんが気持ちよく引っ張ってくれるので、自分のダンスがものすごくうまいみたいに思えてくるほど。
たっのしー。
の、だが!!
視点変更ボタンの実装はっまだですか!!
見てぇ!
見てぇよ!!
ドレスアップした美少女二人のダンスだぞ!!
しかも身長が低くて、ゴージャスドレスの子がリード!
こんなの萌えないわけがない!!
見てぇえぇぇぇ!!!
にこやかに踊りながらも、心の直人は血の涙を流すぞ、マジで!
曲が終わり、すっと体が離れる。
周りから拍手が上がった。
うへへ。
気持ちいいなこれ!
「お義姉様、あんなこと言って、凄くお上手じゃないですか」
「ふふふ。グローリアちゃんのリードがよかったからよ。すごく楽しかったわ」
「でしたら、もう一曲!」
「ごめんなさい。ちょっと疲れてしまったから」
ちょうど近くで拍手を続けていたエリヴィラちゃん発見!
「エリヴィラさんとどうかしら?」
「え? いえ、私なんかは」
「ええっ」
エリヴィラちゃんも、ってかここにいるみんなダンスはできるはず。
ちょっといいお家の女の子は強制的にやらされる習い事だからな。
あと地方によって習い事はいろいろある。
ちなみにレティシアは茶摘みと茶揉みができるぞ。
「私、ダンスをずいぶんしていなかったから、見てステップを思い出したいの」
「そういうことなら……でも」
「じゃあ、しっかり見ててくださいね!」
あんまり乗り気っぽくないエリヴィラちゃんの手を引いて、グローリアちゃんがホールに連れていく。
フーゥ!!
ゴージャスブロンドと、まじめブルネットのペア!!
鉄板ペア!!
イラストにして両方映える、お互いを高め合う色合いの二人!!
いいねぇ、いいねぇ!!
音楽が始まり、ダンスが始まる。
こうやって見ると、グローリアちゃんやっぱ上手い!
エリヴィラちゃんも結構上手で、見ててほんと楽しい。
目の栄養。
心の栄養。
「すてきねぇ」
ちょっと離れたところにいたリゼットちゃんの隣に行って声をかける。
「あ、そ、そうね」
「?」
なんか、テンション低くない?
あんなに楽しそうだったのに。
それにいつの間にか肩掛けのケープを使って胸元を隠しているし。
似合ってるし、胸の谷間にすいこまれる視線を引き離すのは楽になるんだけどさ。
「寒いかしら?」
「そんなことはないんだけど……」
歯切れが悪いなぁ。
「そう言えば、マリオンちゃんは?」
見回してもマリオンちゃんの姿がない。
アルちゃんとしゃべってたところが、ダンスの時にちらっと見えた気がしたんだけどな。
アルちゃんは一人でうっとりとグローリアちゃんとエリヴィラちゃんのダンスを見てる。
その気持ちよくわかる!!
いいよな!
俺も二人のダンスをじっくり見たいが、マリオンちゃんもちょっと心配だな。
どこに行っちゃったんだ?