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できることは少ないけれど

 エリヴィラちゃんが連れていかれてから数時間。

 俺たちはレティシアの部屋に集合していた。


 みんな集まるとさすがに狭いなー。

 って思ってたけど、エリヴィラちゃんがいないとなんか物足りない。


 人数的にはリゼットちゃんがいるのでおんなじなはずなのに、なんかぽっかりと穴が開いてしまったようだ。

 みんなも同じように感じてるみたいで、リゼットちゃんが受け取りたてのカリカリクッキーを出しても、エダがちょっと特別なハーブティーを出してもなかなか手が出ない。


 俺も食が進まないんだけど、リゼットちゃんやエダに悪いのでそれらを口に運ぶ。

 どっちもものすごくおいしくて……だけどエリヴィラちゃんは食べられないんだよなぁ。

 ってしんみり。


 エリヴィラちゃんは今頃懲罰室かぁ。

 懲罰室……ん?


「懲罰室って、この学校にあったかしら?」


 少なくともレティシアの記憶にはない。

 まぁ、レティシアは優等生だから、そんなところに行くこともなかっただろうけど。


「ああ、レティシアちゃんは知らないわよね。あなたが眠った後にできたから。そうね、謹慎よりちょっと上の罰を与えるためにできた場所ね。貴族生徒なんかは部屋での謹慎が罰にならなかったりするから」

「まぁ、そうよね」


 メイドさんに傅かれて世話をしてもらいながらだったら、部屋で謹慎ってもノーダメである。

 うん、グローリアちゃんを叩いちゃったときの謹慎で、俺は確認しているのだ。


「そうなの……どんな場所なの?」


 想像してしまうのは鉄格子のはまった牢屋みたいな場所。

 そんな場所にエリヴィラちゃんみたいな優しい子が入れられるなんて!!


 うー、隣にすっごい不良がいたりしたらどうしようー。

 そんなことになったら怖いよな、怖いよなー。


 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


 懲罰室。

 こんなところに入るのは初めて。


 確かに手を上げた私が悪いけれど、それを後悔はしていない。

 友達として、見てみぬふりは出来なかったから……。


「ずいぶん見ない顔が来たもんだね」

「!?」


 隣の部屋から声がした。


 来るときにちらっと見たその顔はよく知っていた。

 彼女は有名人だ。


 背が高いのを誇るみたいに、背筋を伸ばして歩く姿が目を引く。

 切れ長の目は鋭くて、すごみがある美人で……。

 札付きのワルで先生たちをいつも困らせている。

 しょっちゅう喧嘩をしてお酒やたばこはもちろん、よくない薬を持っていたり、不純異性交遊をしょっちゅうしてるって噂を聞く。


「いったいなにしたんだ?」

「……別に」

「なんだよ、あたしが聞いてんだよ」

「!」


 怖い!

 顔は見られている。

 ここにいる間は何もできないだろうけど、外で会った時に何をされるかわからない!


「ちょっと……友達を叩いてしまっただけ」

「へぇ、なんで?」


 そんなこと聞かないでよ!


「………」

「なんで?」

「……盗みを、自慢されたから。っていっても、小さなものよ? 盗られた子も気づいてないし。今ならこっそり返せばなかったことにできるのに……」


 なのに……


「あの子は気づかないから、一緒にやろうなんて言うから」

「ふーん」

「………」

「よくある話じゃん」


 そりゃああなたみたいな不良にはそうかもしれないけど、私には!


「けど、その友達はよかったな。アンタみたいに怒ってくれる友達がいてさ」


 え?


「たぶん、ソイツ今頃盗ったもの返してるんじゃね? もしかしたら、謝ってもいるかもよ」

「だったらいいんだけど」

「もしさ、そいつが返してなくて、まだ盗みをやってるようならアタシに言いな。ちょっとおどしつけてやるよ。アンタの友だちみたいないい子ちゃんならビビってやめんだろ」

「……どうして?」

「ん?」

「どうしてそんなことしてくれるの?」


 この人には何のメリットもないのに。


「そりゃ、不良なんかやってても、なんもいいことないからな」

「いいことないなら、どうしてあなたは不良なんかやっているの?」

「くっははは! それ聞く? 普通?」

「! ごめんなさい」


 もしかして、いい人なんじゃないかって思ってしまって。

 顔が見えないせいか話しやすくて……


「…なんでかな。別に何かしてるつもりじゃないのに、なんかあったらあたしのせいになるんだなぁ」

「噂が全部嘘だって言うの?」

「あー、聞くけどどんな噂?」

「た、タバコとかお酒とか、危ない薬もやってて、男の人と付き合ってるって」

「へー、今そんなことになってるのか。危ない薬って何の薬だよ。男と付き合うって全寮制の女子校でどうやるんだか」

「あと、けんかをしてるとか」

「そりゃむこうから仕掛けてくるんだから仕方ないだろ」

「それはホントなんだ」

「……まぁ、だな。あー、んなことよりさぁ」


 ごまかすように振られた話題は、何時も友達と話している時みたいなたわいのないもので……あんなに怖かった懲罰室での一晩が、とても早く過ぎていった。


 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


 からー始まる正義感あふれる優等生と誤解されやすい不良との交流!

 こんなことでもなければ言葉を交わすことのなかった二人!


 お互いに関係ないところで騒ぎを起こして懲罰室に入れられてー、の顔が見えない逢瀬!


 いいねぇ……


 って、違う違う違う。

 妄想に逃げてちゃいけない。

 エリヴィラちゃんがあんなひどい牢屋みたいな場所に入れられてるなんて!


「……ひどいわよね、牢屋にいれるなんて」

「牢屋? まさか、そんなにひどい場所じゃないわよ。まあ、罰だから少しそんな雰囲気になるようにしてるけど」

「えー! ひどい場所よ!! あんなところで過ごすなんて拷問だわ!!」


 リゼットちゃんの言葉に、グローリアちゃんがぶんぶんと高速で首を振る。

 あ、これ狐ドリルってやつか!

 ふと見せる動物的姿、カワイイ!


「だって、絨毯どころか床もないのよ! 土よ土!!」

「絨毯ともかく~、土ってのはね~」

「アタシは好きっすよ。なんか気持ちよそさそう!」

「え~?」


 6つのお耳がピコピコと土の床についてありかなしかの議論をする。


 土の床、土間ってやつ? 昔のお屋敷を見学しよう! って授業で見たことあるな。

 それにレティシアの記憶では、そんな特殊じゃないってか……レティシアの住んでるところは乾燥していたせいか、土間の家も結構あったしなぁ。

 つか、エダが昔住んでた家とか、そうだったし。


 エダを見ると、ちょっと困ったように笑う。

 うん、まあ仕方ないよね。

 つい忘れがちだけどグローリアちゃんたち、貴族のお嬢様もん。


「確かに床は土だけど、あれは悪いことするとここに入れられるんだよー。ってポーズだと思うな。だいたいマリオンの部屋の方が狭くて家具が少ない位だよ?」

「あら、なら安心ね」


 マリオンちゃんの部屋は確かに狭くて家具も少ないけど、必要なものは全部そろってるもんな。


「ええ、マリオンちゃんの部屋アレより狭くて家具がないって! 大丈夫なの? アタシが使ってない家具とかいる!?」

「んーん、平気―。これ以上家具はいらないし、狭いお部屋も素敵だから」

「そう? もし困ったことがあったらこのグローリアお姉ちゃんに言うのよ?」

「うん!」


 あふん。

 ほほえまー。


「そうね、ポーズって言うのは正しいと思うわ。わたしやレティシアちゃんなら快適に過ごせる場所よ」


 ふぅむ。

 高飛車な貴族のお嬢様をちょっとびびらせるための部屋ってことかな?


「食事や着替えについては、個人のメイドを呼んで……あ」

「ええ。エリヴィラちゃんにはメイドはいないわ。どうしましょう」

「そうね……めったに使う場所じゃないからそのあたりいい加減で」


 うむ、この学園の生徒はみんなお行儀がいい、いい子だからからな!


「それじゃあ、アタシらが変わりにやるっすよ」

「うーん、生徒はダメかも」

「じゃあ、エダ」

「はい」


 何も言わなくてもわかっていますとエダが頷く。


「お願いするわ」

「はい。エリヴィラさんは私のお友だちでもありますから」


 うん、エダとエリヴィラちゃんって、ちょっと距離が近いんだよなー。

 お茶の講習会みたいなのやるときにも、エリヴィラちゃんは率先して手伝うし、後片付けまで付き合ってくれるし。

 エリヴィラちゃんもお嬢様の方だけど、感覚が庶民よりなところがあるし、付き合いやすいのかも。


 もし、この学園を卒業する時にエダに「これからはエリヴィラさんについていきたいんです」って言われた時、俺は祝福できるだろうか……。


 あー、あー、あーー。

 うん。


 めっっっっっちゃできるわ。

 うん、二人ともけなげで頑張り屋で、つらいことをいくつも乗り越えてきた。

 そんな二人がこれからは手に手を取って。

 ……いいな。


 でも、ここは二人を引き裂く主人をやったほうが、二人のスパイスになるのでは!?

 しっかり見極める必要があるな。

 とりあえず、百合のためなら悪役にだってなる心づもりはしておこう。


「じゃあ、エダさんよろしくね。あ、夕食を運ぶ時、これも一緒に持って行ってあげて」


 リゼットちゃんがクッキーを何枚かえり分ける。


「小さなものなら見逃してくれるから。でも、咎められたらすぐに私の名前を出してね」

「はい」

「あ、待って待って、それだったお手紙も書けるよね。包み紙にこっそり! エリヴィにお姉ちゃん頑張ってって」


 マリオンちゃんの提案は魅力的だけど、リゼットちゃん的にはどうだろう。


「んー、わたしはちょっと居眠りをしているから。つかれちゃったかしら」

「あら大変! ゆっくり休んで」


 二人でわざとらしく言って、リゼットちゃんは静かに目を伏せる。


「今のうち今のうち」


 ひそひそと言って、私たちはクッキーの包み紙の裏にペンを走らせる。

 小さな紙だからほんの一言しか書けないけど、少しでもエリヴィラちゃんの慰めになりますように!


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― 新着の感想 ―
[良い点] 作者さん、今回の更新もお疲れ様です! レティシアさんの想像力は本当に凄いですw エリヴィラさんを心配ですね。 少女達みんなも良い娘ですね! エダさんがレティシアさんよりエリヴィラさんについ…
[一言] 懲罰室には居なかったりして……
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