夏休み 13
「お姉様―!」
濃いめのピンク……いやここはバラ色と言うべきだろうドレスに身を包んだグローリアちゃんがとんでくる。
「まぁぁ、赤いドレスも素敵だったけど、こっちも良く似合うわ」
「そうですかぁ?」
「ええ。とっても」
真っ赤なドレスもゴージャスで素敵だったが、こっちのバラ色ドレスはかわいい感じがプラスされている。
ラウラちゃんとイルマちゃんの薄緑色のひらっとしたドレスは、またグローリアちゃんのドレスを引き立てるためのものだろう。
とはいえ!
引き立て役だけにはならないかわいいデザインで、それがお揃いで二人並んでいるとたいへんよろしい!
「たくさんお話しできるよう、立食にしたんですが……よかったですか?」
「ええ。もちろん」
マナーとかはレティシアの記憶ブーストで何とかなるけど、堅苦しいのはやっぱやだし。。
食堂? ホール? には俺たちだけじゃ食べ切れない量の料理とデザート。
(残った分はメイドさんとか使用人さんのご飯になるから)
立食と言ってもゆったりとしたソファーや大きなテーブルもあって、食べることにも集中できそう。
「レティシアちゃん、素敵なドレスね!」
「リゼットちゃんも素敵」
今俺は条件反射で無難な返事をした。
条件反射すばらしい。
きちんとできてよかった。
リゼットちゃーん、それヤバくない?
ヤバくない?
リゼットちゃんのドレスはちょっと古いデザインの落ち着いたドレスなんだけど……
胸元が、胸元が!
がばっと開いてて、それでもきつくて詰め込んでギューッとあれして、それでもあふれてちょっと変形してて見るからに柔らかくて谷間とかもうその底が知れないってアレでアレであわわわわわ。
「グローリアさんのお母様の古いドレスだそうなんだけど。わたしには豪華すぎるわよね」
「そんなことないわ」
そんなことないです!
マジで!!
「ものすごく大人っぽくて、どきどきしちゃう」
ホントに。
いろんな意味で大人っぽいです。
レティシアと同い年とは思えん。
「お姉ちゃーん!」
後ろからぽふんと軽い衝撃が腰に来る。
この軽さと声は、マリオンちゃんだな。
振り向くとそこには、マリオンちゃんとエリヴィラちゃんの姿が。
エリヴィラちゃんはきっちり感のあるスーツとドレスを混ぜたようなやつ。
上はジャケットみたいなんだけど、下はふんわりとした膨らみすぎないロングスカート。
「あらやだ。エリヴィラちゃんカッコイイ」
「そ、そうですか?」
スカートがふんわりしてるのを引き立てるためか、髪は後ろでひとつにまとめて背中に流している。
そして眼鏡。
授業中くらいしかかけてない眼鏡。
レア!
「今日はつけてるのね」
と、自分の目じりを指さして、眼鏡を示した。
「グローリアさんのお家……別荘は何もかも豪華で。ひっかけて壊してしまいそうで怖くて」
「ああ、わかるわぁ」
まあ、なんかすごい豪華ぽいってことぐらいしかわからんが。
きっと見る目があればおっそろしいものもあるんのかもしれない。
「ドレスもグローリアさんが貸してくれるって言ったんですけど、高級すぎて怖くて。これはイルマさんに借りました」
「ああ、そうね。イルマさんとは身長が同じぐらいだし」
「お姉ちゃん、マーリーオーンはー?」
マリオンちゃんはすねたように、その場でぴょんびょんと跳ねる。
彼女が跳ねるたびに、ツインテにした髪と大きなリボン。
ふわふわの膝上スカートもびょんぴょんする。
「あらあら。もちろんマリオンちゃんもかわいいわ」
マリオンちゃんはおそろいにこだわってるぽいので、今度もそうかと思ったが!
これは見るからにグローリアちゃんのおさがりだな。
グローリアちゃんに似合うだろう赤いドレスが、ピンク色のマリオンちゃんの髪と相まってちょっとうるさい。
ビミョーに似合ってないところがおさがり感があって、逆にかわいい。
妹感マシマシである。
「んふー! マリオンはどんなドレスでも作れるけど、着こなしもできるの」
「そうね」
自信まんまんかわいいな!
いや、しかしこのホール最高。
女の子しかいない最高。
給仕をするメイドさんたちは、ザ・メイドって感じの黒いドレスに白いエプロン。
その中に溶け込んで紅茶のサーブをしているエダ!!
いつもの着回しワンピじゃなくて、前に作った新しいワンピとエプロン。
ヴェロネージェ家のエリートメイドさんたちに囲まれて、ほんの少し緊張しているよう。
それでいて、周りのエリートメイドさんたちから一目置かれている様子!
本人は気づいてないけど!
こちらに気付いて、小さくはにかむ表情!
カメラがあったら迷わずシャッターを切るが、持ってないので心に刻み込む。
学校も素晴らしいけど、ここもすばらしい。
女の子だけのパーティ。
いい。
女の子だけ?
そーいや、アルちゃんはどうしたんだ?
いや、いなくてもいいけど。
と、広間の扉が大きく開いた。
荘厳なファンファーレが……鳴り響てないけどなってもおかしくないようなアレで、静々と一人の美女が現れた。
大きな両引きの扉ぎりっぎり通れるぐらいに広がったスカート。
たっぷりギャザーを取ったそれは、角度によって光沢を生む濃い紫に金の縁取りをした見るからに豪華なもの。
ドレスの豪華さに負けない大ぶりの宝石をあしらったアクセサリーに、高く結い上げた髪。
ここまでギラギラゴテゴテしているにもかかわらず、日の美女の持つ一番の輝きは二つの青い目だ。
「まぁ」
思わず見とれるほどのすごい美女……美女じゃねぇなぁ。
だって頭からウサ耳飛び出してるし。
あれ、アルちゃんだ。
「ふふ。レティシア・ファラリス様。ようこそ、ヴェロネージェの別荘へ」
「お招きいただきありがとうございます。アダルベルト・ヴェロネージェ様」
形式的な挨拶をされ、こちらも体に染みついていた挨拶を返す。
記憶ブーストありがとう!
「もうー! お兄様、招待したのはあたしよ!! お義姉様も間違えないで」
グローリアちゃんがぐっとアルちゃんの腕を取る。
「それはわかっているんだけど、形式的なものだから」
「そうよ。こういったマナーは身内の催しの時から徹底しておかないと、いざと言う時困るでしょう?」
ご挨拶は招待してくれたお家のとにかく一番身分の高い人にってのが、こっちのマナー。
その一番偉い人が誰かはパーティに呼ばれる前にしっかり予習しとかないといけないっぽい。
めんど。
「マ、マナーで言うならお兄様の格好もおかしいでしょ!! ホームパーティにおめかししすぎっ!! あああ、後、女の子の格好もダメでしょ!!」
「まぁ、ドレスホームパーティなんだし。このくらいいいでしょ?」
「マナーを先に持ち出したのはお兄様なのに!!」
うーん、これがダブルスタンダードってやつか?
「レティシアさんに見てもらいたくて。つい」
扇で口元を隠しながら、にっこり。
ほほう、これが美女しぐさ。
艶っぽいが、中身がアルちゃんだと思うとドキドキとかはしませんな。
「婚約者ですもの」
はにかみ笑顔。
完璧だがやはりときめかない。
女装男子は俺の中では百合には入らないっぽい。
アルちゃんが女の子だったらなぁ。
完璧美人のお姉ちゃまに嫉妬しつつからむ将来美人になることが約束された妹ちゃん。
とか、超ご褒美なのに。
「婚約者かもしれないけど!! 今回ご招待したのはあたしなんだから、お義姉さまは私のゲスト! ホストとしてあたしがおもてなしするんだから!」
「ええ、そうね。失礼のない様に」
「だからっはへ?」
「あなたやレティシアちゃんのお友達ともお話したいと思っていたの。グローリア。レティシアちゃんのおもてなしよろしくね」
臨戦態勢のグローリアちゃんを残して、アルちゃんはじりじりと距離を取っていたリゼットちゃんたちの所へ向かう。
「こんばんは。楽しんでいただいてますか?」
「あ、そのはい。お招きいただきありがとうございます。リゼット・モーリアです」
リゼットちゃんがちょっとびくびくしながらお辞儀をして、エリヴィラちゃんとマリオンちゃんもそれをまねている。
「お義姉様ー、あのこれぜひ食べてもらいたくて作らせたんです」
「まあ、何かしら?」
アルちゃんがリゼットちゃんたちと何を話すのか気になるけど、まずはご飯だな!!
思いっきり遊んで昼寝してーからのご飯なので!!
実際着替えてる時には、エダに笑われるぐらいお腹がキュルキュル言ってたのに、空腹が通り過ぎてお腹もならなくなったところだ。
白いクリームが何かにかかった、なんだかわからないけどおいしそうなものを前に夢中になられずにいられようか!
この時、食い気に負けたことを俺は後悔することなるのだが、とりあえず今はこのグラタンみたいな料理がめちゃウマなのをお知らせします!!




