愛=
今まで見てた世界は、ガラスのスクリーンに映し出されていた映画で、突然そのスクリーンが砕けてしまったみたいな?
そんじゃあ今俺はどこにいるかと言えば、どこだここ?
なんか明るい空間にふよふよ浮いてるみたいな?
みたいな? ばっかりだけど、それ以外になんと表現したらいいのか。
「ごめんなさい。まだ何もなくて」
聞こえてきた声の方を見ると、むちゃくちゃカワイイ人がいた!
ただ垂らしただけなのに、ふわふわと波打ってきらめきをちりばめた銀髪に、それに負けない白い肌。
少し垂れて笑っているみたいな目の周りは、ばっさばさに長いまつげ。
か弱そうなのに、澄み切った濃い紫の瞳からは力強い意志を感じる。
俺と同じ形のリリア女子学園の制服。
胸に揺れるは純白のリボン!
あ?
え?
もしかして?
目の前の女の子はその場でくるりとターンして、ちょっと腰を曲げて小首をかしげた上目遣いになり、口元に人差し指を寄せた。
「はじめまして。レティシア・ファラリスでっす」
「レティシアだ―!!」
しかもそのポーズは、俺が自分がレティシアだと確認する時に脳内でしていたポーズ!!
目の前で見るとほんとかわいい! なにそれもはやずるいとかヤバいとか尊いとか!?
俺の妄想を軽々と越えてくる!
ん? おや?
俺の妄想を越えてくるということは、これはもしや俺の妄想ではないのでは?
「あ、あれ? 違いました? こ、こうでした?」
と、ピースサインを目元に持ってくるミューリちゃんポーズ。
「くあっ!」
心臓に来た!!
元気かつバカっぽいポーズが、レティシアとミスマッチで……ツボです!!
「あああ、あれ?」
「い、いいんです。いいです。いいもの見せてもらいました」
合掌。
「ところで、あなたはレティシア、レティシアちゃ……レティシアさん?」
「はい。こうしてお会いするのは初めてですね」
「初めまして、だけど、ええええ、ああああ、ナンデ?」
ナンデ? ホントナンデ?
ナニガオコッテルノ?
「ご挨拶が遅れてすいません。あの、私間違いなくレティシア、です」
やっぱりレティシアだあぁぁあ!!
ぶあっと、涙があふれた。
「よ、よがっだよー! レティシアさん、ちゃんといたー!! レティシアさん、エダがすごい心配して、体とかしっかりメンテしてくれててっ。そんでリゼットちゃんもすごいいろいろおっきくなって、頑張って先生してて……俺嘘ついてるみたいでちょっと悪いなーって、よがったー! 本物がいたー!! どこ行ってたの? 戻ってきたー!!」
「戻ってきたと言いますか、今、私はこの世界の女神をしていまして」
「メガーミ! チート能力? なくない? いやそれより」
そうそう、それどころじゃないし、そんなのどうでもいいし。
「そっか、ありがとう! 女神レティシアさんが助けてくれたんだ」
「いいえ。違います」
「はひ?」
この不思議フィールドとか、女神パワーじゃないの?
「あなたが私たちを助けてくれたんです」
「は? 俺なんもやってないよ?」
マジで何もやってねぇっすけど。
「少し長いお話になりますけれど、聞いてくれますか? あ、ちなみに今は向こうでは時間が止まってる状態なのでご心配なく」
「あ、そういうことならゆっくり聞きます!」
「ええっと、何から話せばいいか迷いますが……とりあえず今起こってる事件の黒幕は学園長先生です」
「は!?」
あっさりー!? 盛り下がる―!!
そしてなんでー!?
あの優しそうなおばあちゃん先生が⁉︎
「学園長先生の持つ魔法は『記憶』です。洗脳と言った方が直人さんにはわかりやすいかもしれません。その能力を使ってエリヴィラにレティシアを殺させようとしましたが、あなたがエリヴィラさんに触れたことでその魔法がとけたのです。エリヴィラさんは、用意された魔力を浴びた呪いの道具を逆手に取り、ゴーレムを作り騒ぎを起こして時間を稼ぎ、うまくすれば黒幕を炙り出せると考えたのです」
「ほう。すごい作戦なのでは?」
「はい。さらにマリオンさんがレティシアの姿をして現れたことによって、直接手を下しに来る相手を捕まえる作戦が重なりました」
「え? それ俺が出てきたら台無しなのでは?」
「え、ええ、まあ。ですけど! この作戦がうまく行ったとしても学園長は出てこなかったですし! 結果的には良かったかもしれませんよ!」
「お、おおぅ」
慰めの言葉が痛え。
「け、けど、洗脳も呪いの一種なのかぁ。呪いもけっこう色々あるんだな」
「あ、そこも間違っていまして、レティシアのあなたの魔法『解呪』は呪いだけでなくすべての魔法を解くものなんです」
「アンチ・マジーック!! すげぇ! 魔法中心の世界では主人公クラスのチート能力じゃん」
「ええ、ですから……私は、この世界の神に排除されたのです」
「排除?」
どゆこと?
「つまり私は偶然に発生してしまった世界のバグだったんです――」
レティシアの話してくれた内容は、衝撃というか納得というか。
衝撃部分は俺が尊死したことが、なんかすごいからレティシアにしてくれたということで。
すごいのか? 尊死。
珍しいとは思うけど、褒められると微妙というか、褒められることなの?
「私は、何の力もなくただ世界を見つめるしかできない女神でした」
うん、それって最高だよね。
百合を見つめるための、壁や観葉植物の上位職が女神だったとは盲点でござった。
「けれど、私の唯一のつながりであるあなたが、私を思ってくれた。そして世界を愛してくれた。愛は力です。見返りを求めない無償の愛。自分の全てを差し出そうとする献愛。あなたの愛が私のものとなり私の力となったのです」
「あ? あー? えーっと」
愛が力でつながって?
どゆこと?
「そのですね、愛は神の経験値みたいなもので、どれだけ愛がたまったかでレベルアップします」
「ほう」
「私は何もできない女神だったんですけど、あなたはものすごくたくさんの愛を持っていまして」
「そうなん?」
「ええ! あなたの愛は素晴らしいんです! 愛していながら、愛することへの見返りを望まずただ見つめるのみだなんて! 愛すればこそ手を差し伸べたくなるものなのに」
え? だって見つめる以外何をしろと?
挟まりに行くの何て言語道断、死ねばいいのに。
恋を応援して後押しとかだって、女の子にやってもらいたいじゃん。
大好きな気持ちを隠して、自分ではない人との幸せを祈る百合……いい。
「そんな愛は上位の神にだって難しいんです。そのあふれる愛が、あなたと私がつながったことにより、私の愛となり――」
「………」
しかし、レティシアさんの言うことはあんまりよくわかんなくて、彼女も俺がわかってないのに気ずいたらしい。
「えーっとですね、私とあなたは両方レティシアなんです」
「うん」
「なので女神レティシアとレティシアは同一キャラクターと認識され、愛の共有がされたんです。愛は人間が持っていても素晴らしいだけですが、神にとっては愛=経験値なんです。なのでレティシアの愛が女神レティシアの経験値として換算され、女神レティシアはものすごくレベルアップしたんです」
「なるほど!」
「この精神のみで話す空間なんかもレベルアップで得たアビリティなんです。ほかにもいろんなことができるようになったんですよ! チートと言うほどのことは出来ないかもしれませんが、今ならあなたにいくつかの加護を与えることができると思います。おそくなりましたが……」
レティシアが一歩俺から離れたかと思うと、制服のリボンが淡く発光しながらほどけて膨張し彼女の全身を包み、一瞬ビカーッと光ったと思うと実に女神らしいひらひらドレスになった!
変身、カワイイ!!
見えなかったけど、絶対一瞬ボディラインが見えるやつ!!
「あなたの願いを言いなさ――」
「俺を壁にしてください!」




