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夏休み 5

 おおおおおー。

 リゼットちゃんがグローリアちゃんたちの水着を着る。


 パッと見素朴な感じで、だがめちゃちめゃメリハリのありすぎるボディを持ちつつ、それをなしにしても大人ぽい色っぽさを隠し持つリゼットちゃん。

 ……レティシアと同い年なんだよなぁ。

 社会経験の差なのか……レティシアと比べてもなんか大人っぽい。


 レティシアも同じ学年の子たちと比べると大人っぽい感じはするけど、リゼットちゃんと比べるとなぁ。

 あ、これは中身が俺である弊害かもしれん。


 まぁ、そんな大人っぽいリゼットちゃんがグローリアちゃんたちの水着を着る。

 おおおー。


 さらにほかのみんなも水着ですよ?

 普段結構みんなしっかり着込んでいるので、薄着になるのは楽しみ……ではなくですね!

 いや、薄着になってプロポーションがあらわになるのも……いいんですけどね?

 スタイルがどうこうはこう重要ではなくてですね、その。


 ああー、俺の中の煩悩が邪魔をする!

 外見とかプロポーションとかを重視するなら人形でいいじゃん!

 百合的にはもっと内面的な部分を重視したいの! 俺は!!


 で、水着イベントで注目したいのは、誰がどの水着を選ぶかなんですよ。

 地味なだと思っていた子がビキニとかで驚きを運ぶも良いが……


 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


 クラスメイトに海に誘われた。


 クラスでも地味で目立たなくて、認めたくはないけれどちょっと浮いてる私を誘うなんて、笑いものにするくらいしか理由がないのに。

 来たくはなかったけど断って後でねちねちと言われるよりは、一度笑われて終わるほうがましだから。


 着替えてくると言った子たちはまだ戻ってこない。

 どうせ更衣室でお互いの水着についてあれこれ言いあっているんだろう。

 私には関係ない。

 私の水着は学校指定水着だ。

 ご丁寧にキャップとゴーグルまで持ってきてやった。

 笑うなら笑えばいい。


 何を言われたって平気だ。

 だって、あの子たちより私の方がずっと泳ぐのがうまい。

 あんまりひどいことを言われたら、沖まで泳いでいけばいい。

 海なら……泣いたってバレないだろうし。


「ああー、やっぱここにいた!」

「いないから探したじゃん! 行くなら行くって言ってよ!」

「んで、やっぱスク水! 絶対そうだと思ったんだ!」


 けらけらと笑う声。

 覚悟を決めて振り向いて……絶句した。


 全員、学校指定水着だ。

 きれいに巻いていた髪も、きっちりとキャップに入れてお手本みたいな着こなし。


「絶対スク水で来ると思ったから言わなかったけど、良かったー」

「言わんでごめんね? さっき気づいたんだけど、一人だけ普通の水着だったりしても気まずいよね?」

「あたし念のため持ってきてるけど」

「ずるっ!」

「言えよ!!」

「え? どうしてそんな……」


 絶対に、みんなかわいい水着で来ると思ったのに。


「いっちゃん泳ぐのうまいから来てもらった!」

「海って浮力? があるから泳ぎやすいんでしょ? 泳ぎ方教えてよー。25メートル泳げなかったら補習だよ。プールの補習とかないわ~」

「遊んででいいならいくらでもやるけどさ」

「それな」

「んで、遊んじゃわないようにカタチから入りました!」


 と、全員で胸を張る。


「それならそうと言ってくれれば」

「てなかった?」

「水着のことも言い忘れてたぐらいだから、なかったんじゃね?」

「絶対そうだろ」

「まま、そーゆーことで、たーのーむーしー!」


「別に……いいけど」

「やった! センセイよろしくお願いしまーす!」

「う、うん」

「じゃ、行こ行こ」


 手首を握られて波打ち際に引っ張られる。


「泳げるようになったらさー、今度はフツーの水着で来ようよ。みんな一緒にさー」

「それいいね。センセイ水着なかったら選ばせてよ」

「わたしも新しいの欲しいし!」

「んじゃ、泳げなかったヤツ、次も練習だからスク水な」

「ちょお! 自分がだめだったらどうすんの!」

「背水の陣じゃああ!!」


 色とりどりの水着であふれる浜辺を、私たちは紺色の水着で駆け抜ける。


 どんなにカラフルな水着に身を包んでも、きっと今日の思い出の鮮やかさを越えることは出来ない。


 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


 あー、あー、あー。

 スク水かぁ。

 なんでリリア魔法学園にはプールの授業ないのかな!?

 もしあったとしたらどんなデザインがいいだろうか?


 などと考えているうちに、馬車は別荘に到着した。


 道中、歌ったり話したり、ご飯食べにあらかじめ手配してあったらしいお店に行ったりしたけど結構上の空で。

 今思えばもったいなかったな。


 ガタン。

 と、一揺れして馬車が止まり、御者さんがドアを開けてくれる。


 降りると、一面の緑が目に飛び込んだ。


 レティシアの実家のあたりも緑は多いけれど、ここはまた色味の違う緑だ。

 風の香りも違う気がする。


「ようこそ、我が家の別荘へ。狭いところで申し訳ありませんけど楽しんでくださいね」


 グローリアちゃんがちょっとおすまし顔で言う。

 

 グローリアちゃんが示した先には狭い別荘と、その入り口に並ぶ使用人の方々。

 うん、狭い別荘ね。

 確かに小さいけど……これは小さいお城じゃないかな?


「え?」

「はわ~」


 エリヴィラちゃんとマリオンちゃんも驚いているので、どうやら俺の感性はずれていないようだ。


「グローリアさんの別荘だから、とは思っていたけど……やっぱりすごいわね」


 リゼットちゃんが驚きに口元を抑える。


「ドレスの時にも思ったけど、グローリアさんって本当にお姫様なのねぇ」

「ええ、本来ならわたしたちとはかかわらない人ね。あ、レティシアちゃんはお兄様と婚約をしているから……違うんだろうけど」

「そんなの形だけよ。学園に行くための条件だったもの」


 レティシア(女神)はいろいろ言ってたけど。

 男の娘ったって、所詮は男。

 ただの男よりはましかもしれないけど、やっぱやだなぁ。

 ……考えないでおこう。


「さ、泳ぎに行きましょ! モーリア先生とエリヴィラさんは水着選ぶからこっち!」


 グローリアちゃんが、リゼットちゃんの手を取る。


「マリオンちゃんは水着作れるって言ってたけど~、やっぱり試着だけでもしない~?」

「デザイン見たいし、行くー!」

「じゃあ、一緒に行くっすよ」


 マリオンちゃんはラウラちゃんとイルマちゃんに手をつながれてほほえましい。


「あ、お義姉さまはお部屋に。差し出がましいかもしれませんがあたしたちで水着は選んでおいたので!」

「あら、嬉しいわ」


 嬉しいけど、みんなで水着も選びたかったなぁ。

 あ、でも、そのまま着替えとなると目のやり場に困るからこれでいいのか?


 良かったのか悪かったのか複雑な気分でメイドさんに案内されて部屋へ。

 寮の部屋よりよっぽど広くて豪華なことは覚悟していたので驚かないからな!

 すげぇ。


 そして、テーブルの真ん中にどーんと置かれているリボンのかかった箱。

 まさかこれが水着か? でかくない?


 恐る恐る開けると、まずなんかしゃらしゃらした素材のずるりと長いものが出てきた。


「これ、水着かしら?」

「たぶん水着の上に羽織るガウンではないかと」

「ガウンね」


 確かにエダのいう通りガウンっぽい。

 てか水着にガウンとか着るのか。


 うん、水着にパーカーとかかわいいよね。

 股下ギリギリの丈だったりすると、一見履いてないみたいに見えてドキッとするよね!

 俺だけ?


 んで、これがガウンということは、このフワフワした小さなパールをいっぱいあしらった純白のフィギュアスケートの衣装みたいなのは?


「その水着ちょっと大胆すぎませんか?」

「そ、そうかしら?」


 これ水着か!? 長袖でひらひらしてるけど水着か!?

 ええ? これが?

 うむ、かわいいな!

 俺が思っていた水着とは形状が違いすぎてびっくりしたけどアリではないか?

 なによりレティシアに似合うのは間違いない。


 ひらひらがあっち行ったりこっち行ったりなかなか複雑な形状だったが、エダに手伝ってもらってなんとか着ることができた。

 髪をアップにして、ガウンを羽織り、箱の中に入っていたかかとの高いサンダルを履くと……


 おー、おー。

 鏡の中に女神がおる。

 うん、この白くてひらひらな感じが女神レティシアを思い起こさせる。

 似合ってる。

 グローリアちゃんセンスいいな!


「レティシア様。素敵です」

「ええ、本当に。私のための水着ね」


 グローリアちゃんたちがレティシアのために選んでくれたってのが、一番嬉しいポイントだ。

 ありがたく使わせてもらおう。


「あら、けどエダの水着はないわね。たくさんあるって言っていたし貸してもらいましょうか」

「いえいえいえ! そんな!! 私がお嬢様方と一緒に水遊びなんて、そんなことできません!」

「ええ、いいじゃないの」

「いけません。……無理です」

「でも」


 ええー、エダとも一緒に遊びたいんだが。


「私はっ、こちらのお屋敷の使用人の皆さんと話すこともありますし。忙しいので」

「そう?」


 残念だが、仕事の邪魔をするわけにはいかんなぁ。


「着替えが終わったんですし、そろそろ遊びに行かれてはいかがですか?」

「そうね、みんなの準備が終わったら迎えに来てもらえるのかしら?」

「案内の方は、もういらっしゃってますよ」

「まぁ」


 まさかと思ったが、部屋を出たところにメイドさんが待っていた。

 エダ……ドアの方を気にするそぶりすらなかったのに!


「行ってらっしゃいませ」


 エダの一礼に呼応するかのようにメイドさんも深々と頭を下げ、くるりと後ろを向くと歩き出す。

 ついて来いってことか。


 毛足の長すぎるふっかふかの絨毯にバランスの悪いサンダルでも、レティシアの体にしみ込んだお嬢様パウァで静々と歩いていける。

 ……テンション上がると俺の歩き方になるから、気を付けないと。


 パーティルームみたいな広い部屋の開け放たれたテラスから外に向かって、真っすぐに絨毯が伸びている。

 野外だよな。

 野外に絨毯て!


 メイドさんは絨毯の道からそれて、無言で頭を下げる。

 ここ行けってことだな。


 絨毯はこんもりと木が茂る森の中へ。

 奥から、かすかな水音と笑い声。


 ここは妖精の森ぞ!

 この奥に美しき妖精たちが戯れておるのだ!


 そう思うとしずしずだが足が自然と早くなる。


 と、ガサガサと植え込みが揺れ。


「あ、お姉ちゃん!」


 水着のマリオンちゃんが飛び出した!


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[一言] 水着のマリオンちゃんが飛び出してきた! >撫でる  愛でる  抱っこする
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