いや誤解ですから!
「本当によかったわ」
「どこにも異常はありませんね?」
「心配したのですよ」
リゼットちゃんと同じような、シスター服っぽいのを来た先生たちが寄ってたかって俺を囲んで、目を覗き込んだり手を持ち上げて脈を見たり。
いつもピシッとしている先生方がオロオロ、からの俺をチェックしてアイコンタクトを交わしてほっと表情を緩める流れ!
やー、リゼットちゃんや理事長のおばあちゃん先生とかは、なんかほわっ。としてるけど、ほかの先生たちって『ザマス!』って感じだから。
いや、言わないよ。
言わないし尖った眼鏡もかけてないけどなんかそんな張り詰めたイメージだったのが、不意に緩む瞬間!
かー!
俺こういうギャップものに弱いんだよなぁ。
と、普段なら……
バリバリキャリア志向の百合っプルの久々のオフの過ごし方!
仕事時のようにガッチガチのデートスケジュールを組むが、寝坊からの平謝り、1日パジャマのままでお家デート!
な、妄想を楽しみたいところだが、それどころじゃない!
「離して! 私じゃなくて、エリヴィラさんから手を離して下さい!」
「こっちに来てはダメよ! この子はあなたを呪おうとしていたんですから!」
「そんなわけがないでしょう!!」
たかってくる先生たちをかき分けて、エリヴィラちゃんの手をひねりあげてる先生の手を叩いて離させる。
パシーン!
思ったより力が入っていい音が響いた。
うへぇ、痛そう。
ごめんなさい!
いやだけど、何にもしてないエリヴィラちゃんをいじめるから!
いやでもごめんなさい!
「何があったか知らないけれど、そんな風につかまなくてもいいでしょう!?」
「レティシアさん、落ち着いて」
「ゆっくり彼女から離れてください」
「エリヴィラさん。動かないで! 少しでも動いたら手加減はしませんよ」
「だから、何なんですか!!」
「皆さん落ち着いて!」
リゼットちゃんの凛とした声が響いた。
「エリヴィラさん、ひとまずわたしと手をつないでください」
「は、はい」
「みなさん、このようにエリヴィラさんはわたしが拘束しています」
リゼットちゃんはエリヴィラちゃんとつないだ手をよく見えるように持ち上げる。
「ですから何があったのか聞かせてもらえませんか? こんな強引なやり方では無用な抵抗を生むだけですから」
リゼットちゃん……かっこいい!
あのいつもぽわぽわなリゼットちゃんがこんなきりりと!
俺の心が女の子だったらこのギャップにやられて好きになっちゃうところだぞ!
「……そうですね。レティシアさんが見つからなくて私たちも慌てていました。お話しますから、レティシアさんもう少しこちらに」
「いやです」
俺が離れたとたんにまたエリヴィラちゃんになんかする気じゃないのか?
「レティシアさん、お願いですから!」
「いやです!」
「レティシアちゃん。大丈夫よ、エリヴィラさんは私が見てるから」
レティシア“ちゃん”。
ちゃんづけってことは、教師と生徒じゃなくて、友達としての言葉だ。
それを信じられない、なんて口が裂けても言えない。
「わかったわ“リゼットちゃん”エリヴィラさんをお願いね」
だから俺も友達としてお願いして数歩二人から離れる。
俺とエリヴィラちゃんの間に、壁になるように先生たちが入ってきた。
うーむ。
エリヴィラちゃんへの扱いはムカつくけど、身を挺してレティシアを守ろうとしているのもわかるんだよなぁ。
ひどいことするけど、いい先生ではあるはず。
「本日届いたエリヴィラさんあての荷物の中身が、所持を禁止されている呪術の道具であることが判明しました」
ほえ!?
「そ、それはっ。自分の魔法についてよく知るために。そのための資料を送ってくれるようお願いしていました」
ああ、なるほど。
それで誤解を受けたんだな。
「ストルギィナ家の魔法の資料だから、どうしても呪術関係に寄ってしまうところがあるかもしれませんが……」
「先生! エリヴィラお姉ちゃんへ送ってきた荷物に呪いの道具があったって、呪うの無理だと思います! だってその道具にエリヴィラお姉ちゃんまだ触ってないんだもん!」
「そ、そうよ! 送られてきただけで悪いことになったら、誰かが勝手に送り付けるだけで悪いことになっちゃうじゃないの!」
マリオンちゃんとグローリアちゃんの鋭い追及!
だよな、エリヴィラちゃんはまだ荷物受け取ってないし、送られてきただけなら何かの間違いってことも大いにありえる。
「それはもちろんわかっています」
「そのうえでエリヴィラさんの部屋を確認させてもらいました」
「残念なことに、呪いを行っていた痕跡が見つかったのです」
ええー?
「エリヴィラさん、先生方何かを勘違いしているみたいなんだけどなにか心当たりが?」
あるわけないよなー。
「……その、自己流で研究をしていて……。呪いについても調べてはいたから」
「ああ、それで誤解されてしまったのね。先生、そういうことです。エリヴィラさんが私に呪いをかけるなんてありえないですから!」
はー、わかってしまえばタイミング悪く誤解が誤解を呼んだだけか。
「荷物を返送すれば解決ですよね。エリヴィラさん楽しみにしてた荷物だったのに残念だったわね。あ、大丈夫なものだけでも受け取ることはできるかしら?」
解決! っておもったんだが、先生たちの表情は険しいままだ。
「レティシアさん、事態はそんな簡単なことではないの」
「呪いが行われていたことは、事実なのです」
「私はっ、調べていただけでなにも実行はしてないわ!」
エリヴィラちゃんの言葉を先生たちは信じていない様子。
うぬぬ。
これはあれ、悪魔の証明ってやつだよなー。
やってないことを証明するのはものすごく難しいってアレ。
「呪をかけられた私がエリヴィラさんを信じるのだけではダメなんですか?」
「レティシアさん、呪いは恐ろしいものなのですよ!」
「だけど、私には解呪の魔法がありますし」
あるんだよね?
実感はないんだけど。
「それでも、あなたは呪いで2年も眠ることになったんですよ!」
「それは……」
そうだったわ!
完璧忘れてた!
うーむぅぅぅ。
それを言われると弱い!
けど、エリヴィラちゃんが呪いをかけるとかあるはずがない。
俺には当然のことなんだけど、どうやってこの先生たちを説得すればいいのか。
「とにかく、エリヴィラさんが呪いをかけるなんてありえないんです! 私にはわかるんです!」
「お姉さま……」
「あたしにだってわかるわよ!」
「先生たちが間違ってるんです! マリオンたち、ずっとエリヴィラお姉ちゃんといっしょにいたもん! お姉ちゃんに呪いをかけるとかありえないから!」
「うん、まぁ、ないっすよね」
「ないね~」
みんなも先生たちを説得しようとするが……響いている感じがしない!
なんなの、こんな感動的な場面に眉ひとつも動かなさないとか、その心は鋼なの!?
「わかりました」
黙って話を聞いていたリゼットちゃんが口を開いた。
「エリヴィラさん、しばらく懲罰室に入ってもらえますか?」
「え?」
「リゼットちゃん!?」
「エリヴィラさんの呪いについては、専門家による鑑定をしてもらうべきです。わたしたちは呪いについてはほとんど素人です。本当に呪いをかけていたのか、勉強をしていただけか見てもらえばはっきりします」
お、おおお?
「無実の生徒に処分を下したとなると、リリア魔法学園の評判にかかわりますよ」
「たしかに……」
「そうですが」
「エリヴィラさん、所持禁止の呪いの道具を持ち込んだことによる罰として、懲罰室での謹慎をしてもらいます。……その間に、誤解を解いておきますから」
「はい、ありがとうございます」
うーん、エリヴィラちゃんはなにも悪いことしてないのに懲罰室行とか、まっったく納得できないけど!
リゼットちゃんが言ったからにはそれが一番いいやり方なんだろうなぁ。
ちょっと不便でもここでしっかりと誤解を解いておいた方が、これからのエリヴィラちゃんのことを考えれば……いいのかなー?
「エリヴィラさん、大変だと思うけど……少し我慢して。私も誤解を解くために頑張るから!」
「お姉さま……私、お姉さまが信じてくれただけで……」
「いやだ、疑う必要なんてどこにもないじゃない」
うん、絶対にないもんな。
「私、自分が恥ずかしいです。懲罰室で少し反省してきます」
「え?」
何の話?
「懲罰室なんて、わたしにはへっちゃらです。この言葉嘘じゃないですから、信じてくださいね」
くぅぅぅ!
強がりだってわかってるけど、そんな風に言われたら答えはひとつしかないじゃん!
「ええ、信じるわ」
「はい!」
こうして、エリヴィラちゃんは懲罰室に連れていかれてしまった。
……えーっとえーっと、俺は何をすれば!?
誤解はすぐ解けるだろうから……そうだ、少しでも快適に過ごせるように差し入れの準備だ!!
これは忙しくなってきだぞ!!




