魔法学園にやってきました!
……王都は大きく騒がしく発展していた。
お店もいっぱいあるし、見るからに人も物品も豊富。
武器を持った冒険者っぽい人たちもちらほら見える。
裏通りの方には冒険者のギルドもあるらしい。
もしかしたら俺と同じ異世界転移者や異世界転生者がいるかもしれないな。
機会があったら探してみたいところだけど。
「レティシア様、冒険者のような野蛮人と口をきいてはいけませんよ」
と、エダに釘を刺されてしまった。
がっかり。
そうでなくも、冒険者と話をする機会なんか全くなかったなぁ。
何件かお店には寄ったけど、エダが注文してあったらしい品物を受け取っただけで、ほとんど素通り。
王都観光は窓からちょっと眺めただけで、馬車はまっすぐリリア魔法学園に!
うっひょー!
大歓迎です!
リリア魔法学園は王都のちょっと外れたとこで、見るからにいいところの学校!
侵入者を絶対に許さない! という気概にあふれた門を抜け、高い塀に囲まれた女の園へ!
まずは制服に着替えるために寮へ向かう。
うわーお。
お嬢様、すげー。
いや、レティシアの記憶を掘り返していたから、わかってはいたけど……改めて見るとすげぇ。
まず、一人一部屋。
おしゃれな家具とふかふかベッド付き。
トイレと風呂と、メイド部屋付!
メイド部屋があるってことは、なんとワンルーム以上!
寮の部屋でワンルーム以上!!
ちなみにメイドを連れてこないレベルのお嬢様用に、もちっとつつましやかな部屋もある。
レティシアが前にいたのはそこ。
そんで、もっとヤバ目なお嬢様のために、ここよりランクが高い部屋もあるそうだ。
お嬢様パネェ。
……レティシアも、下の方とは言え一応その仲間なんだけどさ。
いやいや、寮で驚いてないで制服、制服!
この制服が可愛いんだ!
真っ白なブラウスに、ところどころに金糸で縁取りがされた紺色のジャケットにスカート。
胸元には大きなスカーフ!
ちょっと重いけどドレスみたいなシルエットで、制服っぽさとファンタジーっぽさが見事に融合している!
寮に来るまでにちらっと見たけど改造もアリみたいで、スカート丈とかは結構バラバラ。
全体的に膝上が多いけど、お嬢様たちだけあってむやみなミニスカは見なかった。
レティシアはひざ下十センチぐらいのロングだ。
わかってらっしゃる!!
「メイドは校内に入れませんから、私はお部屋の準備をしておきます」
エダが買い込んだ荷物やら、屋敷から持ってきた荷物やらをどんどん運び込んでくる。
……生活できるだけの家具とかはそろっているのに、まだそんなに荷物があるのか。
お嬢様、すげぇ。
うん……部屋のことは全面的にエダに任せよう。
「そう。ならお願いね」
「はい! いってらっしゃいませ」
エダに見送られて、俺は寮の部屋を出る。
えーと、校長室行ってあいさつして、いろいろ教えてもらうんだよな?
しかし、レティシアの二年前の記憶と比べて、ずいぶん変わっているようだ。
レティシアは第一期生だったので、当然一学年しかなかったけど、今は三学年。
一年・二年・三年としっかりある。
当然人数も三倍に増えているだろう。
ちょうど授業が終わったタイミングらしく、寮に帰ってくる生徒たちとたくさんすれ違う……のだが。
なーんか、視線感じる。
フツーに制服だし、目立つようなこと何もないよな?
しばらく様子を見ていると、視線は胸のスカーフに集中していることが分かった。
あ、なるほど!
少し観察するとわかったのだが、制服のスカーフの色は学年別に分かれているようだ。
たぶん、三年が黄色、二年が水色、一年が赤だ。
で、卒業した先輩のスカーフが白。
……そりゃあ、白スカーフは目立つよな。
うむ~。
俺もスカーフ変えた方がいいのかな?
一年だから赤かぁ。
赤もかわいいけど、レティシアには白の方が似合うんだよなぁ。
「あっ!」
小さな声に顔をあげると、明るいブラウンの髪をポニーテールにした女の子がいた。
スカーフは黄色。
ってことは三年生か。
「なにか?」
「い、いえ、何でもないんです。ごめんなさい」
ぺこりと頭を下げて女の子は小走りに去っていく。
何でもないって感じじゃないんだが……は!
俺は、気づいた。
彼女は俺の白いスカーフに反応してしまったのだ。
なぜなら、彼女のポニテに結ばれた白いリボン――あれはただのリボンじゃない。
白い、スカーフだ!!
卒業した先輩から譲り受けた、白スカーフなのだ!!
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
お姉さまは今日、卒業してしまう。
今までは毎日会えたのに、次にいつ会えるかもわからない。
もう一度、会える日が来るかも、わからない。
お姉さまは私を妹としてかわいがってくれたけれど、それはこの学園にいる間だけのことなの?
聞きたくて、聞くのが怖くて、私は唇を噛む。
「そんな顔しないで。笑顔で見送ってほしいわ」
私だってそうしたい……
「一年がすぐだなんて言わないわ。私たちにとっては長すぎる時間ね。だから」
ふわりとお姉さまの香りがして、頬を柔らかいものが撫でる。
「これを、あなたに」
頭に手をのばすと、指先にさらりとしたものが触れた。
お姉さまのスカーフが私の髪を飾っている。
「ずっとつけていてね。あなたはとてもかわいいから、私のものだって印がないと心配なのよ」
「お姉さま……」
「次は、二人とも制服ではない姿で、ね」
「はいっ」
私は、三年間白いスカーフが守り続けていたお姉さまの胸に飛び込んだ。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
このっ、制服でない姿ってのが、お互い私服なのか……もしくは制服がないって言うか、制服以外もないって言うかゴニョゴニョ。
な、所が肝だと思うのだよ!
後輩ちゃんは『私服で』だと思い込んでるんだけど、ふともしかして? とか思って悶えてくれたりすると二度おいしいね!!
うおーっ!!
と、楽しい妄想にふけっていたら、もう校長室だ。
レティシアの記憶のおかげで半無意識に来れた。
しかし、直人の時もそうだけど、校長室なんてめったに入る場所じゃないから、みょーに緊張するな。
悪いことをしてるわけじゃないんだから、落ち着け落ち着け。
いざっ!
ノックをする。
「どうぞ」
あれ? なんかずいぶんかわいい声だな?
レティシアの時は、校長先生っておばあちゃん先生だったはずなんだけど。
「失礼します」
ドアを開けると、目の前にいたのは、金髪をボブに切りそろえたシスターっぽい格好をした女の人。
俺の顔を見たとたんに、目を見開いてぽろぽろと涙をこぼした。
あれ、このパターン二回目じゃないか?
「レティシアちゃん!」
女の人が、こちらに腕を伸ばしたかと思うと……ぼふん! 顔にやわらかな弾力がぶつかった。