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●ワタシの欲しいモノ

 と、思ったのだが……今、ワタシはレティシアさんたちと昼食を取っている。


 しかも姿を借りているエリヴィラさんの隣で。

 ……正直、居心地が悪い。


 エリヴィラさんが髪を下ろすようになったのは最近なので、つい前のおさげにしている時の姿を擬態したのだが……

 こうして並ばされると、きちんと今の状態を擬態できていないことが恥ずかしくなってしまう。

 今から髪を下ろしてもいいけれど、そのタイミングがつかめない。


「でも、姿を借りているのに……」

「私は気にしないわ」


 エリヴィラさんが言うが……こんな不完全な擬態を気にしないなんて信じられない。


「そ、そうですか、みんな嫌がるんですけど」

「まぁ、それは仕方ないんじゃないの?」

「そっすよね」

「うん~」


 尾を持つ一族たちが頷きあう。


 そんなことはわかっているけれど、仕方がない。

 そっくりに擬態するのは嫌がられるが、一部を変えてもトラブルの元なのだ。


 今の擬態も、ちゃんとそっくりにしたい。

 ただでさえ注目を浴びているのに!!


 レティシアさんは目立つ存在なので、こうして昼食の席に呼ばれたワタシはクラス中の視線を集めている。

 あからさまにチラチラと見られて……本当はちゃんとそっくりに擬態できるって叫びたいぐらいだ。


 けれど、レティシアさんはどうしてこうも一目置かれているんだろうか?

 三つも年上で、第一期生の白いリボンをつけている以外は、外見がとりわけて優れているわけではない。


 もちろん美人な方ではあるけど、そんなに秀でた美人と言うわけではない……はず。

 学園の中では上位には入るけれど……とにかく外見の美しさでは飛び抜けたエルフ族や、華やかな者も多い亜人と混じると人間であるだけで地味な印象。


 なのに目を引く。


 理由が外見でないのなら、優雅な行動かと思ったがこれも当てはまらない。

 優雅どころか都会の出ではないせいか、粗野とも思えるような大胆な動きをする。


 いつか社交界に出るような娘たちは、静々と滑るように歩くべしと躾けられる。

 なのに彼女は颯爽と、または嬉し気に跳ねるように髪を揺らして歩くのだ。

 それでいて、なぜかかわいらしい。


 食事だって、淑女は小鳥のように小食であるべしとされている。

 もちろん、見られていないところでしっかり食べるけれど、女の子しかいない教室でもたくさん食べるのは少しみっともないこととされてきた。


 料理は少な目に取り、少し食べ残すのが良い。

 と、されていたのに、レティシアさんはたっぷり取ってきれいに食べきる。

 時にはおかわりだってする。


 おかわりなんて、彼女が復学してくるまでは絶対にありえないことだったのに。

 納豆が美容にいいと彼女に教えられたことになってそれが許された。

 美しくあることは、人の貴族階級にある娘の義務のようなものだ。

 だから、美容に良いを言い訳におかわりが許された。


 そこからはなし崩し。

 みんな部屋に帰ってこっそり食べるのをやめて、教室でできたてを食べるようになった。

 その方がおいしいのは、人間に擬態して食べればわかる。


 食事に関して、レティシアさんが革命を起こしたのは食べる量だけじゃない。

 食べることを楽しむこともタブーとされていた。

 淑女が好んでいいのは、甘いお茶やきれいなお菓子や果物だけ。

 偏見に満ちた押し付けだが、彼女たちはそれを受け入れるしかなかった。


 なのにレティシアさんは!

 ニコニコと楽しそうにおいしそうに食べるのだ。

 今も何も入ってないパイを、これ以上の美味はないとでもいうように微笑みながら黙々と食べている。


 そんなにおいしいのかと、ワタシもそのまま食べてみるが……ただのパイだ。


「ごめんなさい。ワタシも姿を借りるのはよくないと思うんですけど、しっかり観察した人じゃないとちゃんと擬態できなくて」


 だから観察が済んだ今なら、ちゃんと擬態できるんです!


「なるほどー。それで同級生の姿を借りるのね」

「はい……誰の真似でもなく擬態するのはとても難しいんです」

「それは、できないわけじゃないのね?」


 ぐいっと、レティシアさんが身を乗り出す。

 え? なに?


「はい。でも、どうにもおかしくなってしまって」

「それじゃあ、今のエリヴィラちゃんの姿のまま、グローリアちゃんの耳をつけるなんてできるかしら?」

「ええっと、ええっと」


 言われた通りにやってみるが、これはかなり難しい。

 人間と尾持ちでは体の構造が違うのだ。


 観察と設計をしっかりすれば別だが、こんなに急いででは……案の定うまくいかず……恥ずかしいことになった。


「うーん。ただ足すだけじゃおかしなことになるのね」

「はいー。両親は自分だけの人間の姿を作ってますけど、ワタシはまだできてなくて……皆さんに迷惑かけてますぅ」

「自分だけの人間の姿か。できるといいわね」

「はいー」


 本当に。

 自分だけの姿があれば……

 みんなに疎まれることも減るだろう。


 それに、かわいい姿があれば生存率も上がる。

 スライムと言う魔法に脆弱な体で、魔法使いが支配する時代を生き抜くためには、かわいいという武器を有効に使うしかない。


 かわいい外見に、体に叩き込んだかわいいしぐさや口調。

 それらがワタシを助けてくれる……はず。


 かわいい、かわいい、かわいい、かわいい。

 不本意でもかわいく、媚びて、生き抜く。


 とはいえ、ワタシに叩き込まれたかわいいは、親世代のかわいいで時代遅れた。

 新しい、今のかわいいを学ばなければいけない。

 だから……


「マリオンちゃん、協力するわ!」

「はえ?」

「マリオンちゃんが自分だけの人間の姿を作れるよう、私が協力するわ!!」

「い、いいんですか!?」

「ええ、できることならなんでも!」


 だから、ワタシはこの言葉に乗ったのだ。


 自分だけの姿が欲しいのは本当だ。

 だけど、本当に欲しいのはレティシアさんが持っている“かわいい”だ。


 ワタシはそれが欲しい。

 生きていくために。


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