飛竜便がお届けします!
グッモーニン、レティシア・ファラリスでっす!
福井直人でもありますけどっ!
いやー、女子学園って本当にいいものですね。
こないだなんか、おそろいの手作りストラップをもらってさー、それがグローリアちゃんにラウラちゃんイルマちゃん、エリヴィラちゃんとマリオンちゃんとおそろいなわけですよ!
お揃いで色違いのストラップ!!
あ、ブレスにもなるリボン型で、リボンはグローリアちゃんが編んで、飾りの花はエリヴィラちゃんが作って、トータルデザインはマリオンちゃんとゆー、素敵共同制作物なのですよ!
かー、もう、尊いが具現化したらこれになるんじゃ?って存在ですわ!
普段は鞄の取っ手の所につけてるんだけど、とにかくみんなでおそろいだよ?
かぁー!!
二人っきりで秘密のおそろいとかも萌えますが、仲良しグループでのおそろいとかも大好物です!
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
付き合って一年目の今日、コーヒーショップでお姉様が私にくれたのは、分厚く堅いマット加工された小さな箱。
箱に結ばれたリボンには、銀色でワタシでも知っているブランドのロゴが入っている。
「これって」
「うん、そのブランド憧れだって言ってたでしょ?」
「で、でも、これ高いし」
憧れてるから知ってる。
ここのアクセサリーは一番安いのでウン万円はしてしまう。
「記念日でしょ? 私にもちょっと頑張らせて」
「けど……」
「シンプルなのにしたから、長く使えると思うわ」
「でもでもっ」
「受け取って、ね?」
黒い箱が私の方に寄せられる。
「実はちょっと打算もあってね。もしあなたが私から離れて行っても……あなたはきっとこのブランドのことは好きなままだと思うから」
マットな口紅で完璧な形で彩られた唇が、少し笑う。
「このブランドのものを見たり買ったりしたとき、最初に身に着けたのは私にもらったものだったな。なんて思い出してくれればいいなって」
「離れていったりしませんっ」
「うん。でも、未来はわかんないじゃない?」
「五つぐらいしか変わんないのに、大人のふりしてずるいっ!」
お姉様に差し出された時点で、私に受けとらないなんて選択肢はないんだから。
私はいら立ちを箱にぶつけて、乱暴にリボンをほどく。
こんなのプレゼントされなくったって、このブランドを見るたびにお姉様を思い出すのは当たり前のことなのに!
お姉様の胸元でチラチラと輝くネックレス。
それがあまりに似合っていたから、私はこのブランドを好きになったのだ。
大人の女性の、先輩への憧れが、先輩への好きが、このブランドを好きにした。
包装紙を剥がして、中の箱を開ける。
「これ」
「ごめんね、無難なので」
「………」
箱の中には、私が憧れたネックレス。
お姉様の胸元に揺れるのと同じ……
「学校にはつけていけないだろうけど、私服の時にでもつけて。カジュアルにも合うと思うし」
「……はい」
嬉しくて、でも、こんなに高価なものをさらっと渡せるお姉様に比べて、自分が情けなくなる。
バイト禁止の学校で、私に用意できるものなんて……
「じゃあ、次は私」
「え?」
「持ってきてくれてるんでしょ? プレゼント。さっき見えたわよ」
「や、これはっ! だめ!」
「だーめーじゃーないー」
大きく口の空いた私のトートバックから小さな紙袋が抜き取られる。
不格好なリボンが両面テープで張り付けられた情けないプレゼント。
中から出てきたのは、ビーズで編んだモチーフが付いたヘアゴム。
社会人のお姉様にも使えるようにシックなガラスビーズで作ったけれど、もちろんスワロとかでもないし……
ブランドのネックレスを見た後だと、チョコレートのおまけの子供用アクセにしか見えない。
「無理して付けなくて……」
「わ、もしかして手作り? すごい!」
「ただ編んだだけで」
「じゃあ、もしかして今着けてるそれも手作りよね?」
「あ」
私は耳の上にそっと触れる。
ざらりとした手触りは、残ったビーズで作ったヘアピン。
たしかに同じビーズだけど、おそろいって言っていいのかわからない。
「嬉しい。大事にする」
お姉様が本当に嬉しそうに笑うから、プレゼントの値段を比べてすねていた自分が情けなくなる。
「私も、大事にします」
絶対に大事にする。
◇◆◇◆◇
「おはようございます」
「おはよう」
「あれ?」
いつもバリバリ仕事をしてカッコイイ先輩の髪に、リボン型のビーズがついていた。
身に着けるものは全部、品があってセンスがいいのに子供向けの雑貨屋で売っているものみたいでいかにも安っぽくて似合わない。
「先輩、その髪留め」
「ああ、これ? いいでしょ?」
そう言って笑う先輩の顔は、なんだかすごく幼くて……髪留めがとても似合って見えた。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
てねー、てねー!!
お姉様もオトナ!! って思われてるのをわかってて、ちょっと無理してわざと大人ぶってるんだけど、実は精神年齢とかはあんま変わんなくて!!
五歳差とか、学生で考えるとすっごいでかいけど、ある程度の年齢に行くと誤差みたいになるじゃん!
95歳と100歳とか誤差じゃん!!
いや、100って切りのいいとこ行くと誤差感薄れるな。
まあ、とにかくおそろいは正義!!
みんな気に入ってるみたいで、鞄持つときは必ず表に来るようにしてるし、机に横にかけた鞄見てにこにこしたりして、かーわいーい!
おそろいの宝物、イイ!
エリヴィラちゃんも、時間があればちょっと体を斜めにして鞄を見めみたいで、そのたびに真っすぐな髪がさらさらと涼しげな音を……
おや? そういや今日はその音聞いてないな。
ちらりと隣の席を見ると、エリヴィラちゃんはちょっと難しそうな顔をしている。
そんで時々、チラチラと窓の外に視線を向ける。
外に何かあるのかなーっと見ても、青空とこの葉の緑がチラチラ強いるだけだ。
「エリヴィラさん、何か心配事でも?」
授業が終わって、次の授業の準備のための休み時間に聞いてみる。
「あ、いえ、飛竜便がこないかな、っと思って」
「飛竜便ね」
飛竜便とは!
つまりはこっちの郵便みたいなもの。
手軽で安くて庶民の味方!
転送魔法はめっちゃ早いけどちょっとお高い。
速達か宅配便。
そんなイメージのアレである。
「誰かからお手紙でも来るのかしら?」
なになに? 幼馴染の女の子とかだったら紹介してほしいんですけど!
そしてお互いの昔を暴露してキャー、もー! とかっ。
「おじさまにお願いしたものがそろそろ届くとはずなんで」
「おじさま、そう」
スン。
である。
「エリヴィラさんのおじさまってことは、ゴーレム術の方ね」
つまりおそらくハゲの人。
「はい。もっと呪い……じゃなくて! ゴーレム術について詳しく知るための資料をお願いしていて。それがそろそろ到着する予定だから」
「まぁ。勉強熱心なのね!」
「いえ、その、私の魔法は特殊だし」
「そうね、わかるわ。私も特殊仲間だもの」
あぶれ組だもんねー。
「そ、そうでしたね……」
エリヴィラちゃんは少し歯切れ悪い。
飛竜便のことが頭から離れないらしい。
エリヴィラちゃんのためにも早く着てほしいな――
「あ!」
窓の外の空に小さな点が見えて、それがみるみる大きくなりレンガ色の飛竜の姿になる。
おおお、来た来た飛竜便だよ!!
「来た来た、来たわよエリヴィラさん。放課後には受け取れそうね!」
「はい……」
待っていた荷物が届いたはずなのに……エリヴィラちゃんの表情は明るくなることがなかった。
なんで?