病気はつらいよ
「ど、どうしましょう。大丈夫? 頭痛は? 吐き気はない?」
やばいやばいやばい。
病気はよくない!
つらいからな!!
熱を出した友達のお見舞いに行って、寝込んでいる友達をちょっとエッチだと思ってしまって、いやいやそんなこと考えちゃいけない! いけないんだけど、赤らんだ顔にうっすらと浮いた汗、少し荒い息遣いにドキドキして、こんな時なのにワタシってば!! ダメダメ! から加速する百合な恋心とか素敵ですが、現実にはダメだー!!
何がだめって、さっきも言ったけどつらいから!!
女の子がつらい思いするのはいけない!!
絶対にいけないのだ!
「風邪かしら? 喉は痛くない?」
「いえ、お義姉さま。そんなにひどいわけではなくて、ちょっと熱があるかも~。ってだけなんです」
「ええ。だから、ちょっとだけ」
「お姉ちゃんにお熱を見てもらいたいなぁって」
「ダメよ! 病気を甘く見ちゃダメ」
「きゃん!」
俺はグローリアちゃんの肩をつかむ。
「大げさかもしれないけれど、いつ急変するかなんて専門家でもわからないことがあるのよ!」
「ふぁい……」
「大丈夫と思いたいけれど……もしもがあるもの。脅かすわけじゃないけれど……私も目を覚ましたばかりの時は本当に大変だったの。体を起こすだけでめまいはするし、立つことなんてもちろんできなくて。呼吸すら苦しい時もあったわ」
いや、ほんとーにあん時は辛かったなぁ。
寝てるだけの2年のおかげか体ガッタガタ!!
エダが応援してくれたから頑張れたようなもんだね!
ちょっと良くなるたびに、エダのあのまんまるな目がさらに大きく見開かれて、すっこい嬉しそうな顔するの!
あの笑顔のために頑張れたね!!
その後、このリリア魔法学園に再び通うって目標でブーストもできたけど。
それがあってもつらかったからね!!
めちゃくちゃつらかったからね!!
「あなたたちにあんな思いは絶対にしてほしくないの……そんなの、私もつらいから……」
「お義姉さま……」
グローリアちゃんの顔がくしゃりと泣き顔になる。
「ごめんなさい! 実は仮病なんですぅ!!」
「え?」
「モーリア先生が心配されてるの、うらやましくなっただけなんです!!」
「あら」
「実は私も……なんです」
「マリオンもですぅ。ごめんなさい」
「まぁ」
あわててグローリアちゃんから手を離す。
けっこう強く掴んじゃったけど、痛くなかったかな?
「ファラリスさん、気持ちはわかるけれど大げさすぎたわね」
「そうね、みんなごめんなさい。つい」
「いえ、お姉さまの事情を忘れて、仮病なんか使った私たちが悪いので……」
「うん。ちょっと考えたらダメだってわかるのに」
3人はしょんぼりと肩を落とす。
こんな時ですが!!
いつも元気な子たちの愁いを帯びた表情っていいですね!!
活発な方のグローリアちゃんやマリオンちゃんはもちろん、エリヴィラちゃんもクールなのでこんなに表情豊かにしょんぼりとしているのはレア!
しかも3人並んでショボボボーンとしてるのが、もう……かわいいんですけど!?
「お義姉さま、本当にごめんなさい。もう仮病なんてつかいません!!」
ちょっと涙で潤んだ上目遣い×3。
オッケー! ゆるーす!!
この瞳の前にはすべてが許されるのではないか?
女の子の上目遣いは免罪符!!
それだけで天国に行けます!
俺が!!
「いいのよ。みんなが病気でないなら、それ以上に幸せなことなんてないわ」
「お姉さま……」
「お姉ちゃん……」
「だけど、モーリア先生は」
「え?」
リゼットちゃんはきょとんとこちらを見返してくる。
「ちゃんと保健室に行ってほしいわ。あ、あそこは先生も使えるのかしら?」
「生徒のためのものだけど、教師の相談にも乗ってもらえるから。けどもう大丈夫よ?」
「だめよ。大げさだと思っても軽いうちに治すのが一番なんだから!」
レティシアがリゼットちゃんのお見舞いに行くシチュは惜しいけれど、リゼットちゃんが病気で苦しむのはいやなのである。
「はいはい。ちゃんと見てもらうわね。さて。お手伝いはもう十分だけど、みんなに予定はあるの?」
お、これは何もないならみんなでおしゃべりでもしながらお茶とお菓子でもって流れですね!!
フーゥ! お茶会は毎日でも大歓迎です!!
「あ、私は」
エリヴィラちゃんが申しわけなさそうに言う。
「え? 何かあるの?」
「荷物が届いているか、一応見に行こうかと思って」
「だからー! 受け取れるのはもっと後だって言ったでしょ?」
「聞いたけど、行ってみようかなって」
グローリアちゃんに何度言われても、エリヴィラちゃんは荷物が気になる様子。
こうもソワソワされると俺も気になってくる。
いや、荷物の中身じゃなくて、受け取ったエリヴィラちゃんの反応が気になる!
ぜひともその場に居合わせたい!
「じゃあ、行ってみましょうか」
そう言ったのは、なんとリゼットちゃん。
「わたしの荷物も着ているかもしれないから、見に行ってみましょ。実家からクッキーが届いていると思うから、みんなに分けてあげるわ」
「リゼットちゃんのあのおいしいナッツクッキーね!」
あれは旨い。
大好物です!!
「作りたてはナッツが特にカリカリしていておいしいのよ。時間がたったのは味がなじんておいしいけど。今ならカリカリが楽しめるわ」
「素敵。じゃあエダにお茶入れてもらいましょう。みんなで食べるとおいしいわ! でも、受け取れるのは夕食の後なのよね?」
「いつもそんな感じです!」
グローリアちゃんが頷く。
「でもね、教師は先に受け取れるのよ」
「ええー、先生だけずるいー!」
マリオンちゃんがぷくぅと膨れて握ったこぶしを上下に振る。
あざとい!! わざとらしいほどあざといのにかわいいのが、さすがマリオンちゃん!
「うふふ。先生だもの。悔しかったらルールさんも先生を目指してみたらどうかしら?」
リゼットちゃんのこれ、冗談じゃなくて本気なんだよなぁ。
「うー、でもマリオン成績良くないし」
「これから頑張ればいいのよ!」
「か、考えとく……」
「ぜひ!」
「あの、それで荷物なんですけど、先生と一緒に行ったら私のも受け取れたりしますか?」
「それは贔屓になってしまうからできないけど、仕分けの進み具合を見れば大体いつ受け取れるかわかるわよ」
「……そうですか」
「受け取れなくてもずっとそわそわしてるより、いいかと思ったんだけど」
ふむ。
確かにそうだ。
「それじゃあみんなでモーリア先生の荷物を取りに行きましょ。そのあとみんなでおしゃべりしてたら時間なんてすぐにたってしまうわ」
みんなでおしゃべりしている様子を見ているだけで、俺の時間もマッハで過ぎていく!
そしてそのままの流れでみんなで夕食たべてー、そのままエリヴィラちゃんの荷物を一緒に受け取りに行って、喜ぶ姿を鑑賞する!
うむ。
完璧に幸せな計画ではないか!!
「そうと決まれば行きましょ」
リゼットちゃんが立ち上がり準備室の扉を開ける。
「何か騒がしいわね?」
言われてみれば、何かバタバタと走る押し音が聞こえる。
走る足音!?
この学園の生徒はみんなお嬢様だからめったなことじゃ走ったりしないし、その見本である先生も同じ。
なのに走る足音!?
何事だ?
「何かあったんですか?」
リゼットちゃんが走ってくる先生の一団を捕まえて聞く。
「モーリアせ――ファラリスさん! 無事ね!!」
「はい?」
俺?
「きゃぁ!?」
「確保しました!!」
「え?」
悲鳴に振り向くと、エリヴィラちゃんが先生の一人に腕をつかまれていた。
ただ掴まれてるってわけじゃなくて、結構乱暴にひねりあげられている!?
「エリヴィラさんに何をするの!?」
「何を言ってますの! あなた殺されるところだったのですのよ!」
は? お前がなにいってますのん?




