●それはあまりに美しい
ごめんなさい。短いよー。
私はただ見つめるしかできない!
どんなに手を貸したくても、木の葉を揺らすことすらできない。
今、レティシアに降りかかっている災厄は、すべて私のせいだ。
私が受けるべきものだったのに!
私は、レティシア・ファラリス……だったもの。
今はこの世界の女神だ。
レティシアは元々この世界の誤りだったのだ。
今のレティシアの――直人さんの世界の言葉で言うところのバグだった。
レティシアの持つ魔法「解呪」は、呪いを解くだけのものではない。
すべての魔法を消し去るものだ。
未だその力は未熟で、原始の魔法であるところの呪いに大きく働くことからそう誤解されていた。
だが、神にはわかっていた。
この世界を、魔法を使うものたちで満たそうとした神にとって、魔法を消し去る魔法ほど厄介なものはなかった。
なのでレティシアは、神によって消し去られる……はずだった。
だが、その直前にこの世界を治めていた神はさらに高次の世界の神になるために、ここを去ることになった。
そこで、神はこの世界で一番不要なもの。
すなわち私を女神にして、去った。
面倒ごとをまとめて片付けるいい手だったのだろう。
だが私の方は何もわからず、突然女神などという大役を任され途方に暮れた。
私はとにかく何をすべきなのか、何ができるのかを知るために、他の世界を回り勉強をした。
数々の世界を回り、私は少しずつ自分の力を理解した。
神の力は、神が神らしくあることで増していくらしい。
簡単に考えれば、よい神であるほどに力を得ると言うことだろう。
なるほど、それならば力を得るために神たちはより良い神になろうとする。
そして世界は良い方向に発展していくのだろう。
けれど、私には『よい神』が分からなかった。
それを知るためにさらに数々の世界をめぐり……彼、直人さんに出会ったのだ。
私が彼を見つけたのは、彼の体から命が消える瞬間だった。
彼が命を落とした理由に驚かない者はいないだろう。
こんな死に方は誰にでもできるものではない。
否、彼にしかできないだろう。
彼は、愛おしいと思う心で死んだのだ。
何も求めず、ただただ見つめ愛する。
それは神が持つべき無償の愛。
全き殉愛であり、だれに殺しの罪を負わせることもなく、自らを殺す罪も侵さず。
ただただ、愛ゆえに。
あまりにも純粋な愛ゆえに、彼は命を落としたのだ。
私は彼に会い、愛するということの美しさと難しさを知ったのだ。




