●ブレイク・アクセサリー
「抜け駆けしたい!」
とある日の放課後。
グローリアさんが突然言い出した。
やけに真剣な顔してるなー。
静かでいいんすけど。
って思ってたんすけどそんなこと考えてたんすか。
あ、アタシはグローリアさんのお目付け役、長距離が得意な方のイルマです。
レティシアさんはホームルームが終わるとすぐにモーリア先生のお手伝いに行っちゃいました。
ここの所、マリオンさんの擬態の練習でずっと一緒にいたのでなんかちょっと寂しいっすね。
「抜けがけってな~に~?」
机に突っ伏していたラウラが、ちょっと寝ぼけたままで顔を上げる。
「抜け駆けってのは、えーっと、ほらみんなより早く、テヤー! ってする感じのアレよ!!」
いや、そゆーこと聞いてるんじゃないと思うっす。
「そ~ゆ~こと聞いてるんじゃなくて~」
そっすよね。
「ど~して突然そんなこと言い出すのかな~って」
そっちっすか。
「だってっ。だって!! あたしのお義姉さまなのに! お姉さまとか、お姉ちゃんとか!! それだけならガマンするけどなんか他の人まで『レティシアお姉さま』とか呼ぶようになってるんだもん!!」
「あー、確かにそんな流れになってきてるっすよね」
「あたしのお義姉さまなのに!!」
「な~ら~、お姉さま呼びをやめろ~って、言ったらいいんじゃない~? ほとんどの子が止めると思うけど~?」
ラウラの言う通り。
グローリアさんは家柄がかなりいいから、彼女が一言やめろって言えばほとんどの子がお姉さま呼びをやめるはず。
「え? それは……あたしが強制することじゃないし。いやだなーって思うのはあたしの勝手だし」
しおしおと耳が寝る。
うん、グローリアさん高飛車ぶってるところもあるけど、基本的にいい子なんすよね。
だからアタシたちも仲良くできるんすけど。
「と言うわけで、抜け駆けのなのよ! 相手を蹴落とすんじゃなくて、あたしが先に行くの!!」
「はー、なるほど!」
グローリアさんらしい前向きな行動すね!!
「で、何するんすか?」
「………」
「考えてないの~?」
「考えてるわよ!! えーっと、そうね、やっぱり手作りのプレゼントがセオリーじゃないかしら?」
まぁ、そうっすね。
「で、何をプレゼントするんすか? クッキーとかは競争率高いっすよ」
食べ物系は勘弁してほしい!
グローリアさん大して上手じゃないし、試作品をめっちゃ食べされられるっすからね!!
「そうそう~。料理上手な子がしょっちゅう持ってきてるし~?」
イルマも同じことを考えたみたいすっね。
ナイスアシスト!
「うーん、なら、アクセサリーとかかしら? いい……。あたしがプレゼントしたアクセサリーをお姉さまが着けてくれてるって考えるだけで……ふふふふふふ」
怖……っ。
「アクセサリー? 高価なプレゼントはトラブルの元になるから禁止されてるわよ」
おっふ!
緩んだ顔で笑うグローリアさんに声をかけたのは、抜け駆けしたいところのエリヴィラさん。
その後ろからは、ちょこん。って感じでマリオンさんも顔を出している。
「それに、あまり目立つアクセサリーも原則禁止されているし」
まぁ、原則でめっちゃつけてる子もいますけどね。
うちのクラスのドラゴンの子とか。
まぁ、あれは魔法補助具ってことになってるみたいだけど、半分ぐらいはフツーのアクセじゃないかなー?
「わ、わかってるわよ。高いのじゃなくて手作りで気持ちを込めるの!! それに見えないところにつけるアクセサリーもあるじゃない!」
「ネックレスを服の下につけるとか?」
「それか、テイルリボンなんかいいわよね!!」
いや、それは……。
「テイルリボン?」
「それって何ですかぁ?」
ほら二人ともきょとん顔ですよ。
「テイルリボンよ。知らないの? 刺繍糸を組み合わせてリボンを編んで、チャームをあしらってしっぽの根元につけるのよ。かわいいんだから」
「それ、すっごくかわいいと思うけど、お姉ちゃんへのプレゼントには向かないんじゃないかな?」
「なんでよ!?」
「お姉ちゃん、しっぽないと思うの」
「あ……」
いや、気づきましょうよー?
「あっ、あるかも知れないじゃない!! 確認したの!? 体操服の時でも、ちっちゃめのしっぽなら隠れるじゃない!!」
グローリアさん、それ逆切れって言うんすよ。
「は!? そこまで確認はしてないです!?」
「ほら! お義姉さまにしっぽがある可能性は否定できないってことよ!」
「そ、その通りなの!」
「それはないと思うな~」
「アタシもそう思うっす」
「私も確認はしていないけれど、たぶんないと思うわ」
ラウラとエリヴィラさんも同意見でちょっと安心。
「それにしてもやっぱり独自のアクセサリーがあるのね。テイルリボンてすごくかわいくて……その……ん」
エリヴィラさんがちょっと口ごもって赤くなる。
「わかる~」
「言いたいことわかるっすよ」
「え?」
ラウラが顔を寄せてひそひそ話のジェスチャーをする。
「ちょっと~、エッチだよね~」
「ん……やっぱり、そうよね?」
「まー、ただかわいいだけで着けるのはやったんすけど」
「しっぽの根元まで見せるシチュって~、ね~?」
そんな状況にならないと見せれない場所のアクセすっからねぇ。
「でも、素敵かも。秘密のアクセサリーって」
「ちょっと憧れる所はあるっすね」
「ま~、ね~」
三人顔を寄せ合って、なんかもじもじしてしまう。
やー、なんか恥ずかしいっすね、これっ!
「こうなったら、確かめに行くしかないわ!!」
「しかないですぅ!!」
グローリアさんが突然立ち上がる。
マリオンさんを従えて……
「な、何を確かめに行くんすか?」
やーなーよーかーんー!
「お義姉さまにしっぽがないかを確かめによ!! 当たり前でしょ!!」
「……当たり前じゃ~」
「ないっすよ?」




