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●優しい人

 放課後になって、半ば強引に擬態の練習につき合わされる。


 正直な所、少し面倒くさくもあるがレティシアさんを近くで見てられる時間が増えるのはいい。

 彼女のかわいさを見て分析するのは私にとって大切なことだ。


「まず、マリオンちゃんはどんな姿が欲しいの?」


「えっと、特にどんなとは考えたことがなくて普通にかわいければいいかなぁ、って」


 どんな姿と言われても、それが決まっていればもう私の姿は定まっているだろう。

 わからないから面倒くさいのだが……ひとまず無難に答えておく。


「普通にかわいいね。なるほど」


 レティシアさんはしばし考え込み、


「じゃあ、こんなのはどうかしら?」


 と、怒涛のように話し始めた。

 身長、体重、スリーサイズ、足のサイズ、腰の位置などの体系のバランス。

 顔立ちや肌や髪、瞳の色は特に細かく。

 髪型やアクセサリーまで


 早口になって聞き取りづらい所もあったけれど、ワタシはそれに聞き入った。

 みんなが話しているのを黙ってにこにこと眺めているような、物静かでおっとりとした人が……こんなに必死に話しをしてくれる。


 その行為が嬉しく、また伝えられる数値の嫌味のないかわいさに驚いた。


 普通よりも少しだけ理想に近く、飛び抜けて美しいわけではないので反感ももたれにくいスタイル。

 特に詳しかった顔立ちも、少し隙を残した完ぺきではないかわいらしさ。


 この姿を考えるのに、どれだけ時間がかかるだろうか!

 きっと、午後の授業中、ずっとこのことを考えていてくれたのだ。


 そうでなければ、これほどまでに詳細に姿を伝えられるわけがない。


 ……ワタシのためにそこまで。


 ゴーレムから助けてもらった時には、ワタシがスライムだと気づいてなかったから。


 それに気づいた時には、やはりと納得したけど少し寂しかった。

 スライムを助ける人なんていない。


 ワタシだって、スライムが物理攻撃を受けようとしているのを助けるなんて絶対しない。

 あたりまえのことだけど……


 助けてもらったのは……嬉しかったのだ。

 なんて馬鹿なことをと思う反面、とても嬉しかったのだ。

 それが、間違いでも。


 けれど、もしかしたらこの人は……ワタシがスライムだと気づいていても助けてくれたかもしれない。

 そう思わせるほど、真剣に……。


「えっと、えっと……こんな感じでしょうか?」


 数値をもとに、違和感が少ない様補正しながら姿を作る。

 なかなかいい出来たと思うのだが、


「うう~ん?」


 レティシアさんは眉を寄せてうなると、あちこち細かくいじり始めた。


 こうなるとどうなるか、スライムならよく知っている。

 みんな自分の姿を作ろうと理想を突き詰めてた結果……細部にこだわりすぎるため全体で見ると不気味な物体になってしまうことを。


 知っていたけど、教えない。

 一生懸命に補正するレティシアさんに、余計なことは言いたくなかった。

 なんてのは言い訳。


 本当はこの姿が失敗してほしかったから。


 失敗すれば、この時間がずっと続く……


「ええっと、もう少し腕は長くして」

「はい」


 腕を長くしながら、少しだけ首を細くする。


「足はね、こう……」


 こっそりと膝の位置を上げる。


 確実に失敗をするように、ちょっとずついじる。

 結果、かなりのクリーチャーが出来上がった。


「ひゃっ」


 ほんの少し不気味になるようにいじったとはいえ、作った本人が悲鳴を上げる出来だ。

 ……この姿はよく記憶しておこう。

 何かの時に使えるかもしれないし。


「ごめんなさい。いろいろやってくれたのに」

「あの、そんなものなんですっ。ワタシたちも自分の姿を作ろうと頑張れば頑張るほどわからなくなって、擬態ができなくなったスライムもいると聞きます」


 謝られて気まずくて、つい余計なことを言ってしまう。


「ええっ。それって大変じゃない!?」

「いえ、たぶんですけど、あんまり擬態にのめり込まないようにって注意かなーって」

「のめり込むものなの?」

「な、なんにでもなれるって、楽しいですから」

「わかる。絶対楽しいわよね」


 ぐぐっとこぶしを握り締め、レティシアさんが頷く。


 力強い言い方にはなぜか実感がこもっている。

 定型の人には分かるはずもないことなのに……それだけ親身になってくれているということか。

 スライムにまで親身になってくれる。


 そのやさしさに圧倒される。


「あ、そうだ。平均的な姿になる。ってのはできる?」

「平均ですか?」

「そう、クラスの子たちでもいいし、覚えている人たちでもいいからなるべくたくさんの平均になってみるの」


 だからこういわれた時、彼女が言うのは人間の女の子たちだけと言うのがわかっていながら魔物たちの特徴も混ぜた。

 平均いうていを取りながらも、彼女が望んでいるだろう姿とは別のものを作る。


「ごめんなさぃ。がんばってみたんですけど、平均のつもりが偏っちゃったかもしれないです」

「あ、そうよね、突然平均って言われても困るわよね」


 狙い通りにこの姿も失敗となった。


「今日はこのくらいにしましょう。やりすぎると擬態できなくなることもあるんでしょ?」


 親切な言葉に、少し心が痛む。


「それは、ただ大人が言ってるだけですし! せっかく皆さんが協力してくれているのに、何もできなくて……」

「まだ一日目よ。最初からうまくいくなんてないわ。明日も頑張りましょ」

「あ、明日もっ、いいんですか!」

「当然よ。ね?」


 ふわりとレティシアさんがほほ笑む。

 ワタシの姿を作る手伝いをしたって、彼女には何の得もないのに。


 その代わりに……なんて交換条件もなく、何の打算もなく人のために行動できる。

 お人よしで親切な、とてもいい人。


 彼女はかわいい。

 とてもかわいい。


 きっと、その心の優しさがにじみ出してかわいいと感じさせらるのだ。

 

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