なりふり構っていられません!
エリヴィラちゃんが懲罰室に入れられてから三日たった。
三日たったということは、もう三回も懲罰室で夜を過ごしているのだ!
まあ、そんな居心地が悪い場所じゃないそうだけど!!
絶対寂しいし不安だろーに!
俺たちも、朝起きればいいニュースがあるはず!
この授業が終わったらいいニュースが!
と、待ち続けて、とうとう三日目の放課後である。
「お、お義姉さま、そんなに考え込まないで」
「そーだよ、眉毛と眉毛の間、戻らなくなったら大変だから」
「あ、そうね、そうよね」
考えすぎて怖い顔になってたかな。
ムニムニと顔を揉んで、グローリアちゃんとマリオンちゃんに笑顔を向けるが、ちゃんと笑えているかどうか、イマイチ自信がない。
レティシアの部屋だと手狭なので、グローリアちゃんの部屋での作戦会議。
こんな時じゃなければうっきうきなのに!
グローリアちゃんの専属メイドさんの一人、ニコーレさんは黒髪をキュッと後ろにまとめて低い位置で三つ編みを後頭部のラインに沿わせてまとめ、小さな黒ブチ眼鏡を付けた、ツンツーンとした美人さん。
しゅぴ! と立った耳はたぶんわんこ。
ドーベルマンとかそんな感じ!
もう一人のリリアーナさんは、くしゃっとしたルーズなゆるふわウェーブのくすんだ金髪を余裕をもって束ねた、ほわほわナチュラルさん。
ふわふわーって感じだけど、ニコーレさんより頭一つ大きくてそのちょっと垂れたわんこ耳は、もしやゴールデントリバーとかでは?
俺そんな詳しくないから違うかもしれないがそんな感じだと思う。
そんなビシッとビックな二人は、お茶の入れ方のレクチャーを受けてから、エダをボス……じゃない先生扱いしているらしく、仕事をしていない時にはぴったりエダの後ろについて回っているのとか……
カルガモの子供か!!
かわいい!!
じゃねぇ!!
エリヴィラちゃんだ、今の問題はエリヴィラちゃんなのだ!
「レティシアさーん、そんなに引っ張ったら顔のびるっすよ?」
「心配なのはわかるけど~」
「ほふね」
いけね、今度はのばしすぎた。
気を付けないとな。
おっとり美人なレティシアの顔を守るのも俺の役目なのだから!
「だめね。私が慌ててもなんにもならないのに」
くそぅ、わざわざ異世界に転移してきてるのに、ほんと何もできない。
しかも事態はどんどん悪くなってきているのだ。
エリヴィラちゃんの疑いはすぐにはれると思ったのに、時間がたてばたつほどエリヴィラちゃんに不利なことばかり増えていくのだ。
呪いに関する本の貸し出し記録とか、部屋から呪いにも使える道具が出てきたとか、送られてきたものがかなり厄介なものだと判明したとか……
状況証拠はどんどんエリヴィラちゃんを不利にしていくのだ。
「大丈夫です! きっと今日こそはモーリア先生がいい話題を持ってきてくれますから!!」
「お姉ちゃんがそんな顔してたら、マリオンも泣きそうになりますぅ!」
いや、泣きそうになるっつーか、二人とも泣いてるし!
「ああ、ごめんなさいね。泣かないで。泣き顔もかわいいけれど笑顔の方が素敵だわ」
女の子にはいつも笑顔でいてほしい。
けど、グローリアちゃんとマリオンちゃん、泣き顔もめっっっっっちゃかわいい!
おっきい目がウルウルして、涙にまで瞳の青と赤の色が映ってるみたいで!
ハンカチで順番に涙をぬぐう。
一応確認。
……無色透明。
ですよねー。
「モーリア先生がいらっしゃいました」
ニコーレさんの声に、みんなが一斉にそちらを見る。
「遅くなってごめんなさい」
「リゼットちゃん……」
何かいい情報は……なんて聞けない。
リゼットちゃんの表情は硬くて、引き結んだ唇は青白い。
「……状況は?」
「とても、悪いわ」
「そう」
状況はどんどん悪くなっている。
たぶん今日は……昨日よりもっと……
「エリヴィラさんに自主退学が勧められているわ」
「退学って! どうして! まだ専門家の人に調べてもらったわけじゃないのに!」
呪いの専門家の人はかなり少ないうえに遠方にいるらしく、まだ来ていないし、いつ来てくれるかもわからない状態だ。
「……調べてもらったら、取り返しのつかないことになるかもしれないでしょ」
「どういうこと?」
「あ~、な~る~ほ~ど~」
ラウラちゃんが一人こくこくと頷く。
「何がなるほどっすか?」
「ん~とね~。今エリヴィラさんが退学したらただの自主退学だけど~、専門家の人が来てエリヴィラさんが呪いをかけてたってことになったら~、自主じゃない退学になるってこと~」
「んむ? 自主じゃない退学になると……やっぱまずいっすよね。記録とかに残ったり?」
「そ~。エリヴィラさん~、ただでさえ複雑だから~」
「複雑っすねぇ」
「だけどエリヴィラさんは私に呪いなんかかけていないわ! 専門の方が見ればわかるはず!」
俺はエリヴィラちゃんの学園生活をもっと見守りたいのだ!!
「そうよ! やってないんだから堂々としていればいいのよ!」
そうだ! グローアちゃんの言うとおりだ!
「……グローリアお姉ちゃんは貴族だからそう言えるんだよ」
「え?」
マリオンちゃん?
「エリヴィラお姉ちゃんとか、マリオンとかは……やってないこともやったことになることがあるの。だから、マリオンは……エリヴィラお姉ちゃんを信じてるけど、今はなんだかおかしいんだもん」
マリオンちゃんは唇を噛んで俯く。
そうか……そうだよな。
貴族とか、魔法が使える一部の人が特別扱いされるってことは、虐げられる人もいるってことだ。
俺もレティシアって言う貴族としては端っこだけど、特別扱いの方に入ってて。
そこの所あんまわかってなかったかも。
「この学園の中では、そんなことは起こらないって言いたいけれど」
リゼットちゃんも言葉を濁して俯く。
「だけど、この状況おかしいっすよ?」
「うん~。誰かがエリヴィラさんを退学させるために仕組んだこと~。としたら、全部しっくりきそう~」
ラウラちゃんとイルマちゃんが、二人して首をかしげる。
「そんな。いったい誰が何のために!?」
「誰かはわかんないっすけど、エリヴィラさんの部屋にヤバいもの仕込んだりできるってことは、生徒とか先生とかじゃないすか?」
「部屋に仕込むのは同じ寮の子ならできそうだけど、送ってきた荷物はどうなるのよ?」
「ん~、偶然~じゃないよね~。だとすると先生とか?」
「まさか! 学園の教師は素性が明らかな人しかいないわ。わたしも厳しい審査を受けたしみんなちゃんとした人たちよ。それにこんなこと一人や二人じゃできないことよ」
「でもでも、そうとでも考えないとおかしいよ?」
うーん確かに誰かが……いや先生たちがエリヴィラちゃんを陥れるために動いている?
確かに状況を考えると納得できる推理ではあるけれど……
「私は……信じるわ。信じたいわ、エリヴィラさんも、この学園も」
俺はエリヴィラちゃんも、この学園も大好きだから。
信じたいのだ。
「エリヴィラちゃんに自主退学なんて必要ない。絶対に。ちゃんと調べればエリヴィラちゃんが潔白だってわかるわ。こんなのきっと何かの間違いよ。この学園に悪い人なんていないはずよ」
先生も生徒も、働いているたくさんの人も全員女性のこのリリア魔法学園と言う花園に悪がいるはずないではないか!!
いてたまるか!
どうかいませんように!!
「レティシアちゃん……そうよね。わたしも先生方に掛け合ってみるわ」
「あたしも! お父様にお願いしてみます! この学園にはヴェロネージェ家も出資してるんだから無視はできないはず! 家柄はこういう時に使うのよ!!」
「みんながそうするなら……マリオンも……。メフティルトさんにお願いしてみる」
「ありがとう。おねがいね」
家柄とかに頼るのはちょっと卑怯な気もするけど、こうなりゃなりふり構ってられないのだ。
エリヴィラちゃんの疑いが晴れるまで、どうにか時間を稼がないと。
しかし、レティシアは何もできないのが悔しい。
せめてサポートだけでもしないとなぁ。
「エダ。今日のエリヴィラさんへの差し入れのお茶、私が入れてもいいかしら?」
「あ、はい、きっと喜ばれますよ!」
よーし、そうなれば、エリヴィラちゃんへの差し入れお菓子のつつみも作ってっと。
最後にエリヴィラちゃんの花のブレスを結わえ付ける。
これ、鞄につけっぱなしだったんだよな。
大丈夫、エリヴィラちゃんにはこんなに心配してくれる友達がいるんだから。
もちろん俺も、エリヴィラちゃんを信じているぞ!!
なんとして、なんとしてでもこの百合の園を守ってやるのだ!!
次かお話が動く予定です。




