夏休み 6
「あら」
「もうみんな来てるよ!」
そう言ったマリオンちゃんは、なんかいつもより小さくない?
水着のサイズに合わせてそうしているのか、普段より幼女よりの体系だ。
うん。
小さい子が水着来てるのかわいいよね!
もちろんちいさくなくてもかわいい。
お姉さんの競泳水着もいいし、マダムのエレガントな水着もいいし、白髪のおばあちゃんがこうビビッドな水着着てたりするのもかっこいいよね!
水着はどんな女の子がどんなのを着てもかわいい!
しかし、マリオンちゃんは飛び抜けてかわいいな!
おそらくグローリアちゃんのだろう真っ赤な水着は、体にぴったり張り付いていながら、たっぷりのフリルが胸元と腰の低い位置でふさふさして子供らしいかわいらしさを引き立てている。
スライムなピンクの髪は、高い位置でふたつの大きなお団子になっていてこれまた新鮮だ。
けど、水着なのに長袖がついているのは、異世界のデザインだからだろうか?
「私が最後なのね。ごめんなさいね。ふふ。マリオンちゃんもかわい……?」
「………」
マリオンちゃんが幼女っぽい、にぱーっ! って感じの笑顔のまま一時停止している。
いや、ほんと、停止ボタン押したみたいにぴたってかたまってるの!
それでいて、視線はすごい細かく動いているから……マジどうしたの?
「マリオンちゃん?」
にゅにゅにゅっと髪が震える。
ふたつのおだんごがポニーテールに変わり、しゅるりと伸びた一房の髪が白いレースのリボンに変わった。
髪に気を取られている間にいつの間にか水着の形も変わっている。
レースとパールで飾られた真っ赤なドレスが、さっと純白に色を変えた。
「まぁぁ。きれい」
「えへへ。おそろいがいいなって」
「ああ、そうね、おそろいだわ!」
言われてみれば、マリオンちゃんのドレスは今着ている水着と同じデザインだ。
さっきの赤い水着は子供っぽさが際立ってかわいかったけど、今の水着は子供が背伸びしてる感じがほほえまかわいい。
「かわいいわー。けど、さっきのもかわいかったのに」
「あれもかわいいけど、おそろいはもっとかわいいしぃ」
「そうね」
うんうん。
おそろいコーデというのは足し算ではなく掛け算だからな。
「早く行こ。みんな待ってるから」
「はいはい」
マリオンちゃんに手を引かれてカーペットを行くと、さっと目の前が開けた。
「まぁぁ」
そこはちょっとした楽園だった。
森の中に突然に表れたきれいな湖ってか泉?
苔むした岩に、やわらかな草原に生える野の花。
その中に見るからにふかふかなカウチや、アフタヌーンティーセットが置かれた小さなテーブルがあって、
「お義姉さま! やっぱりすごくお似合いです!」
びょん! と自然に溶け込む色合いのカウチからグローリアちゃんが飛び起きる。
「マリオンちゃん!? なんでその水着!? あんなに悩んで決めたのに! って言うか、その水着はあたしがお義姉さまのために選んだのに!」
「はい! この水着とっても素敵! さすがグローリアお姉ちゃんのセンスです!」
「それは当然――じゃなくて!」
「お姉ちゃんもそう思うよねぇ?」
「ええ。とっても素敵だわ」
「そんなえへへ……へへ。うぬぬっむぅぅ~!」
グローリアちゃんは笑ったかと思うと唇を噛んたり忙しい。
「グローリアさん、もういいじゃないっすか。つか無理っすよ」
「マリオンちゃんの方が~、一枚上手だし~」
手に持っていたクッキーを口にしまい、お茶を一口飲んでからラウラちゃんとイルマちゃんがのそのそとカウチから降りてくる。
「だってぇ!」
「まー、かわいい!」
「え?」
「かわいいわー、三人とも!」
そう、グローリアちゃんたち三人はおそろいの水着だ。
しかも、セーラー水着だ!
「でしょう! デザイナー・ミユキのデザインなんです!」
「やっぱり!」
だよな、これ元の世界のセンスだよ。
そしてミユキ、ちょっとあれをパクっただろ? グッジョブ!
胴体の生地は白い伸びる素材で体にぴったり。
襟とプリーツスカート紺色で、スカート丈は股下ギリギリで動きやすさを重視した活動的なデザイン。
さらに、二の腕にふんわりしたつけ袖がついてコスチューム感が増している。
うん、なんかボーカロイドみたいなシルエット!
セーラーの襟とスカートのすそはライン入り。
ラインとスカーフの色と合わせていて、三人それぞれ色違いになっている。
グローリアちゃんはもちろん赤で、イルマちゃんが水色、ラウラちゃんはちょっと落ち着いた黄色。
先も言った通り、おそろいは掛け算である。
三人のお揃いでちょっと色違いとか、なんかもう戦士とかあれじゃん、日曜の朝じゃん!
「かわいいわぁ。かわいいわぁ」
俺かわいいしか言ってねぇけど、仕方ないじゃん、かわいいもん。
こうなると残りの二人の水着もがぜん気になるわけで!
「エリヴィラさんとリゼットちゃんは?」
「あ、エリヴィラさんは」
イルマちゃんがカウチの方に戻ったと思うと、その陰からエリヴィラちゃんを引っ張り出そうとする。
「ここっす」
「あっ、ちょっと、そのっ」
エリヴィラちゃん、今日は一本三つ編みか!
って、水着じゃない?
首を覆う高い襟が付いた、細かいフリルとタックが重ねられたブラウスだ。
胴体は体にぴったりしてるのと反対に、袖はバルーンになっている。
「恥ずかしいっ」
「ちょ、人の水着恥ずかしいとか言わないでほしいっす。去年普通に着てたんすよそれ」
ほー、それイルマちゃんの水着なんだ。
え? 水着なの、それ?
「あ、そんなつもりじゃなくて」
「はいはい。どうせ見られるんすから」
「うぅ」
カウチの影から出てきたエリヴィラちゃん……ブラウスかと思ったら、下はレオタードみたいになってて、一部に申し訳程度のフリルがついている以外はすらりとした足がむき出しになってる。
おー。
体育の時はスパッツ!! ですので! エリヴィラちゃんの足を見たことはあるけどここまで短くないし!
上半身のかっちりさとバルーン袖のボリュームが腰の細さと足の長さを際立たせて!
制服や私服がロングスカートだから、いつもAってラインだったのがYって感じになって雰囲気ががらりと変わる。
「良く似合ってる。かわいいわー」
美しいとかスタイリッシュとかなんかもう全部混ぜてかわいい!
「でも、こんなに足が出るのはっ。獣人の方たちは足を出すのに慣れてるかもしれないけど……」
「あたりまえっすよ。足出てなきゃ走りにくいじゃないっすか」
あー、獣人の娘たちって足速い子多いもんなぁ。
なるほど、走りやすさを求めてスカートが短かったのか。
そういや、スカート短めなのって獣人やモンスターっ娘たちばっかだったかも?
全体的にひざ下以上が多いもんなぁ。
けーどー。
「うふふ。恥ずかしがることないじゃない。ここには私たちしかいないんだから」
「……お姉さまがいるから、恥ずかしいんじゃないんですか」
フリルを引っ張って露出を下げようと試みているようだが、悲しいほどに無駄ですね。
諦めてその素敵な足を誇るべき!
「リゼットちゃんは?」
こうなると、リゼットちゃんはどんな水着なのか想像もつかなくてがぜん楽しみである!
「ん~? 向こうの方にいるよ~」
「向こう?」
ラウラちゃんの指さす方に低木をかき分けていくと、岩に腰かけて足の爪先を泉に遊ばせるリゼットちゃんの姿があった。
ふんわりと透ける白いシフォンの生地を、何枚も重ねたミニドレス。
ミニドレスにしか見えないけど、これは水着。
俺は学んだ。
肩と胸元はがぱっと開いていて、バラ色の細いリボンがドレスを吊り下げている。
パッと見、白いフワフワの生地を、リボンで体に括り付けただけのような危うさ!
胸の下にもリボンが回って、アンダーでキュッと絞られているため、リゼットちゃんの規格外のボディが余すところなく――
と、言いたいところだが、残念ながら上からフワフワの生地が覆い隠してしまう。
でも透けるからちょっと見える。
チラリズム!
チラリズムは素敵だけど、もうちょっと、もうちょっとぉぉ!!
マントみたいにふわっと体を覆っているのはかわいいんだけど、かわいいんだけどぉおぉ!!
もどかしい!!
「レティシアちゃん」
と、降る手の中指にマントのすそとつながった指輪がついていて、ふわひらの袖のようだ。
「リゼットちゃん、どうしたのこんなところで」
「うん、休み中だけどわたし一応先生だから。みんな気を使っちゃうんじゃないかと思って」
「そんなことないわよ」
「レティシアちゃんがいる時にはいいけど、そうでないとやっぱり少し、ね」
うーん、まぁ……多少はあるのかな?
けど、それならば!
「なら、私がいればいいんでしょ。行きましょ!」
リゼットちゃんと一緒にみんなの所に戻る。
うーん、勢揃いの水着美少女!
こう! 水着スチルはこうでないと!!




