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「撃てー!」


 が、その叫びは轟音にかき消されてしまう。

 武器……銃から発せられた弾丸がゴーレムに浴びせられる。


 銃と言っても、こちらの銃は長い鉄の筒に込めた球を、それぞれが持つ魔法の力をもって打ち出すものだ。

 精度もあまりよくなく威力は個々の魔法に左右されるのだが、銃は使い手の多い炎の魔法と相性がいい。

 だが、魔法の方が使い勝手がいいので、ろくに研究は進められていない。


 弾丸がゴーレムを穿つ土煙と銃から噴き出す水蒸気があたりを覆い隠し、轟音の後、痛いほどの静寂の中、ゆるい夜の風が舞った。

 ゴーレムはただの土塊になっていた。

 否、ぞぞと土が動く。

 細かな土の一粒一粒が磁力に導かれた砂鉄のごとく集まって、再びゴーレムの形になる。


 エリヴィラがいたあたりは大きな卵型のコブになっており、彼女達はそこで分厚い土の壁に守られている。


「次!」


 鋭い号令の声が響き、銃が交換される。

 銃とは言っても、ほぼ鉄の筒でしかない。

 弾丸は一発ずつ詰めなければいけないし、製鉄技術が低いため何度も使えばゆがみが出る。

 おおよそ実戦で使われることのないものだ。

 眉をひそめてそれを見つめる生徒たちも、こんなもの初めて見るものが大半だろう。


 銃が構えられる。

 精度はよくないがこれだけ大きい的を外すはずもない。

 ゴーレムは修復されるがそれもエリヴィラの魔力が続く限りであり、持久戦になれば彼女に勝ち目はない。


「ちょ、ちょっとぉ!? お義姉さまがけがをしたらどうするのよ!!」

「ヴェロネージさん、ダメよ! 危ないわ」


 食ってかかろうとするグローリアをリゼットちゃんが止める。


「でもでも!」

「撃て―!」


 再び轟音!

 そして最初と同じことが繰り返される。

 ゴーレムはさらに卵を守る形へと変わっていく。


「次!」


 三度銃が交換される。


「ダメー!!」

「おやめなさい!!」


 グローリアの声をかき消したのは、怒りを含んだ制止の声。

 それを発したのは、一人の獣人のメイド。

 黒いロングドレスに重ねられた白いエプロンがやけに目立つ。

 メイドキャップから飛び出す耳が、ふわふわと揺れる。


「ダメっす! ダメっす」

「いーけーまーせーんー!」

「も~! 私たちが~お~こ~ら~れ~る~」


 腰にエダが、両腕にラウラ、イルマがかじりつくがその歩みは止まらない。


「彼女たちを少しでも傷つけたら、私は絶対に許さないから!!」


 全身から怒りを発し三人を引きずって表れたメイドは……変装したままのレティシアだ。

 グローリアとリゼットちゃんがぽかんと口を開けて彼女を見る。


 ボロボロとゴーレムの卵形の部分が崩れ、エリヴィラとレティシアが姿を見せる。


「どうして出てきちゃったんですか!?」

「なんででてきたんー!?」

「どーして出てきちゃったのぉ!?」

「もう! 隠れててって言ったのに!」


 グローリア、エリヴィラ、レティシアの姿をしていたマリオン、リゼットちゃんが同時に言う。

 いや本当に、どうして出てきちゃったの!?


「こんなことほおっておけるはずないじゃない!」

「やけど――いえでも、平気です。私は自分の身ぐらい守れるし」

「マリオンは魔法じゃなかったら全部平気だし!」

「お義姉さまは呪いが平気だから、何かしてくるとしたら物理攻撃か魔法だし」

「魔法だったら私たちが邪魔をする予定で、そのためにも協力を仰いで」

「え? なに? もしかしてアタシらのすることなくなった?」


 モンスター寮の生徒を引き付けて野次馬をしていたメフティルトが、ゆっくりと出で来る。

 アクセサリーがいつもり多い。

 デザインなど考えず、とにかく量を持ってきたというのが、ありありとわかる。


「まぁ、メフティルトさんも協力してくれたのね」

「マリオンに頼まれたから。アイツが頼みごとをするとか初めてかもだし」

「やさしいのね」

「別に、一応寮が一緒だし、仲間のカテゴリに入ってるし」

「まーあ」


 こんな時だと言うのに、レティシアは笑顔をメフティルトに向け、メフティルトはばつが悪そうにそっぽを向く。


「それより、レティシアは隠れてて狙ってる黒幕おびき出す作戦じゃなかったの?」

「いやー、そのはずだったんすけど、レティシアさんが隠れるのに納得してなくて」

「何とか隠してたんですが」

「無~理~」


 そう、すべては彼女たちの作戦だったのだ。


 エリヴィラが帰りがけに伝えた『気を付けて』その言葉をレティシアはエリヴィラの様子を伝える雑談で皆に伝えた。

 エリヴィラは食事が温かいことや時間、レティシアの姿やの会話から、レティシアがグローリアたちと一緒にいることを悟る。

 グローリアたちならば、レティシアの安全を第一に考えてくれると確信したエリヴィラは自ら動くことにした。


 このまま自分が呪いを実行しなければ、自分のわからないところでレティシアが狙われるのは間違いない。

 それより前に騒ぎを起こして、黒幕が出て来ざるを得ない状況にする。

 失敗しても、レティシアが狙われているのを知りつつ、何もしないよりはまし。

 とにかく状況を動かさないと始まらないのだ。


 エリヴィラはグローリアたちを信じて、呪いの道具として与えられた液体の魔力を拝借してゴーレムを作った。

 グローリアたちは、レティシアを隠し、彼女が安全であると知らせるためにマリオンにレティシアの姿をさせて送り込んだ。

 エダはイルマ、ラウラと協力して、レティシアを安全な場所に隠した。


 エリヴィラはリゼットちゃんが炎で照らしたおそろいのブレスレットの色で、彼女がマリオンであることを見抜いたのである。

 グローリアたちとエリヴィラが繰り返していた『信じてる』それはお互いに向けられた言葉だ。


 絶対にレティシアを守る。

 傷つけない。

 その思いだけは絶対に揺らがない。


 だから、信じてる。

 信じられる。


 彼女たちは、同じ人を好きになった。

 決して、揺るがない思い。


 そして、大事な友達だから。

 何があっても信じられる。


 ………だが、当のレティシアが無理やり出てきてしまったことで作戦は台無しになってしまった!


「だって、隠れてなんていられるわけがないじゃない」


 レティシアはまだかじりついている三人の手を離させ、ゆっくりと前に出る。


「私、わがままだから、誰にも傷ついてほしくないの」


 ゆったりとした笑み。


「楽しかった。本当に楽しかった。夢みたいだった。みんなと一緒に居られて。だからこそ自分だけ隠れてるなんてできないの! 誰だか知らないけれど、狙っているのは私だけなんでしょう!? なら、他のだれも巻き込まないで」


 教師たちの持つ銃の向きが変わった。

 筒の先端はレティシアに向けられている。


「バカ! 後ろにいる娘たちに当たるでしょ!」


 レティシアは銃口に向かって進み、筒をつかんで自分の胸に当てる。


「私だけでいいんでしょ? 私だけにして。ほかの娘たちには絶対に手を出さないで」


 教師の目に戸惑いが浮かぶ。


「ごめんね、レティシア。あなたの体傷つけちゃう」


 そんなことはどうでもいい!


「だけど、守りたいの。私の全部で」


 ああ、どうして!

 どうして、どうしてまだ!


「持ってきなさい! 私の全部くれてやるから、これ以上誰かを傷つけるのは許さない!」


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― 新着の感想 ―
[一言] いったいどうなってしまうのか!?
[一言] あら、なんかご本人が出てきた?
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