●ブレイク・レティシアさんの部屋へ
特に何でもないある日のヒロインズの様子です。
「いやいやいや、冷静に考えてっすね、レティシアさんにしっぽがあるわけないじゃないすか」
「そんなことどうしてわかるのよ!? 見たことないんだからあるかもしれないじゃない」
いや、わかるっすよ。
つか、グローリアさん、どうしたらそんな疑問持てるんすか?
「確認するまで断言はできないわ!」
グローリアさんは振り向きもせずに速足でレティシアさんの部屋に向かっている。
「私もお姉さまにしっぽがあるとは思えないのだけど」
でーすーよーねー?
よかった。
エリヴィラさんも同意見だ。
いや、しっぽがあるわけないってわかってるんすよ?
わかってるんすけど、あんまり自信満々に言われると『あれ? アタシが間違ってるんすか?』って感じになるじゃないっすか。
「お姉さまにはあなたたちみたいな耳はないじゃない。小さな人間の耳よ?」
すよねー。
「私とおそろいの」
っと、エリヴィラさん軽ぅくマウント取ってきたっすね。
「……まだわからないわ!! 耳に特徴が出ない一族もいるし」
「それって~、大体別の所に特徴出るよね~」
「あと、先祖に尾持ちがいる場合にもあるでしょ! 尾とか耳とか片っぽだけ出ちゃうことが」
「ん~、でもそれすっごく少ないでしょ~」
昔は人間と尾持ちは仲悪かったすからね。
その子供とかになると偏見とかもあったみたいだし。
「そうよ。だからお義姉さまが先祖返りとかでしっぽがあったら、スキャンダルなわけ! だからお兄様と婚約させられた可能性があるわ! 尾持ちと結婚してしっぽのある子供が生まれてもおかしくないし! はわわ~。お義姉さまの娘ちゃまってことはあたしの姪ちゃまになるのね! 絶対にかわいいわ。世界一かわいいわ。お兄様と結婚とか許さないけど!! お義姉さまはあたしのお義姉さまなんだから!!」
……すっごい長台詞っすね。
「たしかに、魔王が討伐されるまでは偏見も多かった。今でも異種族の結婚は珍しい。グローリアさんのお家とお姉さまのお家では言っては何だけど格に差があるし……ありえない話じゃない?」
「お姉ちゃん……人知れず苦労してきたのかも」
あ、エリヴィラさんとマリオンさんがのまれてる。
グローリアさんなんかこーゆーとこあるんすよねぇ。
「しっぽがあるのは素敵なことなのに、偏見で隠さないといけないなんてありえないわ!! あたしはテイルリボンをプレゼントすることで、お義姉さまを解放してあげたいの!」
「グローリアさん……っ」
「グローリアお姉ちゃん、カッコイイ」
人をのせるのがうまいって言うか。
これがカリスマ性……なんすかね? わかんないすけど。
「別にレティシアさんにしっぽがあると決まったわけじゃないんすよ?」
「だからそれを確かめに行くんじゃない!!」
グローリアさんが足を速める。
どんなに急いでも走ったりしないところが、オジョウサマっすねぇ。
「たーのーもー!」
いや、人の部屋をそんな掛け声でノックするのはオジョウサマからは遠いっすね。
確かそれ、三人でこっそり行った大衆演劇のあれっすよね。
「な~つかし~」
「あ、ラウラも覚えてるっすか?」
「そりゃ~ね~」
顔を見合わせて笑ってしまう。
あの頃、グローリアさんと普通の友だちみたいに遊べるのは今だけなんだろうな。って、アタシもラウラもなんとなく思ってた。
それが、この学園に来ることになって、今もこうして一緒にいるなんて……感慨深いっすねぇ。
「はぁーい」
扉が開いて、エダさんが顔を出す。
「あら、みなさんお揃いで。レティシア様はまだ戻られていないのですが」
そう言えば、モーリア先生のお手伝いしてるんでした。
「あ、そうだったわね。しかたがないわ。出直すわね」
「いえ、ほかならぬグローリア様をお返しするわけには。どうぞ中に入ってお待ちください」
「でも、忙しいんじゃない? 」
「まさか! 歓迎いたします」
「そう? ありがとう」
うーへ。
マナーらしいすけど、とりあえず二回断らないといけない儀式とか、意味がわかんないすね。
「皆さんもどうぞ」
エダさんに促されてレティシアさんの部屋へ。
「おじゃまするっす」
「失礼しま~す」
かすかに紅茶のいい匂いが鼻をくすぐる。
あー、前に来た時も思ったけど、この部屋落ち着くっす。
あんまり広くない部屋にぎっちり家具が押し込まれて物もいっぱいで。
でも、きっちり整理されている感じが、なんかおばあちゃんのいる別荘みたいな?
アタシやラウラの部屋はもっと狭いんすけど、大体グローリアさんの部屋に入り浸ってるんで、この狭さがなんか新鮮なんすよね。
それでいて、無茶苦茶居心地がいいのがまた。
「お邪魔します」
「ます」
エリヴィラさんがぺこりと頭を下げ、マリオンさんも同じようにお辞儀。
「え、あ、レティシア……様?」
あ!? そう言えばエダさん、ミニレティシアさんのマリオンさんとは初対面っすね!?
「ああっと、エダさんこの子はっ」
「マリオンさん、ですよね?」
「あ、知ってたっすか?」
「ええ、レティシア様にうかがっております」
ふえー。
よかったー。
友好的で。
優しいエダさんにかぎってとは思いますけど、『お嬢様の姿を盗むとは何事ですか!!』って可能性もなきにしもあらずっすから。
グローリアさんだったらありえる展開すっよ。
「それにしても、伺っていた通りに愛らしいです! ちょうど私がレティシア様のメイドになったころのお姿です」
「じゃあ、あのっ、マリオンは大丈夫ですか!?」
「はい?」
「マリオンはちゃんとお姉ちゃんの姿、できてますか? マリオンはこのくらいの時のお姉ちゃん、見たことないから」
マリオンさんは不安そうにエダさんを見る。
エダさんはちょっと驚いた様子で、マリオンさんをじっくり眺めて……
「ええ、あの頃のレティシア様によく似てますよ」
「髪以外で違うところあったら教えてほしいです! マリオンは完璧なお姉ちゃんになりたいですから!!」
「そのままで大丈夫ですよ」
「ちょっとでも違うところがあったら教えてください!! 本人より見ていたエダさんのほうがはっきり覚えてると思うんで!」
勉強熱心というか、向上心があるというか。
必死すぎてちょっと怖いっす。
「うーん。確かにちょっと違うんですけど」
「どこですか!?」
「秘密です」
「え!?」
「へ?」
「え~?」
「どうして!?」
「教えてくれないんですか?」
意外な言葉に、マリオンさんだけでなくアタシたち全員でエダさんに詰め寄ってしまう。
「ええ、秘密です。あの頃のレティシア様の姿は私の思い出の中にしまっておきます」
「そんなぁ!」
「いいじゃないですか。マリオンさんたちはレティシアさんと一緒にお勉強できてるんですから。あの頃の思い出は私だけのものにさせていただきます」
「ふぇぇ。ずるいですよぉ」
「ええ、私ずるいんです」
唇に指を寄せて小さく笑うエダさんは、年下のはずなのになんか大人の余裕すらも感じさせられるっす。
アタシらとは人生経験の厚みが違うっすね!!
「ぐぎぎ。ぬけがけはあたしがするつもりだったのに……。すでに抜け駆けされてるだなんて!」
グローリアさん。
アタシたちもエダさんを見習って、大人の余裕を身に着けるべきじゃないすかね?
どうせできそうもないんで言わないっすけど。




