夏休み 11
「お兄様! 来るなら来るとおっしゃってもらわないと!」
「ごめんね。レティシアちゃんが来るなら行けって、お母様に部屋を追い出されちゃって」
「レティシア……ちゃん?」
グローリアちゃんの声が低くなる。
「お兄様、婚約をしているとはいえ初対面の相手には失礼ではございませんこと?」
ございませんことー!
かー!
かー!!!
アルちゃんと話してるグローリアちゃん、めっちゃお姫さまー!!
悪役令嬢もできそうな、お嬢様言葉にツンツンとした態度。
いい!
「あ、いや、初対面じゃなかったんだ」
「そう、アルちゃんとは、子供のころ会ってたの。幼馴染と言っていいかしら?」
「幼……馴染……っ!」
おう。
リゼットちゃん、なんでそんなカエルがつぶれたみたいな声を?
いや、聞いたことないけどさ、カエルがつぶれるときの声とか。
でもなんかそんなイメージの声。
「あなたが、リゼットさんですね。レティシアちゃんと同級生だった先生。すごいですね。尊敬します。どうぞよろしく」
「え、あ、はい。よろしくおねがいします……」
リゼットちゃんたちのことはさっき話しまくってたから、初対面のアルちゃんにもわかるだろう。
だろうけどさ!
お前、そのまぶしいものを見るような、愁いを帯びた笑顔はなんなのっ!
そんなので女の子に好かれて困る―じゃねぇよ!
もっと背景に溶け込むような存在になれっ!
「ああ、あなたがレティシアちゃんのメイドのエダだね。んー、初めましてだね。ぼくがレティシアちゃんと会っていたのは、君に出会うよりずっと前だし」
「そっ、は、はい」
エダが深々とお辞儀をする。
しかし、エダが改まったやり取りで慌てるって珍しいな。
くそ、やはりあの王子様フェイスのせいか!
「君がエリヴィラさんで、君がマリオンさん。うん、レティシアちゃんに聞いた通りだね」
「初めまして。エリヴィラ・ストルギィナです」
「はじめまして、マリオンです」
エリヴィラちゃんが深々と、マリオンちゃんがぺこりと頭を下げる。
「よろしく。学園ではレティシアちゃんのことよろしく」
「……はい」
「………」
ぐぁっ!
エリヴィラちゃんとマリオンちゃんが言葉を無くすのもわかるほどの、王子様スマイル!!
貴様! 貴様―!!
同志でなければ、靴の中にこっそり紙屑つめるぐらいはするぞ!!
「アダルベルト様、なんかキラッキラしてないっすか?」
「なにかいいことあったのかもね~?」
イルマちゃんとラウラちゃんがこそこそ言ってる。
やっぱりキラキラしてるよな。
くっ! やっぱり少しムカつく!
仲間だけど!!
「お兄様いつもは……っうう」
「うん。こっちにしなさいって怒られたんだ」
「そうでしょうけど、けどぉ」
「グローリアもこっちのほうがいいって言ってたのに」
「ううぅ」
グローリアちゃんが不満ですーって顔になる。
うん、言葉遣いは丁寧でけど、こういうところなんか普通の兄妹だよな。
「まぁ、女の子の部屋に長居をするのはよくないね」
「そ、そうですわ!」
「うん。ぼくはこれで。また夕食の時にでも」
「お兄様、夜もいらっしゃるの!?」
「レティシアちゃんが居る間は、こっちに居ろって送り出されたからね」
アルちゃんはすっと立ち上がり、滑るように部屋を出ていく。
歩く姿も王子様!
イラつくね!
同志でなかったら以下略。
「お義姉様! 何かされませんでしたよね!?」
「何かって?」
「え、それはその、何かです!」
「ただ、お話していただけよ?」
「どんな!?」
「それは……」
どんな話かって言うと、そりゃ百合の話なんですけど。
リゼットちゃんたちの話をしたのもその流れだし。
これは言えねぇ。
「ふふ。ひみつ」
「くぁっ」
グローリアちゃんもカエルがつぶれたような声を!?
ねぇ、その声どっからでてるの?
しかし、かわいい子はカエルがつぶれたような声出してもなんかキュート。
もはやずるい!
優勝!!
「それにしても、みんな素敵ねぇ」
水着から一変、全員思い思いのリゾートスタイルに着替えている。
グローリアちゃんたちや、服も思いのままのマリオンちゃんはたぶん流行のだと思われるこったドレス。
エダもいつものワンピースの中から、一番明るい色を選んでる。
エリヴィラちゃんとリゼットちゃんは、見たことのある服だけど、組み合わせや小物で軽やかさを演出。
いいね!!
「せっかくみんな素敵なんだし、お散歩でもって言いたいところだけど」
すごく言いたい!!
この景色のきれいなところでお散歩してるところを見たい!
泉の所に戻って、今度は足先でぱゃばちゃするぐらいでお茶とかしたい!
のだが!!
やはり、思いっきり泳いだ後はやつがやってくるのだ。
やつからは逃げられない。
睡魔からは!
「みんなでちょっと、お昼寝しない?」
この部屋のベッド、凄くでかいから、ちょっときついけどみんなで一休みぐらいできそう。
「みんなでお昼寝なんて、女の子だけの特権よね」
特にこっちじゃ、なんかそう言うの厳しそうだし。
「ですよね! 女の子の特権!!」
「仲良しの女の子、のね」
ドローリアちゃんの言葉を、リゼットちゃんが捕捉する。
「じゃあ、マリオン、お姉ちゃんの隣!」
「そうね、じゃあマリオンちゃんは私の隣で。私はレティシアさんの隣で」
「ちがっ、お姉ちゃんって言ったらレティシアお姉ちゃんだもん!」
「そうなの? でもお姉さまの隣は2つあるから大丈夫ね」
「エリヴィラお姉ちゃんかしこーい!」
「ちよっと! 勝手に決めないで!!」
エリヴィラちゃんとマリオンちゃんに、グローリアちゃんが割って入る。
「うーん、でもレティシアちゃんちょっと寝相が悪いから、隣は大変よ。わたしは慣れているから平気だけど」
「私も平気です!」
「あたしも平気よ!」
「マリオンも平気だもん!!」
リゼットちゃんの語尾に重なるように、3人が叫ぶ。
いや、もう誰が隣とかよりも……ねむ。
イルマちゃんとラウラちゃんは、一足先にソファーで肩を寄せ合って寝ている。
エダが無言でブランケットをかける。
うむ、スマートな仕事ぶりだ!
二人の幸せそうな寝顔を眺めながら……昼寝はもうちょっと先になりそうだなぁとくじを作り始めるグローリアちゃんたちを眺めていた。
あふぅ。
眠いけど、真剣にくじを引く様子がか、わ、い……ぐぅ。




