●誰も知らない私
だがしかし、この世界の神は彼の素晴らしい愛を見過ごしたのだ!
彼の魂は世界の理により、すべての愛を忘れてしまうだろう。
このあまりにも大きな世界では、彼の崇高な魂は見過ごされてしまうのだ。
私は、彼をすくい上げた。
物質に干渉は出来なくても、魂という神に近いものなら私にだってひとつぐらいならなんとかできるのだ。
私は魂を持ち帰り、私の世界で唯一干渉することができる『私』だったものに入れた。
私がこの世界の女神になるときに、この私だったものを残した。
それは前の神の怠惰と気まぐれで、私だったものを消す理由を作るのをやめて不自然なまま、まるごと私に受け渡した。
私だったものと私には、当然つながりがある。
突然任された見守ることしかできない世界の中で、私だったものは私がほんの少しだけだが干渉できる唯一のものだ。
私は突然私が死んで悲しむ両親や兄、エダやリゼットちゃんのことを思い、ただ眠り続けさせた。
ゆっくりと私がいなくなるのを受け入れてもらうつもりだった。
人々は私だったものが眠り続ける、自分が納得できる理由をつけて見守ってくれていた。
だから体はとてもいい状態で保存されていて、この崇高な魂の入れ物として最適だったのだ。
彼は私の世界でレティシアとして生き、数々の奇跡を起こしてくれた。
ああ、だけど私のせいだ!
レティシアは前の神が制定した世界のバグで、取り除かねばならないものなのだ。
世界はレティシアを排除するために、強引に捻じ曲げられる。
エリヴィラからの警告に気付いたリゼットちゃんたちの作戦は、かなり良いものだった。
レティシアは世界から狙われ続けるだろうが、時間を稼げたはずだ。
そうすれば……私が力をつけこの世界の理を書き換えられるようになっていたかもしれない。
だが、誤算があった。
誤算はレティシアの愛だ。
どんなに懇願されてもレティシアは隠れてやり過ごすことを納得せず、仕方なく部屋に無理やり閉じ込めたのだが……
自分のために少女たちを危険にさらすことを良しとせず、振り切って出てきてしまったのだ。
愛情深いゆえに、その素晴らしい愛ゆえに、自らを危険にさらしてしまう。
崇高な魂に感心し、自らに憤る。
私は、本当に何もできない!
名ばかりの経験も力も何もない、ただ見つめるしかないできそこないの女神でしかない!
「持ってきなさい! 私の全部くれてやるから、これ以上誰かを傷つけるのは許さない!」
レティシアが叫んでいる。
「……ごめんね、レティシア。だけど、守りたいの。私の全部で」
そして、付け加えられたかすかな声。
それは祈りだった。
誰も知らない私という新しい女神への、初めての祈り。
その時、私とレティシアはつながった。
体がもともと私だったからなのか、私が連れてきた魂だったからなのか、レティシアのあふれる愛がそうさせたのか、そのすべてか、また別の要因があったのか。
とにかく、レティシアと私はつながった。
私たちはその一瞬ひとつになったのだ!




