夏休み 2
今日の朝ご飯は和食!
塩焼の魚の切り身に、野菜のおひたし、卵焼きに納豆。
白いご飯がなによりうれしい!
ちなみにこちら、俺とエリヴィラちゃんのリクエストである。
人が少ないのでリクエストが通りやすくて嬉しい!
「うう~ん」
「これは、難しいです」
マリオンちゃんとエダはお箸と格闘中だ。
「えーと、持ち方は?」
「こう」
エリヴィラちゃんが自分の手元を見せる。
俺は不便はしないんだけど、ちょーっと癖のある持ち方なので黙っておくことにする。
「こう、です……あわわ」
「うぇぇえ。なんでそんなうごくのぉ?」
「なれれば簡単なんだけど、別に無理に箸を使わなくてもいいんじゃない?」
「そうよね。わたしはもうあきらめちゃったわ」
リゼットちゃんはフォークをくるくると回して、納豆の糸をきれいに切る。
かえってそっちの方が難しいんじゃないかと思うんだが。
「うう……でも~。お姉ちゃんもお箸をつかうしぃ」
「使える様になったら便利そうですし」
「便利、かなぁ?」
「口の細いビンの底に残ったものとか取るときによさそうです」
「ふぅーん。マリオンは変形して取っちゃうなぁ」
「! 素敵ですよね! どんな隅っこのものでも取り放題ですもの。憧れてしまいます」
「そっかなぁ? マリオンには当たり前だから」
「本当にうらやましいです」
「ええ~。大したことないのにぃ」
などと言いつつ、マリオンちゃんでれでれである。
でれでれすぎてちょっと形が崩れているのが、文字通りとろけそうな笑顔ってやつですね!
ナイスです!
「私はナイフやフォークの方がむずかしいかな。豆とかを食べる時とか難しくて」
「ああ、それはね。フォークの背で少しつぶしてあげるといいのよ」
「は!? なるほどっ」
リゼットちゃんのアドバイスに、エリヴィラちゃんがカッと目を見開く。
そこまで驚くことだったのか。
「ふふ。みんないろんなところからきているものね。大変だけどいろんな文化を感じられるのは素敵なことだわ」
マナーとか忘れて手づかみでがぶーっと行きたいときもあるが、マナーとかお作法の世界のお上品なお茶会とかもいいよね。
まだ慣れていない子が、マナー完璧オジョウサマをチラチラ見ながら真似て憧れを抱き、
オジョウサマの方は天真爛漫な彼女に惹かれる。
異文化交流―!!
正直口いっぱいに頬張って食べたら旨いだろーなー、ってのもあるけどさ。
……まあ、それはマナー云々の前にレティシアの顔が崩れるのが許せんのだが。
「文化……かぁ。やっぱりお姉ちゃんは考えることが違うなぁ。マリオンの所はまだ文化とかないし」
「自分ではわからないだけかもよ? 当たり前すぎて気づかないとか」
「だったらいいなぁ」
「レティシアちゃんは視野が広いわね。見習わないと」
「文化、かどうかはわからないけど、たぶん珍しいものは多いのでいつか私の故郷を案内出来たら……いいな」
「まぁ、楽しみだわ」
「遠いので、すぐには無理かもしれないけど、いつか」
「ええ、いつか」
うむ。
せっかく異世界に来たのだから、そのうちいろんなところ見て回りたいよな。
そしてその土地土地に咲く百合を観察したいものである!!
「ああ、本当。行ってみたいところがたくさんあるわ。エリヴィラさんの故郷に、マリオンさんの故郷。リゼットちゃんの所ももちろん。それに砂漠の国にも行ってみたいし、海の方にも行ってみたいわ。その土地のいろんな文化に触れたい」
何度も言っているが、俺はギャップに萌えるたちなので、異文化交流とか大好物です!!
いいよね、その土地土地の民族衣装とか!
このあたりだと、女性は夏でも長そでで腕を露出しないのがデフォだけど、暑い国ならやはり露出が高いはず!!
もちろん寒い国のもこもこ重ね着ファッションもいいと思います!!
「?」
なんか静かだな?
おしゃべりが止まっている?
何事かと思えば、なにやらみんなぼーっとした顔で俺を見ている。
「どうかした?」
「あ、うん。すごく立派だなって。マリオンさんの言った通り、レティシアちゃんは本当に視野が広いわ」
「その土地の文化とか、考えたこともなかったな。確かに家の方はこことは違うけど、田舎で恥ずかしいとしか思ってなかったし」
「マリオンの所にはまだ文化らしい文化はないけど! これから作るもん! だからお姉ちゃんマリオンの所にも来て!」
「ええ、行きたいわ。ふふ、楽しみが増えたわ」
「その時には、私もご一緒しますから」
「当たり前よ。エダがいないと私なにもできないもの」
うっわ。
本当に楽しみだな。
楽しくおしゃべりをしながら朝食を終え、さーてこれから何をしようかなー、っと休みの日ならではの幸せな問題に取り組む。
「レティシアちゃん、今夜もわたしの部屋に来る?」
「どうしようかしら」
「何か用でもあるの?」
「そういうわけじゃないけど」
エダをあんまり一人にするのもなぁ。
「先生ばかりずるい~!」
「正直に言ってうらやましいです」
「うふふ。いいでしょ~? けどね、これでも今は教師と生徒だからこんな長期のお休みでないとできないことだし」
まぁ、実はこっそりやってるんですけどね、秘密のお泊り会。
「でもでもっ」
「……うらやましい」
「お泊り会ならあなたたちはいつでもできるんじゃない?」
「あ!」
「あ、あれ? 確かに……」
「お姉ちゃん、マリオンの部屋……は、狭いからお姉ちゃんの部屋にいってもいい!?」
「私の部屋ならギリギリ二人は! ベッドはひとつですけど!」
「ふふ、いいわね。けーど、夏休みの間はわたしに譲ってね」
「えええーっ!」
「そんなっ」
「……お泊り会ばかりでは生活のリズムが崩れますから、週に一度ぐらいにしてください」
「えええっ!? エダちゃん! もう少し、週に四日ぐらいならっ」
「譲って二日です」
「えええー!?」
「順番だと月に二回程度!」
おや? エダが一番強いのかも。
と、何やら表の方でざわざわしてるのが聞こえた。
人が少なくなって、ずっと静かなのに珍しい。
「何かあったのかしら? 見に行ってみましょう!」
ざわざわしているということは、人が集まっているということ。
この学園で人が集まっているということは、女の子がいっぱいいるということだ!!
足取りはめちゃめちゃ軽く、ざわめきの元に。
ざわざわの発生源は、正門から学園につながる道。
そこに馬を六頭もつないだ馬車があった。
六頭ってすごいな。
俺とエダがここに来た時の馬車は二頭だったぞ。
そんで何回か馬を入れ替えたんだよな。
その二頭の馬も、普通の馬だと思うんだけど……この六頭の馬はその時の馬より一回りでかいしキレイ。
無論馬だけでなく馬車自体もでかいしキレイ。
いや、きらびやか。
と、言うべきか?
なんなの、パレードなの?
シンデレラでも乗ってるの?
そりゃ人も集まるわ。
いったいどんなシンデレラがやって来たのだ!?
御者の人が降りて、馬車のドアを開ける。
さっと、クッション付きの踏み台が用意された。
ゆっくりと、ドレープたっぷりのスカートが現れた。
重厚な赤色を基本に、落ち着いた白のレースをポイントに使い、アクセサリーはゴールドに赤と白い輝きの宝石。
スカートはあふれんばかりに広がり、ウエストはとても細く華奢だ。
金髪を高く結い上げ、ティアラを飾った姿はまさにお姫様!!
姫様だ姫様!!
姫様がきなさったぞー!!
お姫様が、ふっと顔を上げる。
赤で統一されたドレスにひときわ際立つ、真っ青な瞳。
つややかに彩られた唇が開いた。




