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●抜け駆け!

 んで、結局。

 収集なんかつかなかったす。


 レティシアさんがエダさんにしこたま怒られて、アタシたちはどうしていいかわからずにすごすごと退散。


 けど、自分の部屋に帰る気にもなれず、寮の中庭のベンチにぐったりと座り込んでいた。

 いやー、なんかわかんないすけど、どっと疲れてるんすよ!


「はぁぁぁ。お義姉さま。予想をはるかに超えるピュアさだったわ」


 すんごく重たいため息とともに、グローリアさんが吐き出す。


「ええ。すごく大人かと思ったら、子供っぽいところもあってその二面性が素敵だと思うけど」

「あそこまで無邪気になられると……なんだかマリオンたちが汚れているような気になりますぅ」


「みんなレティシアさんのピュアさにやられてるね~」

「すね」


 まだ、アタシとラウラはましなんすけど、3人はめっちゃやられてますね。

 いろんな意味で。


「お義姉さまにしっぽはなかったけれど、かえってそれでよかったかもしれないわ。もしもしっぽがあったら他の人たちにも見せていたっ可能性がっ!」

「まさかそれはないでしょ? たぶん、きっと……ああっ、でもゴーレムでしっぽを作って渡したらっ」


 フォローするエリヴィラさんも、話しながらだんだん不安になってきてるっすね。


「きっと見せます。さらにテイルリボンをプレゼントしたら絶対に根元もみんなに見せたにちがいないです!」

「そうなのよ!!」


 マリオンさんの力強い言葉に、グローリアさんが深く頷く。


「だから、しっぽがなくてテイルリボンをプレゼントできなかったのはよかったと思うけど……プレゼントできないのは悔しい!! 刺繍は苦手だけど、リボンを編むのは結構得意なのに!!」

「テイルリボンはしっぽがなくて使えないけれど、リボンをプレゼントするのはいいんじゃない?」

「へ?」

「うんうん。リボンはしっぽだけじゃなくて、他にも使えるものだもん」

「でも、髪のリボンは変えてほしくないのよ。だって、すっごく似合っているもの!」

「ええ、それは同感」

「とっってもお似合いですよね!!」


 3人そろってうんうんと頷く。

 気が合うっすねぇ。


「他にリボンを使うもの、ね」

「あのぅ、ブレスレットなんかどうかな? テイルリボンとそんなにデザインを変えずに作れるんじゃないかなーって」


 マリオンさんが腕を延ばすと、その手首にふわっとリボンが現れた。


「こんな感じで、袖に隠れるから先生にも見つからないだろうし」

「見つかりそうなときには、鞄につけてもかわいいかもね」

「エリヴィラお姉ちゃん、そのアイデア素敵です!」

「うんうん。そうね! テイルリボンより少し長く作るだけでできそう! あのね、これがもうちょっと細くてざっくりとしたリボンで」

「こうですか?」


 マリオンさんの腕のリボンがしゅるっと細くなる。

 何度見てもすごいっす。


「で、真ん中に宝石のチャームをつけるんだけど」


 グローリアさんが言ったとおりに、リボンの真ん中にキラキラの宝石チャームが現れる。


「でも宝石はダメかもです。 高価なプレゼントはトラブルの元って、見つかったら没収されちゃうかも」

「でもっ! お義姉さまには素敵なものを身に着けてほしいの!!」

「わかります!!」

「高価じゃなくて素敵なものとしたら」


 エリヴィラさんが鞄の中から箱を取り出す。

 箱の中は、粘土っすね。


 エリヴィラさんはほんの少しの白い粘土を手に取って、こねて細い金属の棒でつついたり延ばしたりいると……

 粘土がみるみるかわいい花の形になっていく。

 透けるぐらい薄い花びらが重なって、むちゃくちゃキレイっす。


「これ、特に丈夫なゴーレムを作るときの粘土だから、乾くと石みたいに固くなるし他の色も作れるわ。使う粘土も少しだし手はかかっているかもしれないけど、高価ではないでしょ」

「すごいです!! えーと、こんな感じですか?」


 マリオンさんの腕のリボン、宝石の所が小さな花になる。


「きゃー! すっごくかわいいじゃない! エリヴィラさんもっと作って! いろんな色で! お姉さまに似合う組み合わせを作るから!!」

「もちろん! 今のは練習よ。たくさん作らせてお姉さまには一番きれいなのを使ってほしいもの。うーん、マリオンさんそれもう少し花を大きくしてみて、バランスを見たいの」

「はい!」

「あ、色も、色も変えてみて!!」

「はいっ!」


 グローリアさんたちは3人で大盛り上がりだ。

 アタシたちはいつも通りちょっと離れたところで見守っておく。

 別に寂しくはないっすよ?


「う~ん、グローリアさんが楽しそうで~、私たちは楽でいいね~」

「いっすねー」


 アタシにはラウラがいてくれるっすからね!




 そして、1週間後。

 テイルリボンならぬ、リボンのブレスレットがようやく出来上がった。


「お義姉さま! これ、みんなで作ったんです。受け取ってください!!」

「あら?」


 グローリアさんが差し出したリボンを受け取ったレティシアさんの目が、大きく見開かれる。


「え? まぁ、キレイ。作ったの?」

「ええ、グローリアさんが刺繍糸でリボンを作ったの」

「そのお花はエリヴィラお姉ちゃんが作ったんですよ!」

「で、マリオンちゃんはデザインの協力をしてくれたんですよ!」

「まぁ、まぁ。素敵。大事にしまっておきたいぐらい」

「使ってくれなきゃダメです! おそろいなんですから!」


 グローリアさんが腕を見せると、色違いのおそろいのリボンがつけられていた。


「まぁ、それじゃあつけないと! うふふ。いいわね。手作りのおそろいだなんて」

「ふへへ。あ、エリヴィラさんにはこれよ! 色はアタシが選んだけど、文句言わないでよね!」

「え? いいの?」

「二人だけのおそろいも憧れるけどっ! 協力してもらったのになにもお礼をしないほど恥知らずじゃないから!」

「そう。ありがと」


 お、エリヴィラさんちょっと赤くなってるっすね。

 うーん、友情! いいっすねぇ。


「イルマとラウラにはこれ。こっちがラウラで、こっちがイルマね」

「え~私たちにもくれるの~?」

「いいんすか?」

「いいに決まってるでしょ! まあ、練習で作ったのだから少し荒いけど!」


 うへへ。

 おそろっすよ、おそろ!


「見せてー! えっと、マリオンはこう、かな?」


 うにうにとマリオンさんの手首が動いて、リボンになる。


「はぁ!? マリオンちゃん何勝手に作ってるのよ!!」


 グローリアさんがビシッとリボンを作っていたマリオンちゃんの腕をはたく。


「ご、ごめんなさい……」

「せっかく作ったんだから、これをつけなさいよ!」


 ちょっと乱暴に、グローリアさんはマリオンさんの腕にリボンを巻き付ける。

 髪の色とよく似たピンクと白のグラデーションのリボンに、赤い花がマリオンさんって感じです!


「作って……マリオンはスライムだから、自分で何でも作れるのに」

「そうかもしれないけど、それとこれとは別じゃないの」

「ええ、ぜんぜん別の話だわ」

「でも……マリオンはスライムだから」

「だから何よ? 言ってる意味が分かんないんだけど?」

「………」


 マリオンさんは、黙ってうつむいてしまう。

 うえ、泣きそう? 泣く? 泣くんすか?


「マリオンちゃん。よかったわね」

「……はい!」


 あ、泣いてないっすね。

 よかったー。

 泣かれるの苦手なんすよ。

 得意な人もいないと思うっすけど。


「うふふ。おそろい、うれしいわ。リゼ……モーリア先生とエダともおそろいしたいわ。あ、モーリア先生とはもうおそろいがあったわね」


「おそろい!?」

「これの他に!?」

「モーリア先生と!?」


 ギュンって、音がしそうな速さで3人がレティシアさんに向き直る。


「そんなっ、すでに抜け駆けされていたなんて……」

「あ、そう! スカーフ! モーリア先生とレティシアお姉さまは学年が同じだから、同じ白のスカーフよね!」

「そっかぁ。それならおそろいだね」


「ああ、それもおそろいね。けどね、ふふふ」


 レティシアさんは胸元に手を延ばし、ブラウスのボタンとボタンの間を広げて見せる。

 あ、今見えましたね、ちらっと!


「下着がね、色違いのおそろいなのよ。」


「!」

「!!」

「―!」


 3人が声にならない悲鳴を上げる。


「おおお、お義姉さまー!!」

「もう、おそろいはダメ!」

「禁止です!!」

「え? え? どうして? どうかしたの?」


 レティシアさんがおろおろしてるけど、これは仕方ないっすね!

 レティシアさんが悪いっすよ!


「平和だね~」

「そっすね」


 アタシとラウラは自然に見えるように、じりじりと距離を取る。

 平和が一番。

 巻き込まれるのはごめんっす。


「後~、グローリアさんが楽しそうでいいね~」

「まったくっす」


 みんな幸せそうで平和な、いつもどおりの日々。

 これがずっと続くといいすねぇ。


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― 新着の感想 ―
[一言] 他人視点ならほんわかなんだがこれ主人公視点だとカオス極まりない事になるやろな
[一言] 平和っていいねぇ~
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