晩ごはんおいしい
俺はちっとも落ち着かない気分で、夕食を部屋で一人で食べている。
いつもはエダがかいがいしく給仕をしてくれるのだが、今日はひとりぼっち。
エダがいないのは、エリヴィラちゃんに夕食と着替えを持って行ってもらっているからなので、文句はちーっともございません。
つか、エダは給仕をしてから行きます! って言ってたけど、俺が半ば無理やりに行かせたのだ。
ただでさえ懲罰室なんて場所にいるんだから、せめてご飯ぐらいはあったかいもの食べてもらいたい!
エダにはなるべくゆっくりしておしゃべりとかするようにも言ってあるし、少しは気が晴れるといいんだけど……
エリヴィラちゃんは独りっきりなんだよなぁ。
そりゃ寮の部屋では独りかもだけど、自分の部屋で一人と、懲罰室で一人とは話が違う!!
やっぱり、なんかすぐ近くに寮の仲間がいるって安心感、けっこうあるし。
なのに離れた懲罰室で独りぼっちは……絶対寂しいよなー。
絶対絶対寂しいよなー。
せめてご飯ぐらいはエダと楽しく食べてほしい。
一人ご飯は味気ないもんな~。
あ、これおいしい。
うーん、豆をクリーミーになるまでよーくつぶしたスープが! バターを塗ったパンにべっとりつけてほおばると……
うまい!!
うん。
一人ご飯は味気ないとか俺には当てはまらない。
だてにボッチ飯極めてないからな!!
わいわい食べるご飯もおいしいけど、自分のペースで黙々と食べるご飯もまたおいしいのだ。
エダに給仕されながら食べるご飯は別格にめっちゃめちゃおいしいけど、一人でマナーを気にせず食べるご飯もまたうまし。
このスープどぶ漬けパンを、口いっぱいに頬張るところとかエダには絶対に見せられない!!
エダの前では完璧素敵なレティシア様でいたいからな!
だけど、この行儀の悪い食べ方……口いっぱいに頬張って噛み締めると、まずクリーミーな舌触りとミルクの香り、そのあとにふわっと豆の香が来てすかさず塩気の効いたバター、むぎゅっとしたパン!!
次々にやってくる味覚をまとめて咀嚼すると、口の中で混ざり合って禁断の味に!
「ただいまもどりました」
「!?」
ぅぼあぁ!?
俺は口いっぱいに頬張っていたパンを慌てて飲み込む。
当然のようにのどに詰まる!!
だがこれは想定内!!
息ができないのを涼しい顔でごまかして、紅茶を優雅に一口。
喉から胃にパンの塊が落ちていくのがわかる。
ふー。
エダの給仕がなかったおかげで、紅茶が冷えていたのが勝利の秘訣です!!
「おかえりなさい、エダ。どうだったかしら? ひどいところじゃなかった?」
せき込むこともなくさらっと言えたのは、俺の頑張りかレティシアの資質か。
とにかくエダにみっともないところを見せずに済んだ。
「はい。小さな窓から見ただけですけれど、思っていたよりひどいところではなかったです。だけど本当に床が土で……寒い季節じゃなくて本当に良かったです」
うむ、レティシアの記憶によると、この世界……のこのへんにも四季がある。
ここは、冬は雪がうっすら積もるのも珍しいぐらいのあったかい地方になるのかな。
そんで、今は春から夏にゆっくり移行している季節。
かっちりした制服だとちょっと暑いかなー。
って思うことがあるぐらいの過ごしやすい気温なので、そこはひとまず一安心。
「不便なことはなさそう? 他に必要なものはなかったかしら?」
「はい、レティシア様の寝間着をお貸ししたら、ずいぶん恐縮されてました。いつか絶対にお礼をしますとおっしゃられて」
「別にいいのに」
エリヴィラちゃんの部屋には、呪いの専門家の人が来るまで立ち入り禁止なのでレティシアの寝間着を貸したのだ。
お、おお……そうか、今日から夜はエリヴィラちゃんとレティシアがおそろいの寝間着……ああ、パジャマパーティとかしてほしい。
あ、わいわいするのもいいけど、パジャマパーティはぜひ二人っきりで!
いや、みんなでワイワイして寝落ちして、ふと夜に目が覚めて……か細い光の中で目が合う……シチュもすーてーがーたーいー!
あ、そう言えば……
「エリヴィラさんとお話しできたのね」
懲罰室とか言うからには、私語厳禁!! みたいになっているかと思ったんだけど。
「はい、見張りの先生が優しい人で、本当はダメだけど小さな声なら聞こえなかったことにするからって。ナプキンのお手紙もこっそり見逃してくれました」
「そうなの。よかった。やっぱりエリヴィラちゃんが呪いをかけようとしたなんて、とんでもないことを信じてない先生もいるのね」
「当然です。ありえないことですから!」
「ええ、同じ意見よ。まあ、すぐに疑いも晴れるでしょうから、そうしたらエリヴィラちゃんの好きなものぱっかりでお茶会をしましょ」
「はい。エリヴィラさんは実は甘い物がお好きなんですよ。スパイス入りのミルクティと甘い栗のグラッセなんかどうでしょう」
「いいわねぇ。スパイスはピリリと辛めに効かせて甘いお菓子を際立てて……ふふっ。楽しみになって来たわ。しっかり準備しておきましょう。急がなきゃ」
「はい!」
エリヴィラちゃんの誤解はすぐに解けて、また楽しい日々が帰ってくる。
サプライズパーティのためのちょっとしたスパイス程度の話だと……この時の俺はまたお気楽に考えていたのだ。




