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夏休み 9

「袖!! 早く何か着て! はしたない!」


 ブラを持った金髪くるくる男は、真っ赤になって顔をそむける。


「いや、ブラを」

「胸より袖!!」

「ええー?」


 こっちの価値観としては、おっぱいより腕が恥ずかしいのか?

 んー? 胸を隠さない民族のこととか聞いたことはあるけど……

 とにかくこのままじや会話もできないので、持っていたガウンを着る。

 水着とセットになってたやつね。


「えーっと、着たけど?」

「はぁ。全く! 腕をさらすなんて! ぼくだからまだよかったけど、頭の固い連中に見られたら、とんだ淫乱だって噂を立てられるよ」

「まぁ」


 腕見せたら淫乱とか。

 こっちの世界は変なところでお堅いな。


「それよりも」

「うん」

「下着泥棒?」

「え?」


 男は高速で首を振る。


「ちがっ、ちがちがちがうっ」

「いやいやいや、何が違うって言うの? 下着泥棒よね!?」

「盗もうなんて思ってない! ただ見ていただけだから!」

「もしかして変態?」

「ちがう!」

「違わないでしょ?」

「ちーがーうー! 大体ぼくはこの下着に興味があるだけなんだ!」


 だからそれを変態というのでは?


「これは異世界転移者、デザイナー・ミユキの手掛けたものだろう? 裁断、縫製、デザイン、すべてに異世界の意匠が見て取れる。興味深い! これならば美しく見せると同時に快適にバストを保持できる」

「異世界転移者!?」


 え、待って、こっちの世界の人から――こっちの世界の人だよな?――からその言葉を聞くとは!?


「彼女が現れるまで、バストの保持は紐とか巻いて支えてたからな。大きな進化だ」

「え? 紐!? 紐……紐ねぇ……」


 紐をブラの代わりって?

 想像もつかないが、それはそれでなんかセクシーな気がする。


「今でも、高級品には変わらないが」

「そうよね、エダ……私のメイドもちょっと前までさらしをまいていたんだから」

「さらしか、胸をつぶして動きやすくするだけならさらしでもいいが、やはり快適に生活するためにはブラジャーはとてもよい文化だ」

「ええ、ブラジャーはいい文化」


 それは認める。

 だけどお前下着泥……


「だが、異世界転移者は、文化の破壊者でもある」

「え?」


 なんでブラジャーが文化を破壊するんだ?


「たった一人、異世界転移者がやってきたことで、独自に発達していた文化がすっかり塗り替えらてしまう例が後を絶たない。……だが、それを知ることができるのも、異世界転移者がもたらした知識によって転移魔法が現在の形で使われるようになったからだ」

「ふむふむ」


 なんか面白い話になって来たぞ。


「もはや、ぼくたちには独自の文化なんてないのかもしれない。ぼくらが知ることができるより昔から異世界転移者はやってきて、自分たちの文化を植えていった可能性がある。だからせめてこれからは、異世界転移者の知識や力は利用しつつも、その動向を見張らなければいけないのだ」

「な、なるほど」


 やっべぇ。

 なんかめんどくさいことになりそうだから、俺が異世界転移者(中身だけ)ってのはばれないようにしよう。


「女性はそんなこと知らないだろうから、異世界転移者を軽く見ているかもしれないけど、彼らは危険なんだよ」

「どうして女は知らないの?」

「え? えっと、教えられてないから? リリア魔法学園ができるまで、女の子の学校なんかなかったし」

「ええ!? ええ、そうよね。そうだったわね」


 おー? 女の学校がないってマジかー?

 百合的にも学園ものは絶対外せないところなので、これからどんどん増えてほしいね!


「異世界転移者だって目立つのは男しかない。そして転移者が自分を有利な位置に置くのは当然のことで、結果として男性優位の世界が作られている」

「でも異世界転移にも女の子はいるでょ?」

「すでに男性優位にできている世界で、女性が成功するのは大変なんだ。それこそデザイナー・ミユキのように女性の支持を集めたならともかくね」

「紐からブラに変わるなら、そりゃあ支持も集めるわね。で、どうしてブラを?」

「それは……」


 男の顔から汗が噴き出す。

 さては関係ない話をして、なんとかごまかそうとしてたな!?

 なんか面白い話だったから、危うく騙されるところだったけど!


「鞄が開いてて……見えちゃって……デザインと機能性がすごくよさそうだったから気になって……」

「そ――そうでしょう! そうでしょう! デザインはもちろん、機能性との兼ね合いが素晴らしいわよね」

「うん、ちょっと見ただけでもわかるのはその肩紐。広くて肌触りのいい、負担をかけない素材を使いつつ、それがただかわいいだけのデザインにも見える所がすごい!」

「そう、実際楽なのよ!」


 じゃねぇ!

 なんか話すの楽しくなってきそうだけど、こいつは得体のしれない下着泥!!


「あら、レティシア様、戻られていますか?」

「あ、エダ!?」


 エダの声に俺と下着泥は跳び上がった。

 なぜなら、ほとんどの荷物はエダが用意してくれたけど、俺が用意した鞄だけは適当に詰め込んでむちゃくちゃなのだ。

 適当かつパンパンに詰めておいたせいで、勝手に開いてブラが見えたんだろうなぁ。

 この下着泥野郎にそれを見られてもフーンであるが、エダには見られたくないのだ!

 素敵なレティシア様でいるために!!

 下着泥野郎から素早くブラを奪い、鞄に詰め込んでがま口になっている口を閉じる!


 その間数秒。

 我ながらすごい。


「レティシアさま? あ……」


 下着泥男を見て、エダが眉を顰める。


 ぷちん。

 トス。


 足元に銀色の髪飾りが落ちた。

 ん、下着泥の髪飾りか? と、顔を見ると……

 金髪巻き毛の頭に、ぴょこんとウサギの耳が生えた。

 どうやら何かで耳を留めていたようだ。

 しかし、このピルピル動くウサ耳。

 右の耳の先だけちょっと茶色になっている、特徴的な白いウサ耳に見おぼえがある。


 巻き毛の金髪。

 青い目。

 どこかで……レティシアの記憶の中で……子供の頃に遊んだレティシアママの友達の子どものウサ耳少女!!


「あなた……アルちゃん。アルちゃんよね!?」

「ふえっ」

「まぁぁ、アルちゃん、おっきくなって。私よりずっと小さくてかわいかったのに! もちろん、今でもかわいいけれど。かわいいよりきれいかしら? まー、まー、男の子かと思っちゃったわ」


 うおぉぉー、男装美少女ですか!?

 それでいて気弱系?

 何それおいしい!


「あ、いや、ぼく」

「アルちゃんよね?」

「あ、うん、そうだけど」

「そーよね、そーよね。懐かしいわ」


 いや、俺が経験したわけではないが、やっぱなんか懐かしい感じがする。

 うーん、記憶って面白い。


「アダルベルトさま! こちらはヴェロネージェ家のお屋敷ですが、お嬢様のお部屋に入るときには一言いただかないと!」

「それは……」

「あ、いいのよいいのよ。私が呼んだの。そこで会ったから」


 そういうことにしておこう。


「レティシア様! アダルベルト様は確かに婚約者ですけれど、一人の時に男性をお部屋に入れるのは……」

「男性?」


 そりゃ確かに男装してるけど。

 ……よくよく見ると肩幅もがっしりしてるし、腰も細いし、……のどぼとけ? それのどぼとけ?


「え、アルちゃん、ドレス着ていたわよね? 女の子よね? 女の子だったわよね?」

「あ、あれは――! レティシアちゃんのせいじゃないかぁ!!」


 ええー? 


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